第14話『落とした? それとも落とされた?』
☆★☆『怒りの告白ノート』☆★☆
見せてもらったノートには、本当に27人の名前と日付、そして告白の内容が書かれていた。
最近の日付になると『腕を掴まれた』『どれだけ理想が高いんだよ!と怒鳴られた』『いきなり抱き着いてきた』等の記述が見られる。
足が竦んだと言うのはこの27人目の『いきなり抱き着いてきた』男。2年5組。名前は『春日春秋』。
亜優の話によればオレと目が合って怯んだらしいが、オレの記憶にはない。
今度会ったら絶対に顔を覚えてやる。
「ところで、キャプテン三上の名前が無いんだが? あいつはいいのか?」
オレ的にはあいつも仲間に入れてやりたいが?
「う~ん……悩んだんだけどね~別にいいかなって思って」
「そうか。アイツ淋しがるだろうな」
「ええっ!? 三上先輩にこのノートは絶対に見せないよ?」
「まぁ、そうだよな。仲間外れにしても、見せなきゃバレないだろうしな」
「守流くん? その考え方、ちょっと変だよ?」
「わかってる。ほんの冗談だ」
「も~。守流くんって真顔で変な事言うから分かりにくい~」
☆★☆ ☆★☆
「そろそろお暇しますね。どうもご馳走様でした!」
「おう。またいつでも遊びにおいで。今度はワシとも本の話をしような」
立花祖父もどうやら本好きのようだ。オレの祖父とも話が合いそうだ。
「はい。その時は是非」
「真田くんまたねー」「またいらっしゃいな」
みんなに挨拶し、最後に亜優が玄関までついてきた。
「今日は……いや、今日も楽しかった。次に会える日を楽しみにしている。また、いつでも呼んでくれ」
「……じゃあ明日」
「おう。いいな。何時だ?」
「……今日と同じ」
「おい、ちょっと元気が無いぞ? どうした?」
「……何でもない」
「だったらいいけどよ?」
「明日はお昼も夜も、守流くん家で私が料理する」
そうか……今日は亜優の手料理を食べてなかったからな。
「わかった。楽しみにしているよ。じゃあ、明日また」
「うん……またね」
「おう。おやすみ」
今日は遅くなったから、ジムは休んだ。
☆★☆ 翌日(7月29日) ☆★☆
亜優を家まで迎えに行って、オレのアパートに戻ったのはちょうど10時頃だった。
「あれ? みおちゃんからライン来てた」
みおちゃんと言うのは『雪村さん』彼氏がいない方の亜優の友達だ。
「ボクシング部が、学校の宿泊施設使って8月4日まで合宿するんだって。はなちゃんと原田くんに誘われて揶揄いに行くんだけど一緒にどう? だってさ」
おお! 合宿!
「楽しそうだな。って言うかその期間って全国大会の日程と同じだ。ふふん、きっとやる気に溢れているんだろうな……」
「お昼まで揶揄って、それから買い物してお昼ご飯にしようか?」
「いいのか? オレは嬉しいが……?」
「いいよ~。昨日は一日中デート……じゃなくて、その、ボディーガードしてもらったし、たまには守流くんの好きな事にも付き合いたいしね~」
「じゃあ行くか? 時間は? 何時からやってるんだろ?」
「わかんないけど行ってみよ?」
「おう!」
☆★☆ 柔剣道場 ☆★☆
「今日は女子率高いなって思ってたけどよ? お前まで女連れかよ!?」
「あぁ!? なんで手前こそいるんだよ? 引退三上」
たしかに今日は女子が多い。
亜優以外にも『川原』『雪村』そして見知らぬ女子がもう一人。
「真田先輩。初めまして」
見知らぬ女子がオレに挨拶をした。
かなりの……と言うよりも絶世の美女だ。
「誰あなた!? なんで守流くんを知ってるの!?」
オレと美女の間に立って、まるでオレを庇うかのように亜優が美女に敵意を向けた。
「立花先輩も初めまして。ワタシは森口遥香と言います。大弥くんの……その……」
「あ! 真田先輩、立花先輩ちーっす!」
渡辺大弥が慌てて駆け寄ってきた。
「おう! 渡辺、少しはディフェンス上手くなったか?」
「はいっ! 後で直接お見せします!」
ほう……自信ありと言ったところか。楽しみだ。
「それから先輩、オレ、彼女出来ました。超不安なんでそっちの方もアドバイスお願いします!」
はにかみながらもハキハキ話す。きっと彼女にも一直線な奴なんだろうな。
「馬鹿野郎! オレにはアドバイスなんて出来ねえよ! 彼女いない歴イコール年齢だ」
渡辺が固まり、目を丸くする。
「え? だって、立花先輩とは? 別れたんスか?」
コイツも噂を鵜呑みにする輩か~?
