第4話 学園、陥落。
「改めまして城ヶ崎結衣です。兄さんと同じクラスでお世話になります♡」
クラスメイト全員に丁寧に挨拶をしていた。
セーラー服に、腰まで届くゆるやかな黒髪。
肌は白磁のように透き通り、笑えば桜の花が咲いたよう。
そして彼女が一歩進むごとに、なぜか天井の蛍光灯が眩しくなる謎仕様。
──いやそもそも、なんでお前がここにいるんだよ!学年違うだろ!
春は机に突っ伏しながら絶叫した。
が、そんな兄の心情とは裏腹に、クラス中は沸騰寸前。
「えっ…え!?妹!?実妹!?」
「同じ遺伝子なのに、どうしてこうも差が…?」
「一瞬で推し変した」
「っていうか、理事長推薦て何?バックどこ?ていうか経営アドバイザーって何!?」
「えーと、皆さん、結衣さんは先日、うちの学園を“持株会社方式”で買収されました」
担任のさらなる爆弾投下。
春「えっ!?お前また何してんの!?」
結衣はにっこり微笑んで答える。
「兄さんともっと一緒にいたいなって思ったら、気づいたら株主総会開いてたの」
──恋の延長線でM&Aすな。
その日、教室は騒然としながらも、誰もが結衣に夢中だった。
昼休み。
春が購買でパンを買おうと並んでいると、校内放送が鳴る。
「購買の特製あんバターパンは、本日より城ヶ崎結衣様の専用予約品となりました。ご容赦ください」
春「結衣ぃぃぃぃ!せめて兄の口には入れてくれ!!」
我が学園の人気商品の買い占め…恐ろしい…
放課後。
教室では、結衣の周囲に数十人が集まっていた。
「結衣ちゃん、投資の話もっと聞きたい!」
「恋愛と金融の共通点ってなんですか!?」
結衣はうんうんと頷きながら語る。
「大事なのは、未来への信頼とポートフォリオの分散。恋も資産も、ひとつに偏るとリスクが高いです♡」
──って、恋人は俺だけにしてくれ!!!
春はもはや叫ぶ体力もなく、机の上で倒れていた。
「お兄さん、最近疲れてるね」
「お兄さんも結衣ちゃんに癒されたいなぁ」
「お兄さん、結衣ちゃんに全財産預けちゃえばいいのに〜」
学園中の女子まで結衣派になり始めていた。
そして帰り道。
校門の前で、春は結衣に尋ねた。
「なあ…お前、どこまでやるつもりなんだよ…」
結衣は少しだけ頬を染めながら言った。
「兄さんが“結衣が必要だ”って思うまで、かな?」
「……なっ」
「だって兄さん、最近全然かまってくれてなくて可愛くないんだもん」
春は顔を真っ赤にしながら、鞄で顔を隠した。
──こうして、学園は完全に結衣のものになった。
……けれど、それでも結衣の世界の中心にいるのは、たった一人だけだった。
「兄さん、明日のお弁当は何がいい? 黒毛和牛? それとも金塊?」
「お弁当で金を選ばせるなああああああ!」