第7話 【竜星と皐月】
前回の投稿から一カ月もあいてしまった・・
今回は、長文になっています。お付き合いください
過去編ということでいろいろ考えながら書きました。ほんとに人が増えるとキャラ設定がこんがらがって大変ですね。(トホホ)
⁇と表記していたのを名前出しして、物語を進めていきます。
竜星 「皐月姉ちゃんとの出会いについてはこの前、話した通りなんだけどさ。皐月姉ちゃんは俺達と家族になった時にはすでに芸能人で。女優やアイドルをやってた。『ファレノプシス(phalaenopsis)』ってグループで、センターをしてたのが皐月姉ちゃんなんだ」
『ファレノプシス』…5人組の大人気アイドルグループ。チームメンバーはそれぞれ蝶の名前を芸名に使っている。芸名は継承式で引退・卒業後は新メンバーが継承している。現在もファレノプシスというチームは存在しているがどのメンバーに名前が継承され続いているのかまでは竜星たちは知らない。西洋でファレノプシスと呼び、日本の胡蝶蘭にあたる。花びらが蝶に似た大型の花の植物。胡蝶蘭は日本では『ファレノプシス・アフロディーテ』と呼ばれ、アフロディーテのように『愛』と『美』を兼ね備えたグループになってほしいという意味が込められているそうだ。ファンを魅惑的な踊りで翻弄し、気品の高さでトップアイドルへとのし上がっていったのが『ファレノプシス』である。
柚菜 「う…うそー!私大ファンだったんだけど。竜星のお姉さんがファレシスの…、でもセンターの人の名前って皐月じゃなかったよ。」
竜星 「一応、グループ内では蝶羽って名前で呼ばれてたかな」
柚菜 「そ、それだ!私、家にいっぱいあるよ蝶羽ちゃんグッズ。」
竜星 「あはは、すっごいファンだね。皐月姉ちゃんも聞いたら喜ぶよ。」
柚菜は蝶羽の熱狂的なファンだったのか気持ちが高まりすぎてうるさかったため、興奮が収まるのを待ち、本題に戻った。
竜星 「ファレノプシスとして活動してる時の皐月姉ちゃんは毎日生き生きとしてて、笑顔が絶えなかったんだ。ライブで地方から帰って来た時や新しい曲を出すときのプロモーション活動の後、家に帰って来るといろんな話を聞かせてくれたり、他のメンバーの話を教えてくれたんだ。休みの日には俺と南海を旅行にも連れて行ってくれて、ライブにも何回も招待してくれた。ほんとに毎日が幸せそうだった。でも、あの手紙から皐月姉ちゃんの顔から笑顔がだんだんと消えていったんだ…」
南海 「お姉ちゃんの元に毎日、見知らぬアドレスからファンレターが届くようになったの。最初はほんとにただのファンの人が送ってきたものだろうと事務所も警戒態勢には入ったけど実害がなかったから対処法が無いって言ってた。でも、どんどんその見知らぬ人の行動がエスカレートしていって写真を送ってくるようになった。その写真には私達家族の写真やお姉ちゃんの隠し撮り写真などがメールに添付されていて、事務所にも郵送で差出人不明の添付画像と同じものが送ってこられてたらしい。」
竜星 「皐月姉ちゃんは、遂に家族の写真にまで手を出されたから、俺たちを巻き込みたくないって家には帰らず事務所に泊まることが増えたんだ。それでも皐月姉ちゃんのメールに家族の職場の写真や学校での風景写真が送ってこられていたらしい。俺は恐怖で震える皐月姉ちゃんのことがほっとけなくて、事務所の人に専属で警護をするのを条件で二人で住める隠れ家を探してもらった。仕事に行くときは必ずついていき、一人でいることが無いよう常に見守り続けた。母さんや南海、そして父さん…にも許可をもらって皐月姉ちゃん専属のボディーガードになったんだ。俺と生活をしてる間は皐月姉ちゃんにも笑顔が少しずつ戻ってきて、メールも来なくなっていたから安心感が俺達には生れていた。そして、ファレノプシスの握手会の日がやってきたんだ。」
―握手会の日(事件の日)―
皐月 「竜星、今日は久しぶりの握手会だから楽しんでいくよ! 私のファンの子がいっぱいいるんだから! お姉ちゃんが取られちゃうって嫉妬しちゃぁダメよー」
竜星 「嫉妬なんかしないってばー、今日は蝶羽さんとしての皐月姉ちゃんを目に焼き付けとくわ。それにメールの一件のこともあるんだからさっ。俺はそっちの方が心配だよ。その人も姉ちゃんのファンなんだろうから、会場に来てるかもしれない。」
皐月 「竜星が守ってくれるんでしょ! やっとその武術が役に立つかもね」
竜星 「もちろん! 皐月姉ちゃんのことは俺が守るから、安心してよ! それにずっとそばから離れないよ」
皐月 「えー、ほんとに?今のって…告白かな?」
マネ 「蝶羽・黄蝶・瑠璃蝶・黒蝶羽・紋白蝶!
