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剥製屋事件簿<山わらわ>  作者: 仙堂ルリコ


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2/2

橋の上で

「えらいコトやんか。ひき逃げやろか?」

「わかりません。息して無くて……冷たいです」

「ユウト、すぐ行くで」

 薰は腰を上げた。


「橋の上に……死体?」

聖は、事態を把握するのに数秒要した。

 ビール1缶、日本酒1合飲んで、少々酔っている。

 悠斗を待ちきれずに2人で飲み始めていたのだ。


「セイ、山から行こう。県道側は警察車輌、来よるから」

「うん。俺たち、すぐ行かなきゃ」

 悠斗は橋の上で、死体の番をしながらパトカーを待っているのだ。

 聖はデスクの上の、車のキーを掴んだ。

 と、

 その手に、薫のごつい手が重なる。


「アカン、車は使えん、かった。飲酒運転で捕まるヤンか。」


 そうだった。

 2人とも、酒気帯びレベルを超えている。


「セイ……走って、行こか」

「どっちから行く?」

 山を抜けるか

 県道を走るか。

 どっちでも30分以上はかかりそう。


「ええい、まどろっこしい。……あ、そうや。長靴や、長靴どこや?」

 薰は茶色のモコモコしたジャケットを着ながら言う。


「外の物置にあるけど……でも、なんで長靴?……まさか、」

 薰はシロと一緒に外へ。

 聖は白衣のまま、懐中電灯握って後を追う。

 薰は、長靴に履き替えている。

 

「セイ、先行くで」

 吊り橋を渡らず川へ駆け下りた。

 (真っ暗なのに)獣のように敏捷。

 

 聖は懐中電灯で先を照らしながら付いていく。

 シロが、先頭。

 河原が途切れると、浅瀬を先導してくれる。

 途中、パトカーのサイレンが聞こえてきた。

 トラの吠え声も聞こえてくる。

 寒さで急速に酔いは醒める。


 15分程で、悠斗の待つ橋の下に到着。

 サーチライトの眩しい光が出迎えた。


「違います、アレは熊じゃないです。自分が呼んだんです、結月さんです。警察官です。後ろの、白いのは神流れさんです。川下の剝製工房の」

 悠斗の声。


「ユヅキ?……おーい、あんたは、ユヅキ、カオルか?」

 警察官らしき男が、こっちに呼びかける。


「そうです、けど」

 聖達は土手を這い上る。

 シロは霊園の方(トラの元に)に走っていった。


「ユヅキ、山でコレは着やんとき。熊と間違われてな、撃たれるで」

 長身の、グレーのコートを羽織った男が、薰のジャケットを摘まむ。

 半白髪でギョロ目。威圧感ある面構え。


「なんや、谷本さんやんか。お久しぶり」

 薰は親しげに話す。

 

 橋の手前、県道側に悠斗の軽ワゴン車と、パトカーが並んで停まっている。

 もう1人の警察官が、悠斗の車の中に居る。


 そして橋の中央に……、人が倒れていた。


「あっ、」薰は遺体に近づく。

 谷本が制止。

「近づいたらアカン。ユヅキ、触ったらアカンで」


 10メートル離れた位置からでも、もう生きてはいないと分かった。

  

 女は仰向けで、手も足も折れ曲がってはいない。

 黒髪のショートカット。

 痩せて小柄な女だ。

 年齢は……30代前半か。

 シロヒョウ柄のボアブルゾン。

 黒のロングスカート。

 白いショートブーツ。

 側に黒のバックバック。

 どれにも目立つ汚れはない。

 ……血は流れていない。


「身元は分かったんでっか?」

「それはな。鞄に財布も携帯電話も入ってたからな、」

 言って、所在なく側に立っている聖を見遣る。

 聖は、ここから先の話は聞いてはいけないのだと察した。

 欄干にもたれている悠斗の側へ移動。

 

