王子様との出会い
馬が前足をバタつかせ、私は、馬から落ちて地面に叩きつけられた。
その時だった、何が起きたのか、意識がはっきりせず、自宅の茶色勉強机の足をみていた。
ようやく、現実が追いついてきて、落馬する夢を見てことを理解した。
それと、同時にスマートフォンにセットしたアラームが鳴っている。
「ぐわぁ、ぐわぁ、ぐわぁ」と、不快な音で私の朝が始まった。
ベットの脇にあるスマホのアラームを切り、時計を見て私は慌てる。
朝から、図書館で友達のなっちゃんと勉強する約束をしているからだ。
2階から1階に飛ぶように降り、リビングの扉を開けると、そこには父が、ソファーに座っていた。
「おはよう。まなみ。2階からすごい音したけど、ベットからまた落ちたか?」
と、お父さんが笑って言う。
「おはよう。時間ないの」と、軽く私は父に挨拶しテーブルに置いてあったパンを食べる。
父はそんな様子を見て「これは、近寄らんほうがいいな。まなみの暴れ馬だ」と笑っている。
忙しい朝の時間に、落ち着いている父をみて、私だけ忙しいことにイライラするが、そんなことを考えている時間もない。
リビングから、洗面所に向かい洗面台の鏡をみて「うわ〜、わたしの寝起きの顔ひどいな〜」と思いながら髪をセットし、顔を洗い、歯を磨き、荷物を持って「いってきます〜」と玄関を出た。
「おい、今日は雨ふるぞ。傘持ってけ」と父が言う。
「カバンに折り畳み傘があるからそれ使う」と、戻ることが億劫なので、カバンを確認せず、急いで図書館に向かう。脳裏に、あきれた父の顔が浮かぶ。
その時だった。
ゴローンと稲妻が近くに落ちた。
それにあわせて、ざーっと雨が降ってくる。
とりあえず、近くにあるコンビニの庇の下に逃げ込んだ。
あわてて、カバンの中を漁り、折りたたみ傘を探す。
私は異変に気が付き「おかしい、ない。ありはずの傘がない」と、冷静に考え、学校に置きっぱなしにしていることを思い出した。
仕方がないので、雲の状態を確認し、幸い、西の空は晴れている。そして、カバンからスマホを取り出して、雨レーダーをみた。5分も経てば、雨が止み、ラッキーに思う。
少しばかり、雨宿りし、その事を友達のなっちゃんに連絡しようと思ったとき「ぱっから、ぱっから」と、聞き慣れない音がする。
スマホの画面から、駐車場の車止めコンクリートに視線が移る。
「なんだ?見たことのない黒い蹄?」と、徐々に駐車スペースに顔を上げ、足から繋ぎ胴体に目がいった。
そこには「白馬」に乗った王子様がいた。
その姿は、この世のものとは思えず純白であった。
と、同時に雨は止み、雲は晴れ、白いタキシードは光に照らされていた。
王子様が言った。
「やぁ、迷える子羊ちゃん」
こいつ、自分が変態であることに気がついていない。
コンビニの駐車場で、馬に乗って買い物にくる馬鹿がどこにいる。
そんな私の感情とは裏腹に「やぁ、迷える子羊ちゃん?」ともう一度言う。
ああ、変な人に絡まれてしまった。どうしよう。
と、思ったのも束の間。
彼の顔を見た瞬間。自分でも思わない言葉が飛び出した。
「わたしを恵みある大地の楽園へ連れて行って」
私は、急に、血流が上がり、顔から火を吹きそうだった。
そんな私と裏腹に王子様は、何も気にしない素振りで
「なんなりとお姫様」と言い終えると馬が、ブルブルと鼻を鳴らした。
馬が私に近づき、王子様が手を差し伸べた。
私は、その優しい手を取った。
ああ、私はきっと夢を見ているんだ。とても幸せな夢。
手を取ったことすれもいまでは覚えていない。
私は、気がつけば王子様の後ろに乗っていた。
王子様は「足を少し上げて」と言ってくる。
王子様も足を上げ、私の手を自分の腰に置くようエスコートする。
ああ、なんて素敵な王子様。私は王子様に見とれつつ、足をあげると、馬が羽を広げた。
「もう、足を降ろして大丈夫だよ。あまり強く羽に体重をかけないでね。馬がいたがるから」と、言って私は足をおろした。けど、彼の腰にある手は動かさなかった。
馬は、羽をバタつかせ次の瞬間、宙に浮いた。
雲の間から覗く、天使の梯を目掛け飛んでいく。
気のせいかもしれないが、彼の背中から「音楽」が聞こえた。
「Nessun dorma!(誰も寝てはならぬ!)Nessun dorma!(誰も寝てはならぬ!)
Tu pure, o Principessa,(それでもあなた、お姫様は)nella tua fredda stanza(あなたの冷たい部屋で)
guardi le sole e luna che tremano d'amore e di speranza… (愛と希望に震える太陽と月を眺めるのです)」
しかし、これは「落馬のはじまりだった」
お姫様は、残念ながら、それを知る術を持ち合わせていなかった。