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「お兄様って意外に手段を選びませんのね……」


 お茶会に向かう馬車の中。

 朝食後、トイレから出てこれなくなった二人を思い出し、目の前で涼しい顔をする兄を見つめる。

 正直に言えば、まさか兄がここまでするとは思わなかったのだ。


「部屋に閉じ込めるのかと思ってました」

「あいつらがそんな事で諦めるとは思えなかったからな。ぶっちゃけ、伯爵家の将来が掛かってるんだ。手段を選んでいられるか」

「確かに……。でもお父様は反対しませんでしたの?」


 兄は執事に言って下剤を用意させたらしい。

 当然、そのことは父の耳にも入っており、用途もちゃんと説明しているそうだ。


「ミルフィーに買ったドレスを二人が奪い合った上、とても貴族とは思えない言葉使いで喚き散らしていたと告げた。始めは半信半疑だったが、使用人達にも裏を取ってからは頭を抱えていたよ」

「なるほど…」


 だから父は昨夜私の部屋に来たのか。

 急に来て、何か欲しい物はないか?とやたら部屋中を観察していたのはその所為だったのだろう。

 姉と妹に比べて格段に物の少ない部屋や衣装を見て絶句していたので、どうやら二人が私の物を奪っていると勘違いしたようだ。

 お蔭で一気に危機感を募らせた父が兄に協力してくれたそうである。

 実際のところ、私の部屋が質素なのは完全に私の趣味なので、少しだけ二人には申し訳ない気持ちになった。

 だが、マナー皆無な二人を放置するよりはマシだと思い、二人の擁護は口にしなかった。

 

「それでお父様は今後なんと?」

「二人には厳しい家庭教師を付けるそうだ。それと、母上に甘やかさないように言及すると言っていた」

「二人がこれで現状を理解してくれると良いのですが…」

「こればかりは祈るしかないな」


 そうこう話している内に公爵家へと到着し、問題なくお茶会は開始された。

 近隣の領からかなりの数の子息令嬢が参加している。

 この中に王弟殿下やキュリオなる公爵子息がいるのかもしれない。


「取り敢えず公爵子息に挨拶に向かうぞ」

「はい」


 さりげなく参加者を確認しながら、私達は公爵子息へと挨拶に向った。

 公爵子息の名前はパルマ、年は十三歳で、兄と同じ年の令息だった。

 今日の茶会は彼と同年代の子ども達が招かれている。

 おそらくこの茶会の振る舞いで学友や婚約者を決めるのだろう。


「お招き頂きありがとうございます」

「こちらこそ、来てくれてありがとう。ぜひ楽しんで行ってね」


 パルマの人当たりの良い対応に好感を持ちながら、私達は再び参加者の輪の中に戻った。

 そして人込みに紛れながら、注意深く参加者の情報を集める。


「そっちはどうだ?」

「それらしい情報は特に。公爵子息はパルマ様を含めて三人出席されていますが、キュリオ様という名の方はいらしてないわ」


 どんなに探しても、王弟殿下もキュリオ様なる公爵子息も見つからなかった。

 どうやら姉の言う世界でも妹の言う世界でもなかったようである。ちなみに、キュリオという名の公爵子息は存在すらしないことも分かった。


「やはり二人の妄想だったか……」

「そのようですわね」


 しかしパルマを含め三人の公爵令息は全員がかなりの美形だったので、あの二人のことだから直ぐに宗旨替えして暴走しそうだ。

 そして、やっぱり連れてこなくて良かったという出来事が他にもあった。

 なんと、第二王子殿下がお忍びでやってきていたのだ。


「ま、眩しいですわ、お兄様…」

「王子オーラが半端ないな…」


 突然の殿下の訪問に沸く会場の隅で、金髪碧眼のザ・王子様な高貴オーラに圧倒されて動けない私と兄。

 思わず言葉が崩れてしまったけれど、誰も彼もが王子様に夢中で私達のことなど気にもしていない。

そして二人して思ったことと言えば、姉と妹を連れてこなくて本当に良かったという事だけだった。


「マジで危なかった…」

「絶対に二人のことだから突進していたはずです」

「恐ろしいな……」


 戦々恐々と王子様を遠巻きに見つめていると、何故かその王子様と視線が合った。

 そしてニッコリと微笑んだ王子様が、大勢の令嬢を引き連れながら近寄ってくる。

 それに驚きながら、私と兄は慌てて礼を取った。


「二人は初めましてだね。僕はラインハルト。名前を聞いてもいいかい?」

「帝国の太陽にご挨拶申し上げます。システラム伯爵家の長男パトリックと申します」

「同じくシステラム伯爵家の次女ミルフィーと申します」

「二人とも宜しくね。ところでパトリック殿は幾つだい?」

「今年十三になります」

「じゃあ、僕やパルマと同じ年だ。勿論学園には入学するよね?」

「はい」

「それは良かった。じゃあ、学園のことなんかを話そうよ!」


 言いながら主催者である公爵家のパルマや側近の二人を呼び寄せて、拒否する間もなく目の前の席に着いたのだ。

 当然兄は同席するように薦められ、妹の私も強引に席に着かされた。

 突き刺さる令嬢達の視線が痛い。

 私が学園に入学するのは当分先なので、来年入学する令嬢を誘った方が良いのではないだろうか?

