表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剥製屋事件簿<山わらわ>  作者: 仙堂ルリコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/16

山の番人

「この板塀、前には無かった」

 マユに画像を見て貰う。


「随分高い……炭焼き小屋まで囲っているのね」

「『落ち着く迄は隠すように』って獣医に言われて造ったみたい。何を隠してるかって、モモタロウだよね、やっぱ、生き返ったんだ」

「……そうみたいね」

「病院で死亡診断されてるんだ。生き返ったなんて知れたらヤバイよ。誰かに見られたら大騒ぎになっちゃう」

 聖はハイテンション。

 マユは画像に見入っている。


「セイ、鈴森さんはモモタロウ君を知っていたんじゃない?」

「どうかな。往診の送迎だけで、診察には立ち合わないだろ」


「会ってなくても、話は聞いていた気がする。……最初から」

「最初から?」

「ええ。獣医さんが最初にモモタロウ君を診たときから」

「……有り得るか」

 呪術使いの老人と、テレパシーしてしまう霊能力者。

 話が通じ合いそう。 


「鈴森さんは誰にも話すつもりは無かった。けど、セイが関わってしまっている……さりげなく、どうなったか知らせてくれたのね」


「あの子がまた蘇ったと」

「ええ。蘇って……もの凄いコトになっていると」

「?」


「ここに紐が掛かっているわ」

 マユは画像を拡大する。

 縦板と横板が重なる位置に黒い紐が見える。

 更に拡大する……。


「これは編み上げブーツを干してるんだ。靴紐を結んで板に引っかけて。それが何か?」

「矢馬さんやレオ君のにしては……随分小さいね」

 板と板の隙間から革のブーツが見えている。

 大人用では無さそう。


「モモタロウのブーツか」

 聖は目尻を下げる。

 無事な姿を、はっきり見たような気がして。


「……ええ」

「買ってもらったんだな。雪道を歩きやすいように、」

 あれ?

 モモタロウが歩く姿をイメージ出来ない。

 あの子は這っていた。

 それか、レオが抱いていた。

 

 いや、でも、ブーツがあるんだ。

 今は歩けるのか?


「両足で、歩いているようね」

 両足?

 改めて写真のブーツを確認すれば

 確かに両足揃っている。


 もし片方しか履いていないのなら

 こんな風に干しはしない。


「今は両足……あ、義足か」

 しかし

 医師を通さないと幼児の義足は作れない。

 どうやった?

 もしや<呪術使い>が作った?


「義足では無いと思うわ」

「じゃあ、何?」

「自己再生じゃないかしら」

「再生? 欠けた足が生えてきたのか……トカゲやプラナリアみたいに?」

 まさか、そんな、とは思わなかった。

 心停止から2度も蘇った身体だから。

 何が起こっても不思議では無い。


「獣医さんは、足の再生が始まったのを診たのね」

「うわ、本当にそうなら、ますますヤバイ。絶対隠さないと」

「『落ち着く迄は』って、足がすっかり出来上がるまでは、絶対人目に触れないように、そういう意味だと思う」

 

「それにしても凄いや。全部、黒い猪が授けた力なんだろ。生き返ったのも足が生えたのも」


(モモタロウ君を助けたのはイノシシの意志でしょうね)

 とマユは言っていた。

 猪は吉野の山神のモノ、だとも


「多分、そうね」

「猪がモモタロウを助けたのは、山神の手下にする為?」

 山神の力が及ぶエリアのみの存在では?

 だから、里へ下りたら死んでしまう。

 

 山に居る限り、生きていられるなら

 死んでしまうより、ずっと良いのだけれど。


「セイ、『手下』は、ちょっと違うと思う」

「じゃあ何?」

「『山の番人』でしょうね。猪がスカウトしたの。素質があったから」

 マユは微笑む。

 山の番人?

