伝説の始まり
工房での作業に夢中となってしまっていたルナ・・・
・・・気づいたときには町中が敵兵であふれていた。
旗印から見て、彼らはスパルニア兵だ。
ルナは驚愕した。
スパルニア軍は突然エルンを襲ったのだ。住民たちに避難勧告する暇もなかった。
敵兵を間近で見るまで、ルナは戦争が始まったことすら知らなかったのである。
ダメだ! もはや家から出るのは危険すぎる。
気が立っている敵兵の前に 民間人がノコノコと出ていくなんて自殺行為なのだ!
絶対に外へ出てはいけない!
隣の家で一人暮らしをしているミリコおばさんのことが気になったので 窓越しから声をかけてみたが返事がなかった。
どうしたのだろう!? もう逃げたのかな?! それとも、家の中で身をかくしているのかな!?
不安に思いながら、窓の外を走る兵士たちを・・・・苦々しく睨むのであった。
-*- - - - - - *-
私の名はルナーリア、通称・・ルナ、魔道具を作成販売をしているこのマギナ工房店の店主。
口には言えないが・・・色々な所から支援を受け・・若くしてこのマギナ工房を立ち上げたのだが・・・
まぁ、そこらへんの話はおいといて・・・ここは兎にも角にもマギア工房。
金目の物がいろいろと存在している。すなわち・・・略奪対象にされかねないのである。
そこで・・・うちの相棒、メイドのフラウちゃんに頼んで金目になりそうなものを・・・
この工房内にある隠し扉の奥のそのまた奥・・地下室へと運んでもらった。
もちろん・・・うちも、その地下室で身を隠すことにします。
ちなみに、金目になりそうなものとは魔導具作成装置・・・かなり重いです(某異世界基準では300kg)
他には・・マギアに必要な多種多様な素材、書籍類などなど・・・けっこうな重量です(某異世界基準では500kg)
こんな超重量を若いメイドに運ぶように命じた私って・・・ええ! かなりの鬼だよね!
ちょっと罪悪感を感じたけど・・・
『 はい、了解です。ルナ様! 』
メイドのフラウちゃんは・・・これらの超重量を軽々と持ち上げ、ルンルン♪鼻歌まじりで運びましたとさ・・・
「さすが! フラウちゃん」
-*- - - - - - *-
マギア工房の奥深く、地下室で身を潜めるルナとフラウ。
とりあえず・・・ここは安全なハズ、
ほとぼりが冷めるまで・・・ここで隠れてればよいと思っていたが、そうはいかなかった。
さっそくとばかり異変を感じルナは耳をすませる。
「おい・・これって、扉のようだ!」
「おっ! 地下への通路か!」
「こんなとこに隠れているとはな! やはり下賤な連中だ」
ガシャ! ドダドタドタ!
人の声に・・階段に響く足音・・一人ではない・・数人はいるようだ。
おそらく・・・このエルンの町に攻めてきたスパルニア軍の兵士だろう!
どうやら、隠し扉を見つけられてしまったらしい。
そして…バタン!
いきなりドアが開けられ 5名の兵士が この部屋へと入ってきた。
「がはっ! やはり・・ここに隠れていたか!」
・・・と発言をするやいなや、すぐに剣を振り上げ・・斬りかかってきた。
彼らは残酷な笑みを浮かべている。話し合う気などない。
ただ・・・殺したいだけだった。
『 危ない・・ルナ様 』
「だめ! フラウちゃん!」
うちは叫んだ!
だが・・・その叫びは報われなかった。
メイドのフラウちゃんは・・・ 私を守ろうとして兵士たちの前に飛び出し・・・
そして、 私の盾となって・・・斬られた。
「フ・・・フラウちゃん! あっあっあああ」
うちは悲鳴をあげた! 信じられない光景・・・・身体を震わせ涙があふれ出る。
・・・メイドゴーレムのフラウちゃんは 胴体が真っ二つとなって崩れていく。
しかも・・・人間のような赤い血の潤滑油を吹き出しながら・・・
「な・・・なんてことを、うちの作った初めてのゴーレムを・・・」
『 だ・・大丈夫です! ルナ様・・・フ、フラウは・・・決して滅びません 』
そう発言するや・・・メイドゴーレムは足を振り上げながらはね飛び 斬りつけてきた兵士を掴み上げると同時に頭突きをかました。
「なぬ!? なにが起きた!?」
「どういうことだ!?」
胴体が真っ二つになった少女・・・死んだと思った少女がいきなり 飛び上がってきたのだ!
困惑する兵士たち! だが、考える暇など与えなかった。
メイドゴーレム・・・すなわち、フラウはすぐに次なる獲物を見つけるとすぐにラリアットをくらわした。
そして・・・そのまま相手の背中に乗り、ひざ蹴り落とし、ついでにフラウ連打、フラウキック、
最後には相手の顔面にまわし蹴りをいれ・・・またたくまに5名の兵士が地に伏した。
創造主でもあるルナ様に危害を加えようとするものは 誰であろうと容赦はしない!
『 うっふふ! 』
赤いツゥインテールをたなびかせながら 赤く染まったメイド衣装に赤く血に染まった片手をあげ・・・
・・・ルナに向かってニコリと決め顔、勝利のポーズをする。
その姿・・まさに狂戦士バーサーカー! フラウ・ザ・グレード
なんて・・・男前なのだ! 少女だけど・・・
ちなみに、メイドゴーレム・フラウには格闘プログラムが内臓しており・・かなりの戦闘能力を有している。
見た目は・・・人間そのもの! いや! 少女そのもの!
兵士たちも 間違いなくこのフラウを 人間だと思ったに違いない。
そう! どこからどう見ても・・・人間そのものなのだ!
しかも! 真っ二つに斬られていたにもかかわらず いつのまにか修復している・・・自動修理機能付き!
彼女こそ・・・マギナクラフターであるルナの初期作品、汎用型魔工ゴーレム・メイドの フラウちゃん!だったのだ。
「助かった・・・ありがとうフラウちゃん! やっぱしすごいね! それに・・自動修理機能がちゃんと機能してよかった! ほんとによかった!」
ルナは安堵と感謝の気持ちでフラウちゃんに抱きついた。
そのフラウちゃんは ちょっとテレ気味。
もはやフラウちゃんは ただのゴーレムではなく・・大好きな友達なのだから!
『 ルナ様! まだ安心できません。 この隠れ家がバレたのです・・・すぐに逃げましょう 』
「そ・・・そうだね!」
ルナは頷くと・・・大事なものを大急ぎとなって鞄に詰め込んだ。
すぐにでも ここから脱出しなければならない。
「まさか・・・この地下室がバレるとは思わなかったよ」
『 敵に魔導師がいたのかもしれません。ウォッチングで見つけられたのかも・・・ 』
「あっ! あっ! 魔法か・・・なんてこと! 対策をすべきだった・・・」
ルナ・・・痛恨のミスである!
マギナクラフターであるのに・・・魔法対策を怠っていたとは・・・!!
専門家としてのプライドが・・・うっぬぬぬぬ!
すこし涙目となるルナであった。