当たり前に。
これは、本当にあった悲しき恋の物語。
あなたは、日頃から大切な人に直接言葉を贈っていますか?
今から伝えるのは、自分の中で大切で特別な存在になっていく人に——直接言葉を贈らず、突然の別れを迎え——今も後悔の念で、時折涙を流す女子生徒のお話です。
こうして、通院で学校を休んだり、本当に体調がすぐれなくて、まれに学校を休んだりもした。
でも、ちっとも悲しくなかった。
いつでも学校に行ければ神田先生がいてくれる。
一学期が終わったあとの、夏休みだって最初は慣れなかった。けれど、気が付けば二学期が始まる日付まで進んでいた。
今日もわたしは学校へ行く。二学期の始まり。
勉強も頑張って、またあの人とお話がしたい。
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「またその図鑑見てるの?」
聞き慣れた呼び声。されど、いつ聞いても癒されて心の奥があたたかくなる声だ。
「今日も暇だったので」
その本は、一学期がはじまって少し経った頃。
わたしが、神田先生を目で追うようになって、初めてちゃんと会話ができた、風景写真集の図鑑だった。
「夏休み、どうだった?」
「家で……寝てました。宿題は、大変でした」
中身のない会話――でも、それが一番わたしの心を満たしてくれた。
それから一学期と同じように、朝練を終えて、神田先生が来るのを待って、挨拶を交わす。
そして、皆が帰ってくる前に沢山のはなしをする。ときには、写真集じゃなくて文字がズラリと並ぶ本を一緒に見たり。
神田先生を呼び止めて、少しだけ時間をもらったり。
……あの頃の私は、きっと少ししつこかった。でも——
神田先生は、嫌な顔ひとつせず、わたしのはなしを聞いてくれた。
年齢は最後まで分かることはなかった。「彼女はいるのか」とか「結婚はしているの」とか。
聞きたくても、知ってしまえばショックを受けるのが嫌だったから何も聞かなかった。
立場も、先生(介助員)と生徒の関係。
大きな壁がわたしたちの間にあったけど、それで良いとさえ思った。
だって、たとえ壁があってもこんなに学校で幸せを感じれるんだもの。
だけどこの幸せが、永遠には続かないことを、わたしはまだ知らなかった——
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いつからだろう。
最近体がだるくなることが多くなってきた。
毎日、早寝早起きは当たり前にできていた。
朝だって眠くてもご飯を食べて、歯磨きをして制服に着替える。
――普通の日常が、壊れゆく気配を感じていた。
今日も母の声で、目を覚ます。体を起こすと、いつもより変な感覚が襲う。
めまいと腹痛、吐き気が止まらなかった。体も重い。
——でもきっと大丈夫。
そう言い聞かせて、朝の身支度を済ませて家を出た。
しかし間違いだった。
三時間目の授業、ずっと体調が悪い。
そして、吐き気が喉まで到達したのを感じて、わたしは教室を飛び出した。
トイレの中で、思い切り吐く。
先週も同じ曜日、同じ時間割のときに吐いた。
もう、明日から神田先生と話すのは一度諦めようと思った。
その次の曜日から、わたしは学校を休んだ。
大丈夫、まだ二学期の中盤。三学期も来年もきっと神田先生と話せるから。
少しくらい休んでも、また声を聞けると過信した。
その決断が、大きな後悔をうむことになる。
あの日、彼女は最後の神田先生との時間をみずから手放してしまったのだ。
本作は、実際に体験した出来事を元にしたフィクションです。
登場人物の名前や、地名・学校内の配置など一部の描写には、個人が特定されないよう配慮した変更を加えております。
実在の人物や団体を特定するような行為は、どうかお控えください。
あくまで一つの物語として、心に留めていただければ幸いです。
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