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 母と父の離縁が成立した一週間後、ホテルを追い出されていきなり現実に直面した母が、必死で伯爵家の中に入ろうとして揉めていた。

 門扉の柵越しに『私が悪かったわぁ~!許して旦那様ぁ~~!』と叫んでいるが、父は完全に無視を決め込んでいる。

 屋敷の使用人達にもきちんと言い聞かせているので、誰も同情一つせずに淡々と母を無視していた。

 問題は姉と妹が勝手に屋敷へ連れ込むことだったが、『あいつを屋敷に入れた場合、お前達も一緒に追い出す』と父が断言したところ、二人はあっさりと母を捨てた。

 あれだけ可愛がって貰っておきながら現金なものだ。

 そして母と一緒に豪遊していたアルフレッドさんとやらの姿も既になかった。

 彼は母から金目の物を全部盗んだ上で、昨夜の内に姿を消したらしい。

 母が気付いた時にはもぬけの殻で、御礼状だけが枕元に置かれていたとか。

 ちなみに母から盗んだ金品は彼へのボーナスだと祖母は言っていた。

 彼は彼で一週間母をホテルに留めるのに非常に注力してくれていた。言葉巧みに外で散財しようとしていた母を止めていたようで、お蔭で母は自分の置かれている状況に一週間全く気付かなかったのだ。

 その巧みな手腕は、思わず商会の営業として彼を雇いたくなったほどである。


「後はリーゼとキャサリンをどうするかだな……」


 キャサリンは結局フーゴと婚約者のケイトを破局させていた。

 当然ケイトの家門であるカリスター侯爵家からは苦情が来ている。とは言え、苦情は一応の建前であったようで、慰謝料の請求はかなりの少額だった。どうやらケイトはフーゴとの婚約を破棄したかったようだ。

 そして現在……

 婚約破棄されたご令嬢、ケイト・カリスターが父君と一緒に我が家へと訪れていた。


「この度は娘が大変申し訳ございませんでした」

「いやいや、実は向こうから押し付けられた婚約だった故に、実に困っていたんだ。そういう意味ではあちらの有責で婚約破棄出来て満足している」

「そう言って頂けると大変ありがたいです」

「しかしながら、幾らケイトに非が無いとはいえ、婚約破棄した令嬢には醜聞が付きまとうもの」

「はい、承知しております。こちらとしてもケイト嬢のお心を慰める最大限のお見舞いをさせて頂こうと思っております」


 言いながら父は慰謝料とは別にかなりの金額を書いた小切手をケイトへと差し出した。

 しかしニッコリと微笑んだままのケイトはそれを受け取らない。

 そんな娘の態度に苦笑を漏らしながら、少しだけ言い辛そうにカリスター侯爵が口を開いた。


「あ~、実はそのだな…、少しお聞きしたいのだが、現在パトリック殿に婚約者がいないというのは本当だろうか?」

「はい、本当です」

「うむ。ではその…、良かったらケイトを貰ってくれないだろうか?」


 非常に言い難そうなカリスター侯爵の様子から見るに、強要する気は余りないように見えた。

 どちらかと言えば、ケイトに言われて仕方なくという風に見える。

 そして、屋敷にやって来てからずっと兄を見てニコニコしているケイトの気持ちは非常に分かり易かった。


「パトリック様、実は以前からお慕いしておりました。どうかわたくしと婚約して頂けないでしょうか?」

「…いや、その……」

「それとも婚約破棄するような瑕疵のある女はお嫌いでしょうか?もしくはわたくしの容姿が気に入らないとか?」

「いや、ケイト嬢のようなお綺麗な方を嫌うなどっ!それに今回の件は妹が悪いのであってケイト嬢に全く問題はありません!」

「では、婚約して頂けますでしょうか?」

「……え、あの……、非常に言い辛いのですが、今後も家族のことで迷惑をお掛けするかもしれませんし」


 それは私達家族が最も懸念している事柄であった。

 故に問題ある姉と妹を含め、私達兄妹四人には誰も婚約者がいない。


「もちろんそちらの事情に関してはこちらもある程度把握しております。つきましては、一つ提案があるのですが……」


 そう言ってケイトが提案したのは、どこからも苦情が出ないような見事なキャサリンの排除案であった。


「わたくし、キャサリン様とフーゴ様、想い合っている二人の幸せをお祈りしたいのです」


 言葉とは裏腹に、ケイトが提案した内容は完全に二人を追い込む為のものだった。

 お綺麗な顔に似合わず、かなりの腹黒さを感じる。

 けれど私も兄も嫌いじゃない。


「お兄様、折角のお話ですわ。ケイト様のお言葉に甘えましょう。それに、ケイト様には憂い無く嫁いでいただきたいわ」

「そうだな…」


 我が家の憂いである姉と妹。

 思い掛けないところから、妹キャサリンの排除が出来そうである。


「では、早速話を詰めましょう」


 そこからはケイトの独擅場だった。

 お互いの父達は、遠い目をしながら才女の案に頷くだけであった。

 だが、どこから聞いてもお互いの家に損のない良案だ。

 私達はケイトの案に乗っかるだけで良かった。


 こうして、キャサリン追い出し作戦は、兄の婚約者(仮)の作戦の下に実行されたのだ。


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