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第4話『常住死身』

 県立北高校2年2組『真田守流(さなだしゅりゅう)

『守流』と書いて『しゅりゅう』と読む。『まもる』ではない。


 オレは生まれた時から目つきが悪く、保育園時代から恐い顔をしていたそうだ。


 小学生時代にはこの顔に加え、ずば抜けて身長が高く、同級生からは敬遠されていたが、上級生や一部の不良グループからは異常にモテていた。


 オレを倒せば『箔』が付くなどと言うくだらない理由で喧嘩を売られ、低学年の頃は何度も泣かされた。


 だが、次第に喧嘩にも慣れ、負けなくなったどころか、相手に怪我をさせないように手加減を施す程にオレの喧嘩技術は向上してしまった。


 事情を知った祖父が『殴られる痛みを知る必要がある!』とオレに空手の稽古をつけてくれたが、そのせいでオレは益々喧嘩が強くなってしまった。


 小学5年の時からだ。オレに喧嘩を売ってくる奴はいなくなった。


 一個上程度の年の差ではオレに勝てる奴はいなくなってしまったのだ。


 喧嘩をしなければ、オレに話しかけてくる奴なんかいねえ。


 急に淋しくなった。


 喧嘩を売ってくる奴らがいたおかげで、オレは楽しく過ごせていたのだと言う事を思い知った。


 クラスメイトはオレを恐れて、話かけてくれない。


 オレが話かけても怯えて会話にならない。


 喧嘩をしなくなったせいで、オレは孤立した。


 父が病気で死んだ。


 母がオレを捨てて別な男と再婚して、家を出て行った。


 そしてすぐに再婚相手に殺されてしまった。


 殺人事件。


 オレの親権がまだ母親にあったらしく、連日警察や弁護士などの大人たちが家を訪れ、母さんの事を根掘り葉掘り聞かれた。


 オレと、オレの祖父は疲れ果ててしまっていた。


 オレにとって小学5年生と言うのは何もかもが失われ、心まで壊されてしまった時期だった。


 母を殺した殺人事件は、未だに裁判中なのだと言う。


 オレにはもう関係が無いと思うがな。



☆★☆ ☆★☆



 オレは祖父と二人暮らしをする中で、祖父の影響をモロに受けた。


 まずは空手。

 次に時代劇。

 そして読書。


 ちなみに読書も時代小説や歴史小説ばかりだ。


 宮本武蔵

 柳生十兵衛

 千葉周作

 坂本龍馬

 桂小五郎

 岡田以蔵

 土方歳三

 沖田総司など。


 剣に生き、剣に死す。

 そんな本ばっかりだ。


 そんな生き方をオレは空手に求めたが、祖父は普通の空手道場に通う事を許してはくれなかった。


 祖父が一人でオレの相手をした。


 オレの戦い方は反則や禁じ手が多く特殊過ぎて、空手の世界では絶対に通用しない。そう言われた。


 祖父はオレの空手を何度か矯正しようとはしたみたいだが、

「体に染みついてしまった癖なんだろう。もう空手はあきらめろ」

 そう言うと、二度と空手を教えてくれなくなった。



☆★☆ ☆★☆



 中学生になった。


 祖父がオレに『死ぬことと見つけたり』という本をくれた。


『臆病に生きるな、本当にやるべき事、やりたい事があったなら、死に物狂いで行え』

『それでうまく行かず、たとえ死んだとしてもそれは恥ずかしい事ではない』

『常住死身』


 そんな感じの内容だ。


 この本のおかげで、オレは何かが変わった気がした。


 当時、クラスでのオレは相変わらず『孤独(ボッチ)』だった。


 だが『孤独』と言うのもそう悪いものではない。何故かそう思えるようになった。


 オレは、たとえクラスには馴染めなくとも、体育祭や文化祭などでも悔いの残らないように全力を尽くした。


 少なくとも斜に構えるような事はせず、やるべきことはキッチリとこなすよう心掛けた。


「あの強面(こわもて)、結構浮いてるよな」


 誰かがオレの事をそう言った。


 オレの事を見ている奴もいるんだな、と考えたらそんなに悪い気はしなかった。



☆★☆ ☆★☆



 祖父に頼んで、ボクシングジムに通う事を許された。


 だが、絶対にプロを志望してはいけない。と、念を押された。


 16オンスグローブと、ヘッドギアで守られたスポーツでなければ、お前の場合『殺し合い』になる。

 そう言われて説得された。


 それでフィットネスのコースを志望した。


 月3300円で毎日通い放題。マシンも使い放題。


 指導員さんと筋力強化プログラムを作り、毎日のように通った。


 きつめのトレーニングと軽めのトレーニングを数日おきに繰り返し、フットワークのエクササイズは毎日参加した。


 ここでは大人が多く、女性も年上ばかりだったからか、オレを揶揄うような人も、オレを恐れて敬遠するような人もいなかった。


 楽しいし居心地がいい。


 オレはこの環境にある程度の満足感を覚えていた。


 だが、フィットネスコースでも、プロコースとの共有スペースは案外あるため、プロの練習を見る機会は多い。


 オレは徐々に一種のストレスを感じ始めていた。


 リングに立ちたい。


 ハッキリ言えば、試合(死合)がしたい。


 自分がどれくらい強いのかを知りたい。


 本当に自分は強いのか? それともまだまだ井の中の蛙なのか?


