第3話 兄のためなら隣の席に無理やり転校してきました
──そして翌朝。
春は教室のドアを開けるなり、ため息をついた。
「今日こそは、静かな一日になりますように……」
その祈り、0.2秒で散る。
ガララッ!!!
「兄さんっ♡」
セーラー服姿の城ヶ崎結衣が、ドアをぶち開けて突入してきた。
まぶしい黒髪ツインテール。
ぱっちりした目は宝石のようにきらめき、睫毛は蝶が羽ばたくほど濃く長い。
白く透ける肌に、くるくると変わる笑顔。
少女漫画の表紙から飛び出したような、完璧にして天上可憐な妹。
教室が──凍った。
「……天使?」「いや天災か?」「なんで存在してんのこの子……」
「かわいすぎて情報処理できない……バグった……」
春「おいぃぃぃ!?なんでセーラー服!?制服合わせてる!?」
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教師「えー、本日から1年A組に転入してくる、城ヶ崎結衣さんです。席は……兄の隣で」
春「忖度が!!公私混同がァァァ!!」
結衣「えへへ……これで毎日、兄さんを隣で観察できるの♡」
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休み時間。
春の筆箱にはいつの間にか、妹の自撮りステッカーがぺたぺた貼られていた。
「誰がこんなことを!?」
「本人直貼りだって」
「妹様が朝6時から教室に忍び込んで貼ったんだよ」
春「行動力が実業家すぎんだよ!!」
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放課後。
妹が言った。
「兄さん♡ 校内に私専用の“妹ルーム”作っちゃった!」
「どこに……?」
「図書室の上の旧放送室♪ 今日から“お兄ちゃん研究所”として使うわ!」
春「学園ラブコメにホラー研究施設できてる!!!」
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校内放送:
「明日より“兄愛週間”につき、全校生徒は兄について作文を提出すること。最優秀者には賞金100万円と“兄ハグ券”を授与します」
春「妹のせいで学校が身内イベントサークルみたいになってる!!」
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結衣(頬を染めてにっこり)
「これで毎日、兄さんと同じ空気を吸える♡ 幸せ♡」
春「俺の人生、完全に“妹様の理想ルート”を歩まされてる気がする……」