「オレは亜優のボディーガードだ。端っから付き合ってなんかいねえよ」
「はッ! すみませんでした! オレ噂に振り回されていました。自分も噂では苦労したはずなのに……また同じ失敗をするところでした」
「ほー? お前も噂で苦労したとな?」
「はいっ! オレの彼女、スゲーモテるんで……」
そこにさっきの絶世の美女が再び顔を見せて
「その……大弥の彼女になりました森口です……」
なるほど
「大弥!」
「はい?」
「今すぐリングに上がれ!」
叩きのめしてやる。
「ハイッ!」
「三上! リング借りるぞー!」
近くで2年の松田と話し込んでいた三上に一応言っておく。
「今のキャプテンは松田だ! オレに許可を求めるな~」
そうか、コイツは引退三上だったな。
「よし! なら松田、リング借りるぞ!」
「あ……あぁ。どうぞ」
ん? 松田くんはちょっと優しい人なのかな? 良い人だったら後で友達になろうかな。
そこへ、1年の奈良もやってきて
「先輩、どうして自分が副キャプテンだって知ってたんスか?」
???
「お前が副キャプテン? 知らなかったぞ、どうした?」
「だって先輩さっき、奈良、松田って、自分の名前も呼びましたよね? 嬉しかったっス」
オレは何のことだかさっぱりわからなかったが、
「よし! 渡辺の次はお前だ、奈良。お前ともスパーやるぞ!」
「はい! ありがとうございます!」
今日も楽しい一日になりそうだ……
☆★☆ 立花亜優視点 ☆★☆
「やっぱりここでは守流くん楽しそう。ね、みおちゃん、はなちゃん」
何気なく話しかけた私。なんか変な事言ったかな? みおちゃんもはなちゃんも固まっちゃった?
「亜優~? とうとうアンタ、真田くんを落としたわね?」
「え!? 落とすって?」
「な・ま・え。アンタ真田くんの事、名前で呼んでるのね、今」
「で? 亜優も名前で呼ばれてるんでしょう~?」
「そ、そうだけど……まだ付き合ってなんかいないよ?」
「まだ? 今アンタ『まだ』って言った!」
「う……ん。まだ……」
「ち、ちょっと!?亜優? どうしたの? めっちゃ暗いんだけど?」
「負のオーラまで見えてるよ!?」
そうなの……私、自信ない。
「あのね……聞いてくれる?」
みおちゃんもはなちゃんも表情が真剣に変わった。ちゃんと聞いてくれるって態度で示してくれてる。
だったら言ってみようかな。
「守流くんが、その、お姉ちゃんを見る眼が凄く優しくて…… 今までに見た事も無いくらい…… 私には見せた事も無いくらい……」
「お姉ちゃんって確か、亜優の7歳年上だったよね? 流石にそれは無いんじゃない?」
「守流くんって、年上好きなの?」
「わかんない…… でも、クラスメイトとかって見た目で怖がって守流くんに話かけないのに、大人の人って見た目とか見かけで判断する人が少ないからさ、なんか話しやすいみたいな……」
「あ~…… なるほどね~。真田くんって学校では『強面ボッチ』でも、一歩外に出れば『強くて優しくて頼りになる人』って評価になりそうだもんね~」
「顔で判断されるのって子供の頃だけって本で読んだ事ある。だから内面も磨かなきゃってね……」
「で? お姉さんは? 真田くんに優しくしあげてたの?」
「ううん。むしろ、手加減なしで揶揄ってたけど……」
「じゃあ大丈夫じゃない? 真田くんって揶揄う人苦手っぽいしさ?」
「でもでも……お姉ちゃん、料理上手だし、イケメン嫌いだし、守流くんに『お姉ちゃんに見とれたでしょ』って聞いたら素直に認めたし……」
「おいおい! 亜優? 真田くんは『外見だけで判断しない人だ』って自慢してたのはアンタでしょ? 少しは自信持ちなさいよ」
「自信……? 私、自信無いよ~。だってお姉ちゃんのほうが私よりうんと優しいし、頭もいいし、胸だって大きいし……」
「はぁ~~~~こりゃ駄目だ。重症だね~」
「毎日のように会ってて、素で口説かれてるのに自信無いなんてね~」
「落とすつもりが落とされたってやつだね。どーもご馳走様」