 それでも、続く会話は聞こえてきた。

 刑事2人の声は、大きいから。


「綺麗な死体ですやん。病死でっか? 脳出血かなんか」

 薰は谷本に聞いている。

「解剖しな分からん。病気か転倒か薬物か……殺しか」

「殺し?」


「顎が固まって口が開けへん。硬直が始まってる。さっきに、お亡くなりになったんと違うで」


 現在時刻は午後7時18分

 午後6時5分には遺体は無かった(悠斗の証言)

 

 硬直の状態から午後6時5分以降に死亡したのではない。


「別の場所で死んで、ここに遺棄、でっか?」

「そうやで。事件やねん。しやからな、検死官、頼んだ」


「顎が硬直。死後2時間から3時間いうとこか、そうすると死亡時刻は午後4時から5時の間ですか?」

「しやな」


「……俺が見た女と、違うんやろか」

 薰は呟いた。


「お前、仏さん、見たんか? それ、早よ言わんかいな」

 谷本はカオルの肘を小突く。


「服装、体格はよう似てます。けど顔がね、ちょっと違うような気がします」

「仏さんになったら面変わりするもんやで。ほんで、どこで見た? いつや?」

 谷本は手帳を取りだした。

 

「楠本酒店。バス停のとこの。……4時15分です」

 薫は携帯の通話記録を見ながら答える。


「4時15分に生存。推定死亡時刻と矛盾は無いやんか。詳しゅう聞かせて」

「バス降りて、1人で酒屋に入って来ましてん。トイレを借りたい、言うて。白豹模様の服着た小柄な女が……あ、今思い出した。たしか白い帽子を被ってました」

「帽子か。そこらに無いけどな。……ほんで何を買うてた?」


「見てませんねん。自分が先に店を出たんで。トイレの方に行く姿を見ただけです」

 聖と通話中の出来事だった。


「付近に怪しい奴、おらんかった?」

「酒屋の駐車場に、車が1台……白のセダンで、大阪ナンバーで、えーと、ナンバーは『な5151』。店の中に、40台前半の夫婦と3才くらいの女児がおりました」

 順番にトイレへ行き、子供に菓子を選ばせていた。


「家族連れか。怪し無いな」

「まあそうです」

「何はともあれ、お前の証言で、死亡時刻も死亡場所も絞られる。酒屋を出た直後に、死体を遺棄した人物と接触したんや」

「知り合い、ちゃいますか?」

「顔見知りとは限らんで……イケメンに声かけられ、フラフラと車に乗ってしもた可能性もある」

 谷本は、聖と悠斗をチラ見する。


 谷本の側に、もうひとりの警察官が寄ってくる。

 小声で何か呟き合い。

 2人は悠斗の車の方へ。

 そして、悠斗に手を振る。


「桜木さん、ドラレコの確認済んだよ。……もう、引き上げてええで。じきに数台来るからな、悪いけど速やかに車、移動させて」

 

 聖は、第一発見者のドライブレコーダーをチェックするのかと、驚いた。


「ユウトが行きしなに橋を通過した時間、その時点で遺体が無かった事も、ハッキリしたんや。ユウト、お疲れさん」

 カオルはユウトの肩を揉む。


「ユヅキ、改めてシラフの時に話聞くで。酒屋にもワシが聴取に行くで」

 谷本は最後に言った。


「ユウトさん、薫を乗せて(県道から)行ってください。トラは俺が連れて行きます」 

 聖は、1人、歩いて霊園事務所を目指す。

 

 ……よりによってなんで橋の上?

 ……また女の死体、なんだ。

 

 あの橋は

 山田動物霊園の開業時に新しく造った橋だ。

 前は赤い小さな鉄の橋だった。

 グロい事件(橋の上に、女の首無し死体)のせいで心霊スポットになってしまった。

 それで、鈴子が新しい橋に付け替えた。

 

 せっかく、立派で綺麗な橋にしたのに。

 

 聖は

 女の死体に、関心も哀れみも今は湧いてこない。

 感じが悪いコトが起こってしまったと、

 ただただ不快だった。




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