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第6話『同情、道場破り』

☆★☆ 放課後 柔剣道場 ☆★☆


 県立北高校にはボクシング部専用の場所と言うものは無い。


 柔剣道場の隅にリングがあり、サンドバックとパンチングボールがその脇に2つずつあるだけで、ダンベルなどの他の器具は柔道部と共用で使っている。


 顧問の先生にしてもそうで、柔道部とボクシング部の面倒を一人の先生が見ている。


 コーチやトレーナーなどもいない。たまにOBが遊びに来てコーチのまねごとをしてくれることもあるが当てにはできない。


 現在部員は6名。3年が2人で2年が1人。1年が3人と言った具合だ。


「へー! 小さくて狭っ。でもなんか楽しそうだな~」


 緊張感のかけらもなくオレがリング周辺を見まわしているとキャプテンの三上が道場に入ってきた。


「マジで来たのかよ……」


「たのもー! 道場破りっス!」


 他の部員も集まり、三上が部員に下手くそな説明をした。


「2年の立花に告白しようとしたら、変な奴に懐かれた。道場破りをしたいらしい。俺はもうあんまり関わりたくないんだけど仕方なく試合する。おまえら準備手伝え」


 オレ、別にアンタに懐いてなんかねーけどな?


「グローブだけ借りるよ」


 オレはそう言って16オンスグローブを手に取り、テキパキと装着する。


「三上さん? あいつ、グローブの扱いが妙に手馴れてませんか?」


「そ、そうだな……」


 オレは普段、グローブの紐を一人ででも歯を使って結ぶことが出来るのだが……

 なんとなく汚いような気がしたので


「立花、ここの紐を結んでくれ」


 立花に結んでもらう事にした。


「なんかよ、もう告白がどうこう言うような雰囲気じゃねーな?」


「も~、だったらもう関わらなくてもいいのに~」


 紐を結び終えた立花が不満そうに呟く。


 そう、これはオレのわがままだ。


 (くすぶ)っていたオレのストレスは、あの大学生3人組では晴らせなかった。不完全燃焼だった。


 だが、ここには6人もボクシングを理解している奴らがいる。


「へへ、紐、良い感じだ。ありがとな」


「ん~~~、絶対に怪我なんかしないでね」


「真田くん頑張ってね」

「ルールとかわかんないけど応援してるねー」


 こっちの準備は終わった。


「キャプテン…… あの悪人面、なんかレベル高い女子三人から応援されてるんっすけど」


「うるせえ! 黙ってろ!」


「お~~キャプテン荒れてるな~」


「そういえば最近、大弥に彼女が出来たって、勘違いした時もそうとう荒れましたよね」


「大弥は1年で部内最弱。キャプテンは3年で最強。なのに彼女いたことない。プライドとかズタボロなんじゃね」


「全部聞こえてるぞ! 準備できた。いくぞ。誰かゴングならせ、タイマー忘れるなよ!」


 カン!


☆★☆ 三上視点 ☆★☆



 アイツがある程度ボクシングが出来ると仮定して、まずは一旦様子を見る。


 ほう。フットワークはいい。全然ガードを構えないのが気にはなるが、アウトボクサーでスピード型なら別におかしな構えじゃねえ。


 距離を測るジャブ。ガードを上げたか。

 次はジャブの2連打! だが2発目は当てに行く!


 シッ、シッ!


 パンッ!


 なにッ!? 2発目のジャブに右でカウンターを合わせてきただと!?

 ジャブにカウンターって高等技術だと思うんだが……?


 左目が(かす)む。


 クッ、一旦距離を……ッ!?

 速いッ! 踏み込まれた? チッ、サイドステップで左へ、左へ。


 こいつッ、インファイトもこなせるのか!?

 ガードの上から押し付けるような連打でロープに詰められた!? ここでボディー……いや!


 な!上? フェイントだと? まさか!? 俺の技量じゃダッキングでしか躱せねえ!


 よし、逃げるぞ! だが逃げ道は右しかない…… そっちじゃジャブの弾幕を凌ぎ切れない!


 いや待て、オレはボクシング部のキャプテンだ。そしてこいつは素人の筈。つまり、右に逃げてもジャブの弾幕を浴びない可能性はある!


 だけど…… チッ、逃げ切れるイメージが出来ねえ。絶対に捉まる。嫌な予感しかしねえ!