 そんな事を考え続けて悶々とした日々を過ごしていた。


 そんな時期に、オレは大学生3人に絡まれている立花亜優を見つけたのだった。



☆★☆ 水曜日 ☆★☆



 なぜか今日も立花がオレのアパートにやってきた。


「おい、誰かに追跡()けられるのが嫌で、放課後は来ないんじゃなかったのか?」


 オレは今日も立花が来てくれた嬉しさと心配の間で葛藤し、心配の方が勝ってしまったために少し強い口調で問い質した。


「えへへ…… 実は昨日さ? 連絡先交換しなかったじゃん? だから今日は、その、あのね?」


「あ~はいはい。ま、入れよ」


 玄関先でもじもじされるのも都合が悪い。誰かに後を追跡()けられていたらどうする。


「え!? 昨日はあんなに渋ってたのに? 入れてくれるの?」


「そんなに驚くな! お前はオレの心の友で、オレはお前のボディーガード。言わば関係者で身内枠だ。これから先、オレは堂々とお前と話す。たとえクラスメイトの前でもな」


「うそ?」


「はあ!?」


「そ、そんなにハッキリと言ってくれるとは思ってなかったから…… ごめんなさい。正直言ってびっくりした……」


「まあ、オレも昨日はビビり過ぎてたからな。でもよ、『常住死身』友情とは死ぬことと見つけたり……そう言う事だ」


「あ~! 読んだ! 読んだよ。まだ上巻だけだけど! 面白かった!」


「お、おぉ!? 昨日の今日で? 読むの早いな」


「面白かったから一気に読めた! でもちょっと極端な主人公だったね?」


「お、おう、オレもあそこまで思い切った生き方は出来ないだろうけど、大分影響を受けた性格になったとは正直思ってる」


「と、とにかく入るね。お邪魔します」


「おう、今日もそっちの椅子を使えよ……って、なんだその買い物袋は?」


「えへへ…… 晩御飯作ってあげたいの。()()には今日晩御飯要らないって言っちゃったから、もう後には引けないって事だけは言っておくね?」


「な、なるほど?」


「茄子とマーボ茄子の素。それと鶏むね肉とシーザードレッシング。あ、お米炊いていい?」


「お、おう。好きにしてくれ……」



☆★☆ ☆★☆



「なあ、反省文って、何を書けばいいと思う? オレ、全然思いつかないんだよな」


 料理中でも話くらいはできると思って聞いてみたが……


「い、いま、火を使ってるから、あんまり話かけないで……」


 なるほど。料理経験値は低めだったか。


 オレは学習課題の方を進めてしまう。さっさと終わらせれば、自由時間が確保できるからな。


「晩御飯、出来たよ~」


 うん。正直言って嬉しい。でも、今の時刻は午後4時。早すぎない?


「あ~…… もう食べる?」


「え? って、あ! まだ4時?」


「ふ、フハハハハッ!」


「あ~! 笑ったな~?」


「あ~、ごめんごめん」


「ごめんって2回言った! 2回言うのって、馬鹿にされてるように聞こえるんだよ?」


「え? そうなのか?」


「もー。相手の身にもなって考えてみてよ」


「……そうか……それは済まない。実はオレって、まともに会話した同世代ってよ、女子だけじゃなくて、男子も含めてお前が初めてなんだ。だから……その、相手の身になって考えるってのが、実は凄く難しいのかもしれない」


「え、あ、それならそれで…… その、うん」


「……」


「…………」


「あ、で、じゃあ食うか?」


「えーと、真田くんはいつも何時頃晩御飯を食べてるの?」


「オレは……その…… いつもは大体9時頃」


「え!? そんなに遅い時間?」


「うん。実はオレ、ボクシングジムに通ってて、8時頃迄やってるから、帰ってから料理すると大体そのくらいになるんだ」


「じ、じゃあ、今日も通うの? って言うか、昨日も行ってたの?」


「そうだな、行った」


「そうだったんだ……」


「あ~、でも今日は休む」


「え? なんで?」


「立花と話がしたいから」


「どういう事?」


「ホントなら、大体(4時)ぐらいから8時くらいまでジムに通ってるんだけど、もう4時だし…… 実は立花に聞いてもらいたい話があるんだ」


「え~~!? じゃあ、私、真田くんの邪魔しちゃった?」


「いや、全然邪魔じゃない。それよりも…… その、嬉しい、っす……」


「ちょっ? え? なに? 不意打ち?」


「あ、そんなことより、さっさと連絡先交換しとくか」


「う、うん」


「えーと、スマホ……どこに仕舞ったっけ?」


 オレは最近全く使っていなかったスマホを探す。ベッドの枕元の引き出しで見つけた。でも、充電が切れているのか反応が無い。今度は充電器を探す。机の引き出しの一番下からやっと見つけた。


「あ、アハハハハ! 今までスマホ持ってる意味あったの~?」


 立花が何故か大笑いしていた。


「……逆に聞くけど、オレがスマホを持つ意味、あると思うか?」


「あ、え~と…… 答えづらい質問ね」


「だろ?」


「はい……」


 オレは連絡先の交換の仕方なんて知らないから、立花に全て任せた。


「これで一応、今日の目的は達成かな~」


 立花は上機嫌だ。まだ晩御飯は食べてないけどな。


 午後5時。夕食を食べながら、オレは立花に聞いてもらいたくて、自分の過去の話をした。


 母親が殺された話だけは言わなかったけどな。




☆★☆ 立花亜優視点 ☆★☆




 ボクシングジムか…… だからあんなに堂々と大学生たちとやり合えてたんだね~ なんか納得。


 それと、真田くんの過去って結構重いのね……


 喧嘩相手がいなくなったからボッチってどんだけ周りが外見だけで判断してたのよ!


 それに、お母さんが子供を捨てて再婚ってそれも理解できない!


 ただ……私だけじゃなかったんだね。


 私も両親がいなくて、お爺ちゃんとお婆ちゃん、それと少し年の離れたお姉ちゃんだけが家族だから……


 性格が悪いって開き直らないで、ちゃんと自分と向き合って、もう少し優しい人間になりたい。


 せめて、真田くんに対してだけでも……

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