 何だか知らないが、

 ソレは素質が無いとなれないらしい。


「どんな素質?」

「山神の好みが大きいわね」

「……好み、なんだ」

「吉野の山神サマの好みは分からない。野生オーラは必須だとは思う」

「野生オーラ? それってどんなオーラ?」

「山の獣たちを惹きつけるオーラよ……人間にだって好かれるわ。ごく稀に、恐怖を感じる人もいるけど」

「そうなんだ……長井は、もしかしたら怖かったのかな」

 理由は無いのに、ずっと息子が恐ろしかった。

 恐怖はやがて妄想になった。

 息子は悪魔だと。


「特別なオーラのせいで親に殺されて山神の元へ来た。……運命ね」

「この先モモタロウはどうなるのかな」


「大きく強く育って、山の番人になるんでしょ」

「そっか……ところで山の番人って、何する人」

「番人は、番をする人でしょう」

 マユは(はは、は)と笑った。

 聖もつられて笑う。


 モモタロウが無事ならそれでいい。

 矢馬とレオが、あの子を守っているのだ。

 もう心配しなくていい。


「セイ、縁があればまた会えるわよ」

 マユが

 また言った。



 翌日から晴れた日が続き

 梅は満開。

 聖は

 心地よい梅の香りに誘われて

 早朝、河原に降りた。


 川面がキラキラしているのを

 ボンヤリ見ていると

 ラジオ体操でもしたくなる気分になる。


「なんて清々しくて、静かなんだ」

 あれ?

 なんで静か?

 川の音が……聞こえない。

 鳥のさえずりも、無い。


 と、その時。

 吊り橋の下に誰か居るのを発見。


 若い女だった。

 小柄。

 黒髪ストレートのショートボブ。


 白地にアヤメ柄の浴衣。

 紫の帯。

 季節と場所に合わない格好。


 ヒトではないのかと、なんとなく思う。

 朝っぱらから幽霊、だと。


 幽霊はしずしずと川に入っていく。

 雪解けの後で水位は高い。

 川の中央は2メートルを超える深さ。


 幽霊にちがいないけどスルーしにくい。


 生身の人に対峙するように

 走りより声を掛けた。


「ダメですよ、死ぬつもりですか?」

 と。

 女は顔を上げた。

 丸顔

 目も鼻も小さい。

 既視感がある顔立ち。


「見逃してえな、死なせてえなあ」

 泣きながら女は言い

 浅瀬に膝を付いた。

 見上げる顔に

 やっぱり見覚えがある。


「ケン坊とこ行きたいねん、この川に流れたらケン坊と一緒のとこに行けるんやろ」

 聖を見据えて捲し立てる。


 ……酒屋のバアちゃん?

 若い女は楠本酒店の店主の面影があった。

 首の横には見慣れた幼児の頭部。

 川で死んだという子供の霊が憑いている。


「あの子がおらん世界に生きたくない。頼むから死なせて。なあユキさん、」


 ……ユキさん?

 幽霊は祖父の名(雪)を呼んだ。

  

「坊やは成仏してない、みたいですね」

 聖の口が、勝手に喋り出した。


「成仏してないって……えらいことやんか。はように死んだのが悔しくて怨霊になったんやろか?」

「恨んでいる顔じゃ無いですね。幼すぎて、死んだのも分かってない」

「え? ユキさんには、ケン坊が視えてるの?」

「背中で眠ってますよ。……心地よさそうな穏やかな顔です」

「まあ!」


「貴女が生きている限り、この山に居る限り、ケン坊と一緒です」

「生きている限り、ですか?」

「先はね、すごーく長いですよ」


「ユキさんが言うんやから、ホンマやねんな。……ユキさんは、『山の番人』やもんな」

 若い酒屋のバアチャンは、

 眼を閉じ、安心したような笑みを浮かべ……消えた。


 ザーザー。

 川の音で我に返る。


「な、何だ、今の」

 死んだバアちゃんが、

 数十年前の姿で化けて出た?

 それでもってジイちゃんの霊が俺に取り憑いたの?


 いや違う。

 今視たのは数十年前に実際に起こった事ではないのか……。

 自分がタイムスリップしたのかも。

 タイムスリップなんて信じられないけど。


 あ、それも変。

 タイムスリップなら自分は見物人のポジションの筈。

 ジイちゃんと一体化は変だろ。


「やっぱり俺か。似てるから、間違えられたんだ。……あれ? ばあちゃん、『山の番人』とか言ってたような……ジイちゃんが、山の番人?」


 考え始めて、やめた。


 梅の香りにボーッとして

 瞬間立ったまま寝てしまっただけ。


 生々しい白昼夢だったと

 自分に言い聞かせた。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
素敵、でもただ甘くない。 ルリコ様のご作品のかっこよさ^_^
完結おめでとうございます! 山がどんどん身近になっていきますね。というか、神様的な何かが身近になってきている感じ? 山の番人って一度に一人だけとか制限あるんですかね?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