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第5話『ボクシング部との出会い』

 立花とオレは小学校も中学校も違う。


 高校で初めて会ったクラスメイトだ。


 だから立花にはオレの事を知ってもらいたくて、子供の頃から最近までの話を簡単にだが話してみた。


 喧嘩を売られまくった小学生時代。

 喧嘩相手がいなくなって孤独になったが、祖父と空手と読書の時代。

 ボクシングジムでフィットネスし始めてからの心情。


 オレはボッチだけど、そんなにひねくれた性格にならなかった事を『祖父』と『読書』のおかげだと説明した。


 立花はオレの話をちゃんと聞いてくれた。



☆★☆ ☆★☆



 立花はオレの停学中、長い時間では無いが、毎日放課後に寄ってくれた。


 立花が時間を気にしないように、オレも停学中は午前中にジム通いを済ませておいた。


 オレは立花が帰る際、家まで送り届けるようになった。


 どうせ停学が明けたら、毎日ボディーガードするんだ。たとえ知り合いに見られたとしてもそれは、早いか遅いかくらいの違いしかない。


 停学期間最後の土日は反省文で苦労したが、あきらめの境地で「クラスメイトを助けることが出来た事」を長めに書き、「やり過ぎた事と手加減の仕方が悪かった」と書いて終わった。


 立花がオレの反省文を読んで笑ってくれたのは、喜んでいいのか悲しめばいいのか迷った末に喜ぶ事にした。



☆★☆ ☆★☆



 停学が明けた。


 登校後、真っ先に職員室に呼び出され、担任に課題を求められた。


「良く来たな。今日からまた励め」と言われた。


 もっと怒られるとか叱られるとかすると思っていたが、笑顔で優しく言われてちょっと戸惑った。


 教室に入ると、立花の友人である『雪村さん』と『川原さん』に声を掛けられた。


 立花以外の女子に話しかけられたのは初めてだったので驚いたが


「亜優を助けてくれたんだって? 全部聞いたよ~。根掘り葉掘り」


 と言われた事から、立花が口下手なオレの立場と言うか居心地を良くするために気を使ってくれた結果なんだろうなと理解した。


「今日のお昼休みからはわたしたちと一緒にいてくれるんでしょ? よろしくね」


 段取りもいい。立花には感謝しか無いな。オレを恐れないで会話できる女子が一気に二人も増えた。


「ああ。よろしく頼む」


 素直に頭を下げる俺に、立花が

「真田くんの事、凄い優しい人って、ついつい自慢しちゃったの」

 と、悪戯っぽい声と表情で言いながら、肩で体当たりしてきた。


 ん? なんか今までと距離感が違う? 家で会ってた時の立花よりもなにか近いような……


 そんな疑問は一旦置いて、オレは一週間ぶりの授業の準備をした。



☆★☆ 昼休み ☆★☆



 立花の友人グループにオレが混ざった事で、予想通りに教室が(ざわ)めいた。


 オレは気にしない。立花さん達もあまり気にしていないようだ。


「真田くんが休んでる間、結構みんな真田くんの事を気にしてたんだよ」


 雪村さんが凄く普通に、当たり前のように話かけてくれてなんか感動した。


「悪い噂とかじゃねえだろうな」


 つい、露悪的な言葉が口を()く。


「全然! だって亜優が『真田くんって凄い優しくてメチャメチャ紳士なんだ』って言いふらしてたから」


 口に食べ物が入っている時じゃなくてよかった。だってオレ吹いちゃったから。


「ブッフーー!? ゲホゲホ……」


 おまけに(むせ)た。


「だって、本当の事なんだもん」


 なんだこれ? なんなんだこの感覚?


 もちろん羞恥心MAXなのだがそれだけじゃない。


 心はフワフワしてこそばゆいし、嬉しいの最上級?


 嬉しいを超える単語や表現は無いのか?


「あ、そう言えば、真田くんのこのお弁当って、自分で作ってるんだよ? 凄いでしょ~ 独り暮らしだからねー」


 立花はさらに俺を持ち上げる。オレはもはや生きている心地がしない。一体、何がどうなっている?


