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戻らない。

これは、本当にあった悲しき恋の物語。


あなたは、日頃から大切な人に直接言葉を贈っていますか?

今から伝えるのは、自分の中で大切で特別な存在になっていく人に——直接言葉を贈らず、突然の別れを迎え——今も後悔の念で、時折涙を流す女子生徒のお話です。

今日もわたしは、自分の布団で体を休める。

体が重い。頭がクラクラする。

でも――立っているときより、横になっているほうが、すごく楽だった。

朝早く、母が学校に休みの電話を入れる音が、微かに聞こえた。



****** ****** ******


あれから、随分と寝てしまった。

わたしの体はだいぶ楽になり、リビングに戻る。

時計に目をやると、午後の三時。皆の下校時間だ。


それから何十分か経った頃。家に一本の電話が鳴り響いた。


電話番号は学校の番号だった。

母が受話器を取り、電話に出る。


何を話しているのかは、分からなかった。

すると、保留ボタンを押して、ソファーで体を休めるわたしに母が言った。


「なんか、介助員の神田先生が、今日でいなくなっちゃうみたいだけど、最後に話すかって言われてる」


保留中の不気味にも感じる曲の中で、わたしの思考は停止した。

目の前が霞んで、頭の中が真っ白になりながらも、回答はイエス一択だった。


「…………お願いします」


そう答えて、わたしはソファーにへたり込む。

電話ではなす母の声も、何も聞こえない。

虚無の世界にいるようだった。


ただわたしは頭を抱えて、次の電話が鳴るのを待つしかなかった。



****** ****** ******


二度目の家の電話が鳴り響く。

わたしは電話の前に立ち、おそるおそる受話器を取った。


「も……もしもし」


「もしもーし。聞こえる~?」


電話越しに聞こえる、愛しいあの人の声。

その瞬間、堪えていた涙が、一気に流れてきた。


「き……聞こえます」


「大丈夫? そんな泣かないでよ」


「ご、ごめん……なさい」


神田先生の声を聞くのがあんなに好きだったはずなのに。

今はただ、胸が苦しい。別れの言葉を言うのが怖くて、嫌だった。


「佐紀、体調は大丈夫?」


「はい……元気になりました。だから」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”そう叫びたかった。


「明日、土曜授業があるしちゃんと学校行くんだよ」


神田先生と、わたしの最初で最後の約束。


「はい……! 絶対行きます。明日からまた学校に……」


嫌だ……! 嫌だ……! 神田先生のいない学校に行く意味なんてない。だけど、先生との最後の約束は絶対に果たしたい。


「神田先生、今まで……ありがとうございました。また――」


あっ……そっか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「また、逢えたら………さようなら」


「元気でね。佐紀」


「はい、失礼します」


これまでにない喪失感を味わいながら、電話を切った。

あまりのショックに、わたしはその場で泣き崩れ、学校に行かなかった自分を強く呪った。

本作は、実際に体験した出来事を元にしたフィクションです。

登場人物の名前や、地名・学校内の配置など一部の描写には、個人が特定されないよう配慮した変更を加えております。


実在の人物や団体を特定するような行為は、どうかお控えください。

あくまで一つの物語として、心に留めていただければ幸いです。


そして、「感動した」「共感した」などありましたら、下記の☆や感想、何度も読み返せるようにブックマークなども大変励みになります。読んでくれる皆さんが、僕は大好きです。

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