 そう思いながら席を立つタイミングを見計らっているのだが、何故か王子様はグイグイと私達に話を振ってくる。

 最近隣国で開発された画期的な上下水道のシステムや、我が家の領地で整備している街道のことなどだ。それ以外にも気になる外国の穀物や調味料などについても、次々に意見を求めてくる。

 続々と投げかけてくる質問に兄と一緒に色々答えていると、王子様は感心したように何度も頷いた。

 これは何かの試験なのだろうか?

 もしかして兄は側近候補に入っているのだろうか?

 困惑しながら兄と答えていくと、殿下だけでなく、何故か側近の二人までニコニコした顔でこちらを見ていた。


「二人共非常に博識で感心したよ」

「いえ、殿下の足元にも及ばず……」

「そんな事はないよ。特に街道の整備に関しては王都でも取り入れたい。今度役人をシステラム伯爵領へ派遣しても良いかい?」

「もちろんです。父も喜ぶでしょう」


 前世は大手ゼネコン勤務だったという兄は建築系に大層詳しく、以前からちょくちょくと父にさり気なくアドバイスを施していたらしい。

 お蔭でかなり良好な街道整備が出来ている。それが王家の目に留まったのは喜ばしいことだ。

 もしこれが縁で兄が側近に選ばれたら、我がシステラム家も安泰である。仮に姉と妹の二人が何かをやらかしても見逃してくれる確率が上がるというものである。


 いや、しかし待てよ……


 逆に変に王家に近づくと、都合良く解釈した二人が調子に乗るかもしれない。

 却下だ。

 出来るだけ関わらないようにしよう。

 兄もそう思ったのか、私が何か口を開く前に殿下達への退席の口上を唇に乗せた。


「申し訳ございませんが、実は本日妹二人、長女と三女が体調を崩しておりまして。素晴らしい茶席の中で退席するのは心苦しいのですが、本日はそろそろお(いとま)させて頂いて宜しいでしょうか?」