 だったら、ここで、迎え撃つしかねえや!


 奴のガードの上からだってなんだってどうでもいい! 打つ打つ打つ! 押す押す押す!


 やべえ、一発いいのをもらっちまった。ふらつく。


 だけどリング中央だ、へへへ、押し返してやったぞ!


 つまり、コイツとはインファイトで戦うのが最適解だ! ならば


 突っ込め~!


 右フックを大きく踏み込んで距離を潰してそのまま短距離戦だ!


 だが…… そこで、オレの意識は途切れた……



☆★☆ 真田守流視点 ☆★☆



「た、楽しかった! 駆け引きも良かったし動きも早かった! どうも、有難うございました!!」


 伸びているキャプテン以外の、全部員が茫然としている。


 気まずい沈黙があたりの空気を包む。


 だが、一人だけ、すぐに立ち上がった漢がいた。


「先輩、すみません! オレにも1ラウンドだけ時間もらえないっすか?」


「お前、1年か?」


「押忍! 1年2組『渡辺大弥(わたなべだいや)』です!」


「体つきは良いが……1年生じゃまだ基本(フットワーク)も出来てないだろう?」


「はい! 出来ていないっす。しかも自分、部内で一番弱いっす」


「ふむ…… 手加減しても怒らないか?」


「もちろんです! むしろ手加減なしで一瞬で終わったら淋しいっす」


「よし」


 コイツは良い。楽しめそうだ。


「リングに上がれ」


「あれ? 真田くんって部外者なのになんかもう偉そうになってるよ? 良いのかな」


 うん。立花の言う通り。実はオレもそんな疑問を感じてた。


「渡辺と言ったな? まずは好きに打ち込んで来い」


 オレは防御と回避に徹する。


 ジャブジャブストレート。ワンワンツーってやつだな。


 ほう、真っ直ぐないい拳だが


「大振りするな! 脇を締めろ!」


 カウンターを寸止めで顔に向け、隙だらけだぞと拳で語る。


 渡辺はすぐに矯正する。良い態度だ。俺は好きだなこういう奴。


「力を入れ過ぎだ、30%の力でも50のダメージを与えられる。だが、100%の力では当たらない上に当たったとしても100のダメージにはならないぞ!」


「はいッ!」


 シッ、シッ、シッ!


「振りかぶるな! 序盤は今ある手の位置からパンチを突き出せ」


「はいッ!」


 シッ、シッ!


 呼吸音だけが響く。コイツ、筋がいい。ボクシング以外に何か格闘技をやっていた気配がする。


 2分程は好きに打ち込ませたがそろそろスタミナ切れか?


「今度はオレからも攻めるぞ、目を逸らすなよ」


 防御や回避は技術以前に、目を逸らさないと言う精神的な強さが必要だ。コイツに対しては言う必要はなさそうだが、敢えて言語化してハッキリと伝える。


 ジャブ、ジャブ、ジャブ


 わかりやすいようにオレも『シッ、シッ』と呼吸音を出す。


 マジの喧嘩では絶対にやらない愚かな行為だと思ってはいるが、指導する立場で考えると必要な事なのかもしれない。などと今、そう思った。


 あ、コイツ、防御メッチャ下手くそ。


 攻撃の手を緩める。


 オレは右手を下げ、ボディーフックを打ちやすい位置に構えておきながら、顔面に左ジャブを打つ。


 まともに入った。


 フェイントにも弱いのか~ でもいい。面白い!


 オレはこいつを強くしてあげたい!


 今までのオレは、ただ喧嘩がしたかった。死合をしたかった。


 だが、そんな欲求以上に今、こいつを強くしたいと言う新たな欲求が生まれた。





☆★☆ 立花亜優視点 ☆★☆




 暴力って怖いし嫌いなんだけど……


 真田くんの暴力ってどうしてこんなにも怖くないんだろう?


 私の為に戦ってくれているから?


 多分違う。


 なんだろう…… 戦いながら、言葉を使わずに拳で会話をしているって言うのが正解……


 って私、何考えてるんだろう。そんなわけないよね?


 でも、何かが違う。


 戦いながら、何かを聞いていて、何かを教えている。そんな気がする。












 ただ、表情がメッチャ悪人顔……


 逆になんか可愛い? 

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