「え~!? 凄い!」


「え? 独り暮らし?」


「あ、ああ。家から通うと自転車でも1時間くらいはかかるからな、祖父が大家やってるアパートを一部屋借りてるんだ」


「え? じゃあ、亜優って独り暮らしの男子の家に毎日通ってたの?」


「えへへ~そうなるね」


「よく食べられなかったね~」


「そう言う所が紳士なのよ」


「見た目は肉食獣なのに、中身は紳士?」


「ギャップ萌え~!」


 済まないが、会話の内容にもスピードにもついて行けん。


 そんな時だった


「立花さんっている? ちょっと話がしたいんだけど」


 ネクタイの色からして3年生か。立花に話ってやっぱあれしか無いよな。


 告白タイムか。



☆★☆ ☆★☆



「俺、3-1の三上。ボクシング部のキャプテンしてるんだけど知ってる?」


 立花は返答の代わりに首を振る。


「そっか~うちのボクシング部弱小だしな~」


 ボクシング? へ~? でも弱小なのか。


「ここじゃあ話しにくいからさ、放課後『柔剣道場』の裏に来てくれない? 出来れば一人で」


「私、今日は家の用事があるから行けない、というか行かないわ」


 お、立花が嘘をついた。用事なんかない筈。だって今日もオレん家に晩飯作りに来る予定……って、そうか、それが用事って事か。


「そう言わずにさ、ちょっとだけでいいからさ」


 そう言った後に表情が変わった。凄みを利かせた『睨み』だ。


 これはボディーガードの出番かもな。


「おい、三上」


 敢えて先輩などとは付けずに呼び捨てる。


「な、なんだ? 2年のくせに俺を呼び捨てだと?」


 睨みがそのままこっちに向く。


「弱小なんだろ? だったら呼び捨てで充分だろうが」


「てめえ、生意気だな。絞めんぞ!」


「どうぞ」


「チッ、調子が狂うな、俺は立花に用事があるんだ。すっこんでろや」


「オレはその立花のボディーガードだ。一週間前から雇われていてな、告白してきた勘違い野郎を追い払う仕事をしている」


「なにッ?」


「耳が悪いのか? お前を追い払うのがオレの仕事だと言った」


「放課後、テメエも来い! ぶっ飛ばして立花を貰ってやる」


「馬鹿か? そんな事言われて行く奴がいるかよ。それに、ぶっ飛ばしたいんなら今やりゃあいいじゃん? ボクシング部なんでしょ? リングでやろうぜ」


「い、今からか?」


「ああ。5時間目、一緒にサボってくださいよ」


「そ、それは、無理だ」


 あ~あ……やっぱ無理か~

 何とかなんねえかな~

 リングに上がりてえな~ 

 コイツと死合したいな~


「……なあ立花」


「な、なに? 真田くん」


「放課後……柔剣道場に行ってもいい? ちょっとだけ」


「えええ~~!?」


「もちろん立花は来なくてもいい。オレだけで行く」


 ワクワクが止まらない。


 もしオレが負けたら、三上は調子に乗って立花に手を出してくる可能性もある。


 だが、負ける気はしない。


「ただの道場やぶりだ。宮本武蔵だって、土方歳三だって昔やってたんだ。オレだってやってみたい」


「じ、じゃあ私も行く……怖いけど……」


「亜優? わたしもついて行くよ? 真田くんを応援するんでしょ?」

「いいね! アタシも行くー」


 なぜか、雪村さんと川原さんまで付いてくることになった。ホントになぜ?


「真田くん! 亜優はわたしたちが絶対に守ってあげるから安心してね」




 雪村さんに自信あり。


 逆に不安になる……




「道場破りされるの? 俺?」


 ボクシング部キャプテン。3-1 三上が唖然としていた。





☆★☆ 立花亜優視点 ☆★☆





 みおちゃん(雪村)も、はなちゃん(川原)もなんか真田くんに対して距離感が近いな~


 う~ん…… えいっ


 今までしたこと無かったけど、真田くんに体当たりしてみた。


 ふふふ、マーキングっぽい。


 わかった? 私が一番真田くんと仲良しなんだからね!


 まあ、付き合ってるって訳でもなくて、ただのボディーガードっていう関係でしかないけどさ……


 それよりもまた? 外見だけに惹かれて今度は3年生でボクシング部?


 真田くんより強かったらどうしよう……


 でも、あらら?


 真田くんの態度が凄く頼もしい。全然余裕あり?


 でも、睨まれたし、暴力に訴えそうだしやっぱり怖い……


 だけどだけど! 真田くん一人でなんて行かせたくない!


 勇気を出して私も行くって言ったらみおちゃんもはなちゃんも一緒に来てくれるって。頼もしい~


 あ、でも真田くんのカッコいいところ見て好きになっちゃったら困るな~


 私を守ってくれるってみおちゃんは言ってるけど、みおちゃんずっと彼氏とかいないし……


 はなちゃんは彼氏いるからいいんだけどさ?


 真田くんの事、好きになっちゃ駄目だからね? 絶対だよ? 振りじゃないんだからね!

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