「ああ、話は聞いているよ。妹さん達は災難だったね?」


 主催である公爵家のパルマが気の毒そうな顔をする。兄の嘘八百を信じたパルマに罪悪感を覚えた。

 そんなパルマの援護に、兄はわざとらしく悲しそうな顔しながらため息を吐いた。


「二人共不安らしく、一緒に居て欲しいとせがむのです。二ヶ月後には学園に入学して余り一緒の時間も取れませんので、今は出来るだけ傍に居てあげたいと思っているのです」

「そういうことなら残念だが仕方ない。……でも、ミルフィー嬢は残ってくれるのだろう?」

「え、あの……、その、馬車が一台しかないので…」


 当然一緒に帰る心積もりだったのに、思わぬ殿下の発言に動揺する。

 それをどう解釈したのか、何故か帰りは別の馬車を用意してくれることになった。

 つまり、強制的に残るようにされたのである。


「お、お兄様……」

「ミルフィーはゆっくりしておいで」


 縋る私を兄はあっさりと切り捨てた。

 自分だけ逃げるつもりだ。

 思わず兄の嘘くさい演技を暴露してやりたい気持ちになった。

 だが、泣きそうになっている私を兄は見捨てなかった。

 殿下達に帰りの挨拶をした後、何故か令嬢の輪の中に入って行った兄は、その中で一番高位だった令嬢の一人に声を掛けて自分の座っていた席へと促したのだ。

 当然声を掛けられた令嬢は、兄が先ほどまで座っていた席に着く。

 これで、私一人が殿下達を独占するという状況を脱することが出来た。

 さすがはお兄様、出来る男は違う。

 そして思い掛けない令嬢の登場で驚いている殿下を尻目に、私もすかさず席を立った。


「殿下、わたくしだけが皆様のような紳士を独り占めするのは忍びないので、他のご令嬢方もこちらに呼んでも宜しいでしょうか?」

「……あ、ああ…」


 動揺して思わず頷いてしまったようだが、確かに殿下の言質を取った。

 慌てて止めようとする殿下に気付かない振りをして席を離れ、私は二番目に位の高いご令嬢の方へと向かった。

 ご令嬢方にも意図が分かったのか、そのまま一人のご令嬢が輪の中から出てくる。

 そして当然のように空いた私の席へと座った。

 それを確認して、今度は私がその令嬢の座っていた席へ着いた。これで入替が終了だ。


「いい判断だわ…」

「恐れ入ります」


 残ったご令嬢からの言葉に素直に頷いた。

 相変わらず圧は強かったが、身の程を弁えて席を譲ったことは評価されたらしい。

 これが姉や妹だった場合はそう簡単にいかなかっただろう。

 どれだけ高位貴族の令嬢が席を譲れと言っても、絶対に頷かなかった筈だ。


「けれど、少しくらい見目が良いからといって調子に乗らないように」

「はい……」


 文句を言いつつも見目が良いなんてお世辞を言ってくれるなんて、何て優しいお嬢様だろう。

 内心では大層歓喜しながらも表面上はしおらしく頷き、私はお義理程度に一杯だけお茶を飲んで茶会を後にした。

 会場を出る時、視界の隅で令嬢から強引に迫られている殿下が見えた。

 自分に興味を示さない私を令嬢避けにしようと思ったのだろうが、その事で虐められるこちらの身にもなって欲しい。

 困れ困れ…と内心で黒いことを考えながら馬車留めに向かうと、帰ったはずの兄が馬車で待っていた。


「お兄様、待っていて下さったのですね」

「お前なら直ぐにくると思ってな」

「お兄様がご令嬢を引き入れて下さったので助かりました」

「ホストの許可を取らない行為なので本来ならマナー違反だが、あのような場合なら問題ないだろう」

「当然ですわ。虫除けにされたこっちはいい迷惑です」

「お疲れ様」


 第二王子殿下の登場というイレギュラーは有ったものの、知りたかったことは知ることが出来た。

 姉の言う世界でも、妹の言う世界でもなかった。

 それが分かれば十分だ。




 だが、二人にどれだけ今日のことを伝えても、二人は一向に納得しなかった。


「はぁ?私が行かないのだから王弟殿下に会えないのは当然じゃない!私がピンクのドレスを着ていく事で開放されるイベントなのよ!」

「キュリオ様という公爵子息はいない?あらっ、私ったら名前を勘違いしていたのかも。ところで王子殿下はどうだったの?まぁ、私が居れば殿下は私に釘付けだったでしょうね。残念だわ。次に期待しましょう。ところでお兄様、次の茶会はいつかしら?」


 何度説明しても二人は自分が主人公で、ここがゲームの世界だと思い込んでいる。

 どれだけ違うと言っても聞く耳を持たない。


「私達も転生者だと説明した方が良いのでは?」

「俺はともかく、お前はライバル認定されて今よりも更に当たりが強くなるだけだと思うぞ」


 二人に、自分も転生者だとカミングアウトした場合を想像してみる。

『ヒロインは一人だけで良いのよ!』と言って排除される未来しか思い浮かばなかった。

 内政系の姉はともかく、ハーレム系の妹は間違いなく私を排除してくるだろう。


「カミングアウトはしない方向で……」

「了解」


 それにしても、なんで私はこの世界に転生したんだろう?

 どう考えても私はモブ系だし、この生活に意味があるようには思えない。


「………どうせ転生するなら魔法とかで私Tuee 無双とかしてみたかったな」

「気持ちはすげぇ分かる。俺も冒険者とかになって美女ハーレムとかやりたかった…」

「「はぁぁぁ……」」


 しかし現実はとても残酷だった。

 魔法無双どころかこの世界には魔道具すらないし、やっている事と言えば痛い姉妹の喧嘩の仲裁ばかりである。

 唯一の救いは前世より容姿がいいことだろうか。

 とはいえ、誰もが振り向く容姿という訳ではなく、この世界の一般的な貴族の顔立ちである。

だが前世に比べれば遥かに美形である為、私は自分の容姿には満足しているし、兄も同様の様子だった。


「魔法無双は諦めるとして……、折角転生したんだから少しだけズル(・・)はしてみないか?」

「……と言うと?」

「前世知識を生かした商品の開発だ。定番だろ?」

「それは良いですね!これくらいのズル(チート)は神様も許してくれるでしょう!ガンガン稼いで、あの二人が何かやらかした時の慰謝料を貯めておきましょう」


 父が二人を矯正すると言っていたが、過度な期待はしないでおこうと思う。

 見た目は十歳そこそこの子どもでも、私達と同じ転生者だ。無駄に知恵がある分、親の前だけ従順な演技をされては防ぎようがない。

 つまり、父の教育が上手く行かなかった場合、高確率であの二人が騒動を起こすのは確定しているという事だ。


 だから私と兄はお金を稼ぐことにした。

 慰謝料、迷惑料、お見舞い代……

 あの二人の今後を考えれば、お金はどれだけ有っても困ることはないだろう。


「じゃあ、早速父上に相談だ」


 そうして子どもらしくない会話で相談を終えた私達兄妹は、父上の執務室へと突撃したのだった。


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