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 個人的に、最初に排除されるのは姉のリーゼだと思っていた。

 何故なら、迷惑度は彼女が一番だったからだ。

 しかし、彼女に更生の余地が有ったのは、貴族女性としては致命的な男性関係の醜聞が無かったためだろう。

 そして、迷惑の大半が他家ではなく身内に向いていた点だ。


「注文を取ってそのまま放置していた事は迷惑極まりないし、下手をすれば商会の信用問題に発展したが、幸い相手が商品を気に入ってくれたお陰で大きな問題にはなっていない。また、お前が茶会で商品の宣伝をしてくれたお陰で売上は上がった。だから迷惑分に関しては相殺している」

「……はい」

「そして店の商品を好き勝手強奪した件に関しても、他家には迷惑を掛けていない。故に、反省して店の従業員にも謝るなら、その件に関しては不問にする。どうだ?」

「……謝ります…」


 うな垂れたままそう呟いた姉は、そこから少しずつ自分のことを話し始めた。

 転生して、裕福な貴族に生まれて嬉しかったこと。

 自分が誰よりも特別に思えたこと。

 それなのに、余り恋愛的にも内政的にも上手くいかないことに苛立ちを覚えたこと。

 それらをポツリポツリと語った。


「好きになる人は皆キャサリンが獲っていくの……」


 何でも、『あの人格好いい』と言う度に、キャサリンといつの間にか恋仲になっていたとか。

 その上、数回寝れば奪ったはずの男性をこれ見よがしに捨てるのだ。しかも口が臭いとかベッドテクニックが悪いとか、散々悪態を吐いた後でだ。

 当然相手の男性からは同じ家の姉妹として恨まれるし最悪だったようである。

 ちなみに、その件に関しては私にも苦情が来ているが、キャサリンになびくような男に興味がないのでスルーしていた。

 姉はキャサリンから相当嫌われていたらしく、誰かを好きになる度に同じことの繰り返しだったとか。

 どうやらキャサリンは前世の感覚が強いらしく、私の想像以上にビッチだったようである。

 そんな女と姉妹だったという事は、私や姉もかなり色眼鏡で見られていたに違いない。

 最悪である。


「それならそれで、転生チートしてお商売頑張ろうと思ったのに、アイデアは全部お兄様とミルフィーが……っ」

「それで商会で好き勝手したのか?」

「はい……」

「だけど、お前は俺達に何のアイデアも話してないだろう。どうやって盗むんだ?それに、商品に関しては異世界転生の定番だから、転生者なら誰でも思いつく」

「それも今なら分かります。だけど、その時は何だか自分だけが虐げられているような気分になって文句を言ってました。まさかお兄様やミルフィーが同じ転生者だったなんて……。もしかしてお父様も?」

「いや、父上に前世の記憶はない。記憶があるのは俺達兄妹四人だけだ」

「そうですか…」


 キャサリンがそうではないかと姉も思っていたそうだ。

 だからこそ余計に負けられないと思っていたようだが、随分と空回りしている。


「リーゼ、それで今後はどうする?」

「どうするとは?」

「もう商会に迷惑を掛けないと約束するなら商会の運営にお前も係わらせてやる」

「本当ですか?!」

「ああ。但し、当分は俺やミルフィーに付いて学んでからだ。それと、学園でお前に纏わり付いている奴らと縁を切れ。ハイエナに餌をやるな」

「でも、お友達が…」

「商品を配らないと傍にいないような人間は友達でも何でもない。どうしても友人が欲しいなら、ケイト嬢に言って茶会に招待して貰うから、自分でどうにかしろ」

「女学園の方で宜しければ私もご紹介します。但し、お姉様は現在非常に評判が良くありません。そのイメージを払拭するには相当の努力が必要です。私もお兄様もフォローするので頑張りましょう」

「ミルフィー……ありがとう……、今までごめんねぇ……」


 その後も何度も謝罪しながら泣いた姉は、憑き物が落ちたように大人しくなった。

 どうやら姉は私達が想像するよりもずっと悩んでいたようだ。

 そして、やはりキャサリンとの確執が想像以上に酷かったのである。

 好きな人だけでなく、友人にも嘘を流されて疎遠にされていた。

 更にキャサリンも商会の商品を勝手に持ち出していたらしく、それは全部姉のせいにされていたのだ。

 どうやらキャサリンは姉が自分と同じ転生者であると早々に気付き、その排除に余念が無かったようである。

 もし私も転生者としてカミングアウトしていたら、姉のようにキャサリンの標的になっていたかもしれない。

 やはり言わなくて良かった。


「お父様、ごめんなさい……っ!」


 兄妹での話し合いの後、父の執務室へと直行した姉はそのままスライディング土下座を敢行した。

 その勢いに絶句した父だったが、涙や鼻水を流しながらひたすら謝罪する姉の肩を抱き寄せて静かに背中を撫でていた。


 多分、姉は変わる。

 そう確信した日だった。


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