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また明日。

これは、本当にあった悲しき恋の物語。


あなたは、日頃から大切な人に直接言葉を贈っていますか?

今から伝えるのは、自分の中で大切で特別な存在になっていく人に——直接言葉を贈らず、突然の別れを迎え——今も後悔の念で、時折涙を流す女子生徒のお話です。

一学期が始まって一か月、自分から神田先生に挨拶できるようになっていた。


朝練を終え、制服に着替える。以前なら本を手に取り、時間が過ぎるのを待っていただろう。

でも、今は違う。


制服に着替えたら、オープンスペースで自分の席に着き、扉をじっと見つめる。

透明ガラスに薄っすらと映る人影を見るのが趣味だったが、今はもうひとつの楽しみがある。


「神田先生! おはようございます」


もちろん、その人影が神田先生であること。

変って思われるかもしれないけど、先生を一番に見つけて、一番に挨拶するのが大好きだった。


「佐紀おはよう~」


その声ひとつで、わたしは“一日頑張ろう“と本気で思えた。



****** ****** ******


いつからだろう。

気付いたときには、下校するのさえ嫌がっていた。

一年のときは、学校が嫌いで授業中にだって抜け出したいと思うほど、嫌だった。

でも、今は帰るのが嫌だ。


支援学級では帰りの会を、それぞれの学年が個別で行い、下校していく。

そのときに、先生たちも着いてきてくれる。その中に神田先生もいて、それだけで幸せだった。


上履きを履き替えて、他の同級生たちが帰路に就く中、わたしは神田先生と話を続けた。

「帰ったら何するの?」とか「今日の晩御飯なんですか?」とか何でもない他愛もない話をする。


退屈になりがちな話も、この人となら飽きなかった。

学校にいられる時間が限られていることも、分かっていた。


「あんた早く帰りなさい」


腕時計を確認して、目を見開く担任の森下先生。

何故かオネエみたいな口調で、わたしに言った。


「えぇ……もう少し話してたいんですけどぉ」


楽しい時間でも、辛い時間でも、子供みたいに駄々をこねた。


「あんた終電なくなるわよ」


「分かりましたぁ。今日は帰ります」


もちろん、そんな時間まで話し込んではいない。

言葉の綾というやつだ。


だから実際は、もう少し話していたかった。

帰りたくない。まだ神田先生と一緒に時間を過ごしていたい。

そんな気持ちが溢れ出そうになった瞬間、神田先生から思いがけない一言が飛び出した。


「じゃあ、また明日たくさん話聞いてあげるから、今日は帰りなさい」


それも、強い口調じゃない。柔らかい本当に優しい人の声。

まるで、わたしの心の中を覗かれたみたいだった。

心臓がドキドキする。その言葉は一番欲しかった言葉だから。


また今日の楽しみは、明日に取っておこう。


靴に履き替えて、昇降口の前に立って手を大きく振りながら、当たり前の別れの挨拶をする。


「神田先生、さようなら。また明日!」


「はい、さようなら」


「気を付けて帰りなさいよ~」


最後までオネエ口調だった森下先生。

神田先生の声も、しっかりとわたしの耳に届いていた。

電車での通学だったこともあり、駅のホームに向かいながらひとつ思った。


“また明日、学校へ行こう”

本作は、実際に体験した出来事を元にしたフィクションです。

登場人物の名前や、地名・学校内の配置など一部の描写には、個人が特定されないよう配慮した変更を加えております。


実在の人物や団体を特定するような行為は、どうかお控えください。

あくまで一つの物語として、心に留めていただければ幸いです。


そして、「感動した」「共感した」などありましたら、下記の☆や感想、何度も読み返せるようにブックマークなども大変励みになります。読んでくれる皆さんが、僕は大好きです。

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