第1話妹が大企業を買収してきたんだが、俺のせいで
「兄さん、今日コンビニでバイト中、レジ打ちミスしましたよね?」
下校途中、家に帰ると、妹がソファで待っていた。
パジャマのまま、紅茶を飲みながら。足を組んで。すっごく優雅に。
なんか目が笑ってない。
「……え? あ、うん……そうだけど。ジュース1本多く会計しちゃって、店長にちょっとだけ怒られた」
「ふむ。大変でしたね。それ、非常に不愉快です」
そう言って苛立ちを隠すこともなく足を小刻みに揺らす
「いや俺が悪いの! 店長普通! キレないで!」
妹・結衣は一言、「わかりました」と呟くと、スマホをすっと取り出した。
画面には、なぜか“某コンビニ本社”の役員一覧が表示されていた。
「ねぇそれなんのアプリ?!」
「兄さん守護用のM&Aアプリです」
……そんなのA⚫︎⚫︎ Storeにあったか?
「というわけで、ちょっとだけ席外しますね。役員会議に参加してくるので」
そう言ってパジャマのままリビングから2階の自室に戻っていく
「待って。いやマジで待って」
その数時間後、俺のスマホにニュース速報が届いた。
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【速報】全国展開のコンビニチェーン『オタマート』、突如買収
新オーナーは女子中学生投資家? 制服が“兄さん命♥パーカー”に刷新との未確認情報も
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俺は震える手で、リビングの扉を開けた。
そこにいたのは──
「兄さん、これ、オーナー限定デザインの新制服です♪」
──ピンク色のパーカーを差し出す、にこにこ笑顔の妹。
背中にはこう書いてあった。
『世界一かっこいい兄さん♥』
「やめろォォォォォ!!」
「兄さん、パーカー着てくれないと、オタマートの株価に影響出ますよ?」
「いや関係ないだろ!? てか、株価ってそんな制服主導で動くもんなのか!?」
「はぁ……では、おさらいしておきましょう」
そう言って、妹はまた紅茶を一口すすってから、妙に芝居がかった声で言い放った。
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「わたく、城ヶ崎 結衣 中学2年生。推定IQ200オーバー、日経平均を操る少女投資家にして、“兄さん保護機構”会長です。好きなものは兄さん、嫌いなものは兄さんを困らせる社会構造です♥」
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「誰だよ!? 昔の俺の知ってる結衣はもっとこう、ポテチ食べながらアニメ見てたよな!?」
「その妹は5年前に“覚醒”しました。では兄さんも自己紹介どうぞ」
「え、俺もやんの!?」
「はい、どうぞ。カメラ回ってます」
気づけばリビングに照明とカメラがセットされていた。いつの間に。
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「えー……俺、城ヶ崎 春 高校1年。ごく普通の男子高校生。好きなものは寝ることと、甘いものと──」
妹の視線が刺さる。
「……えー、好きなものは妹です。嫌いなものは、妹が社会的地位を駆使して俺を甘やかしてくることです。ほんと、やめてください」
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「ありがとうございます。ではこの映像、今夜の“妹命YouTubeチャンネル”にアップしておきますね」
「だーかーらやめろおおおおおおおおおお!!」