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第7話『優先順位』

 結局、部員全員とスパーリングと言うか、稽古をした。


 一時間くらい過ごしたこの柔剣道場。


 もはやアウェイとは思えず、感覚的にはオレのホームグラウンドになってしまった。


「立花、待たせたな。帰るぞ」


 だが、オレは帰る。オレの本来の居場所はここじゃない。立花のボディーガードなんだからな。


 そして依頼主を怒らせるわけにはいかない。


「うん。帰ろ」


 立花の機嫌が悪くないことにホッとしながらも、自分のわがままに付き合わせた罪悪感が心を(さいな)む。


「悪かったな…… ちょっとボクシング部への興味が抑えられなかった」


 オレは心から立花に悪いと思っていた。もし負けていたら立花は面倒ごとに巻き込まれる事になっただろう。


 まあ、あのキャプテンじゃあ、たいした事は出来なかっただろうがそれは結果論だ。


「いいよ! 真田くんが楽しそうで、私も嬉しかったから」


「その……我儘を言った自覚はある。だから、怒ってもいい」


「え? 怒らないよ。だって、真田くん楽しそうだったし、それに……凄かったし」


 まあ、楽しかった……な。


「また、ボクシング部に行くなら、いつでも付いて行くよ?」


「え!?」


 意外だった。まさか、立花がこんなことを言ってくれるなんて、想像もしていなかった。


「なんか、真田くんって、コーチって言うか先生って言うか、偉そうにして指導してる姿、凄く似合ってた! ねえ、みおちゃん? はなちゃん?」


「うんうん。わたし、すっかり真田くんのファンになっちゃった。また付いて来てもいい?」

「あ、アタシは彼氏いるからファンにはならないんだけど……彼氏、渡辺くんの親友だからまた付いて来てもいいよ」


「渡辺……大弥、それにキャプテンの三上か。なんか楽しかったな」


「やりたいことがあったなら、死に物狂いでやるべきでしょ?」


「……優先順位がある」


「え?」


「やりたい事」


「ボクシングは?」


「2番だ」


「じゃあ、一番は?」


「お前」


「えええ!?」


「お前のボディーガードだ」


「あ、ああ……ボディーガード、ね」


「考えた。オレが楽しいのと、お前が悲しいのと、どっちが大事(おおごと)か」


「……」


「オレは、自分の楽しみよりも、お前が悲しまないようすることの方が大事だ。と、さっき気付いた」


「じゃ、じゃあ、私が嬉しくて、真田くんも楽しいと? 最高って事?」


「!? ああ、そうだな…… その通りだ」


「だったら…… だったら!」


「あの? 亜優ちゃん?」


「そういう話はわたしたちがいない所でした方がいいんじゃない?」


「と言う訳で、ここでバイバイだね~」


「明日またね~」


「あ、ああ」


「みおちゃん、はなちゃん……」


「晩御飯、おいしく作ってあげなね~」


「も~」


「亜優が牛になった『も~』だって~!」


「行こ、みおちゃん」


 参ったな……


「あ、あの」


「な、なに?」


「最近」


「え?」


「タンパク質が足りないような気がしてるから……」


「た、タンパク質!?」


「うん」


「そ、それって……?」


「筋肉をもう少しつけたくて……だから」


「あ、あ~筋肉ね~」


「肉料理か、豆腐料理を……食べたいかな?」


「うん。わかった。買い物して帰ろ?」


「ああ」



☆★☆ 一週間くらい後 守流のアパート ☆★☆



「なんか私たちが付き合ってるって噂が広まっちゃってるね?」


「ああ、予想はしていた事だが……いいのか?」


「いいんじゃない? おかげで変な奴からの告白とか減りそうだし」


「そうか……ならいい」


「ん」



☆★☆ 7月21日終業式 ☆★☆




「立花、おまえ今日出かける用事とかあるか?」


 オレの方からこう言う質問をするのは珍しいからか立花が少し戸惑った表情で問い返した。


「無いけどどうしたの? デートのお誘い?」


「いや、逆だ」


「え? 逆って?」


「お前を家まで送った後、俺はジムで動けなくなるまで筋トレするつもりだから、今日はボディーガードを休ませて欲しい」


「晩御飯は? 一緒に食べないの?」


「最近ずっと立花に晩御飯を作ってもらっている事はありがたいし嬉しく思っている。だが、親とか心配していないのか?」


「ちゃんと家族には真田くん家で料理の練習して一緒に食べてきてるって正直に言ってるわよ」


「はあ? 独り暮らしの男の家で二人っきりで毎日晩御飯って、正直に言ってやばくないのか?」


「大丈夫じゃない? うちの家族は普通に納得してるよ」


「そうなのか?」


「そうよ。でも、どうしても筋トレしたいって言うなら、今日は家にちゃんと帰るね」


「あ、いや……やっぱりいい」


「いいって、なにが?」


「ジムにはいかない」


「え!? どうして?」


「優先順位」


「あ、この間も言ってたアレ?」


「ああ。オレの順位がまた一つ落ちた」


「1位がボディガードで、じゃあ2位は?」


「お前」


「もう! その手は前に使ったでしょ? ちゃんと言いなさいよ」


「お前の笑顔」


「え~と……不意打ちにはならなかったけど? ちょっと嬉しいかも……」


「じゃあ、買い物して帰るか」


「うん!」


☆★☆ ☆★☆


「ねえねえみおちゃん……あれでまだ付き合ってないって言い張ってるのって全然説得力無いよね~」


「だね。わたしたちがまだ近くにいるって言うか、まだ学校の敷地内で堂々とあんなこと言ってるんですからね~」


「リア充爆発しろ~ってこういう事なのね~」


「おいおい、はなちゃんや。あんたは彼氏いるでしょ? しかも年下のイケメンが!」


「いるけど……彼、真田くんほど優しい言葉はくれないの」


「真田くんって、外見は強面だけど内面が優男(やさおとこ)だもんね……」


「もしくは天然たらし……」


「亜優ももうデレデレになってるって自分で気付いてるのかな~?」


「絶対気付いてるって! で、ちゃんと意識して真田くんを落としにかかってると思うよ」


「だよね~」






 そして明日から夏休み。






☆★☆ 立花亜優視点 ☆★☆





 家族……家族……か。


 私はまだ、両親がいないって事を真田くんには話せていない。


 似たような環境なんだから言っちゃっても良さそうなものなんだけれど……


 何となく言えていない。


 おじいちゃんもおばあちゃんも、真田くんの話は好意的に受け止めてくれているし、お姉ちゃんだって外見で苦労した経験からかイケメン嫌いで、自分の可愛さを疎ましく思っている。


 家族に、真田くんを紹介したいな~


 絶対に気に入られると思うんだけどな~


 真田くんって案外臆病だからな~


 素で正直に私を口説いているくせに


 口説いている自覚が無いと言うか、天然たらしとでも言うか……


 今度、名前で呼んでみようかな?


 守流……しゅりゅう。シュリュウ。


 なんか呼びにくいな?


 りゅうくん?


 しゅりくん?


 呼びにくいだけじゃなくて、なんか呼び捨てにもしにくい面倒な名前!


 もういいや。自然に任せる!


 夏休み中も出来るだけ会いに行くからね~

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