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第17話『ボディーガードなんてやめて差し上げなさい』

☆★☆ 8月6日 ☆★☆


 祖父がオレの住むアパートにやってきた。事前の連絡など無い。祖父は大体いつもそうだ。


 ちゃんと飯を食っているか? 補導された以外に問題を起こしていないか? 高校は卒業できるような成績か?


 そして祖父はオレに対して大雑把な質問しかしない。

 今までに一度も細かい指示などを受けた記憶が無い。


 オレは、補導されたのはクラスメイトの女子を助けた際にやり過ぎてしまったからだと言う事と、今はその助けたクラスメイトのボディーガードをしている事を伝えた。


「その娘とやらは……美人か?」


 祖父のこの質問は、別に下衆の勘繰りなどではない。その証拠に、オレが


「ああ、かなりの美人だ」


 そう答えると、俄かに表情を消し


「美人は信用できん。じゃが、キサマの判断を一応は信用する。じゃがなぁ……十分に気をつけるんじゃぞ」


 と言う。


 過去にどんな美女にどんな事をされたのか、オレには分からないが、とにかく祖父は美人を毛嫌いしている。


「祖父、一応言っておく。オレはオレを外見で判断しなかった彼女に対して、オレも外見で判断せずに、対話した内容に納得し、彼女の人柄に惚れ込んだからこそ、ボディーガードを引き受けたんだ」


「ふんッ、一丁前な口を叩くようになったな、守流のくせに」


「へへッ、祖父の孫だからな」



☆★☆ ☆★☆



「墓参りじゃがな、お盆は人が混む。婆さんも息子も人混みは苦手じゃったからな、今日、今すぐに行くぞ」


 祖父はいつも、いつでも唐突だ。だから驚いたりなんかしてやらない。


「おう、一応亜優に連絡しておく」


 オレは、今、祖父が来ている事と、墓参りに行く事を亜優に伝えておいた。


 祖父の車に乗って、祖父の家の方に向かう。

 墓地は祖父の家から歩いて5分程の川沿いにある。

 田舎故、近所の住民のほとんどがこの墓地を訪れる。


 我が家の墓石の前に立つと、祖父はオレに向き直りニヤリと笑った。


「どんな娘だ?」


 祖父の唐突な問いも、ガキの頃から接している経験上、何を言いたいのかはだいたい分かる。


「毎日のように、オレに晩飯を作ってくれる」


「それから?」


「孤独だったオレが学校で過ごしやすいように、色々話しかけてくれる」


「ほかには」


「オレを買い物や映画に連れて行ってくれた」


「ふむ。まだありそうじゃな」


「オレを本当に頼りにしてくれている」


「で、キサマも娘を頼りにしておる、と言う訳か」


「そうだな……」


 祖父が今度は墓石に向き直り、死者に語り掛ける。


「えりこ(祖母)さんや、あんたの孫はワシと違って、見た目では騙されん男に育ったみたいじゃぞ? まぁまだ若いから言い切ることは出来んがの~」


 祖母は『醜女(しこめ)』で有名な人だったと聞くが、祖父が祖母と結ばれるまでには祖母以外の美女とやらに、何度も騙されて来たと言う事なのだろうか?


(まもる)(父)よ、オマエの息子はオマエと違って、見た目に騙されぬ、外見だけで判断せぬ心眼を身に着けたようじゃぞ? これもまだまだ言い切ることは出来んがの~」


 『父は美しいと言うだけで、愚かで浅ましい女に騙されて結婚した』 祖父は何度もオレにそんな話をしたっけな……

 父の死後、どれだけ真田家から財産を奪えるか、そんな事ばかり企んでいたとはオレが高校に入学してから聞かされた話だ。

 結局、俺たちが住んでいた父名義の『家』と『土地』だけは母親の手に渡り、オレは『(こぶ)』扱いされて見捨てられ、祖父の家に送り込まれた……


「祖母、それに父よ。オレは守るよ。いつか、いつの日にかオレにも愛する家族と言うものが出来るとしたならば、死ぬ気で、例え死んでも後悔のない生き方ってやつをさ、貫いて見せるよ」


「ふんッ、青臭えな」


「ははッ、だってオレは祖父の孫だからな」


「ククッ、違げえねえ」


「「ぐわっはっはっはァ」」


 その後オレと祖父は、本気で争って墓石を磨き、お互いの粗探しをして口喧嘩をし、石がピカピカに輝くまで墓を磨き続けた。


 まるで、幼稚なガキのように。



☆★☆ ☆★☆



「守流」


 アパートへの帰り道、車を運転しながら、祖父は真面目な声音で話し掛けて来た。


「なんだ?」


「娘さんの為にも、だな…… もう、ボディーガードなんて、やめて差し上げなさい」


 祖父らしくない丁寧な言葉使いだ。いや、そういえばオレの礼儀作法って、祖父仕込みだったな。


「えらく優しい言い方だな? 少し耄碌(もうろく)したか?」


「うるさいわ! まぁ、ワシが言わんでも分かっては居ろうがの」


 分かっている? いや、ボディーガードをやめろってどういう事だ?

 やめて差し上げなさい?

 オレの為では無くて、亜優の為だと言うのか?


「いや……祖父、何故ボディーガードをやめた方がいいのか、オレには良く分からない」


 祖父が呆れたような表情でオレを見つめた。

 これは、当たり前の答えを答えられなかった時によく見せられた表情だ。

 と言うか、ちゃんと前を見て運転しろ!


「キサマは阿呆か、朴念仁か? ボディーガードでなければ娘は守れんのか? 守ってはいかんのか?」


 祖父の言葉の意味を考える。


「人柄が良いうえに見た目も良いとあっては競争も激しかろう。誰かに奪われてしもうてから後悔せんようにな」


 意味は解りかねたが、祖父のその言葉をオレは、胸に刻んだ。


 

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