沢山のファンの子たちがあなた達の登場を待ってるわ!まずはミニライブからよ! 会場を盛り上げてきなさい!」
ライブが始まると会場はファンの声で熱狂の壁に包まれ、一気にファレノプシス此処に在り!という雰囲気になった。ライブが終わりファンたちはメンバーそれぞれの握手レーンに整列しはじめ、先程迄の声援は止んでいた。
マネ 「すぐに握手会始めるから、着替えてレーンに行っちゃってね。竜星君は蝶羽についてあげてね。他はいつもとは違うボディーガードの人つけてるから。くれぐれも蝶羽のことは頼んだわよ。一応私服スタッフも紛れ込ませてあるから不審な人物が居たりしたら知らせるようにしてあるから。あとこれ、小型マイクね、服にでも忍ばせといて、やり取りするのに使うから。じゃあ、いこっか。」
竜星は蝶羽を連れて、握手会の配置につき、開始の時間を待った。ファレノプシスの握手会は前後半に分かれていて、お昼休憩を1時間半挟むという編成だ。前半は、特に何か起きることはなく、ファンの人も蝶羽との久しぶりの握手を楽しんでいた。昼休憩になり…
竜星 「蝶羽さん!お疲れさまでした。警戒はしてましたが何事もなく握手が進行できて良かったですね。」
皐月 「竜星ってば、今休憩中だよ!堅苦しい言い方やめてよ!姉弟なのに距離感じちゃうよ。せっかく安心できたのに竜星の言葉遣いに安心できません!」
竜星 「皐月姉ちゃん、ごめんって、他のメンバーさんもいるしさすがに気を使うって」
黄蝶 「全然、大丈夫よ~。君ら姉弟のやり取り見てたら元気出るし、私は好きだよ~」
紋白 「いいよね~、姉ちゃんのことは必ず守るだってさ!弟にも見習ってほしいものだよ。竜星君、最高!」
竜星 「ありがとうございます!お二方にそのように言ってもらえて、嬉しいです。もちろんみなさんのことも守りますよ!」
黒蝶 「頼もしいな、弟君よ!でもまずはうちのセンターをしっかり守ってね、いいね?必ずだよ!助けて…(小声)」
竜星 「黒蝶羽さんっ、待ってください!少し話しましょう。」
二人は黒蝶羽の指示で、人気のない通路に移動した。
黒蝶 「実は…今回の蝶羽の脅迫の件には、やばい組織が絡んでる…。でもこのことは誰にも言えなくて…」
竜星 「なんでですか!組織って?危険を犯して握手会をしてはダメです!何か起こる前に中止にしなきゃ!」
黒蝶 「それじゃ…ダメなの…。お母さんが…。誰かに喋ったら殺されちゃう…。あいつに口止めされてるから…。」
竜星 「(そんな…。一体何が…。)このことは、スタッフさんたちは知らないんですか?組織って何ですか?」
黒蝶 「スタッフには言ってない…。蝶羽のことはごめんさない。でも今は何も言えないの、今日を乗り切るまでは…。だからこのことは内緒にして…。守ってね…。あいつから…。」
竜星 「そんな俺一人で対処できることじゃないぞ…。あいつって誰なんだよ…。(とりあえず⁇1に動いてもらうか)」
マネ 「はい、みんな時間だよ。ファンの人たちが待ってるよー。レーンにお願いします」
休憩室で談笑していたメンバーたちは後半の時間になり、各レーンに散らばっていった。最後の黒蝶羽の一言が引っかかり、俺はある人物に電話をしに行った。他のメンバーやスタッフに悟られないよう普通に接しながら皐月の元へと戻った。
皐月 「さぁ、次いくぞー! 竜星張り切っていこ―!」
竜星 「あ…、姉ちゃん元気すぎだってば…」
握手会レーンにつくと先程、一番最初に来てくれていた女の子ファンがまたしても先頭にいた。
竜星 (あっ、さっきも先頭にいた人だ。皐月姉ちゃんの大ファンなんだな、愛されてますな~)と思いながら、警戒態勢に戻った。
⁇ 「前半も来たんですが、覚えてますか?」
蝶羽 「風花ちゃんだよね!また来てくれてありがとう」
風花 「私!次の新メンバーオーディションに必ず合格して見せます!蝶羽さんと一緒に活動したいから!」
蝶羽 「風花ちゃんなら可愛いし、魅力的な女性だから絶対受かるよ!一緒に活動できるの楽しみにしてるね!応援してるから必ず合格すること約束だよ!」
風花 「はい!ありがとうございます。次は合格して会いに来ます!」
蝶羽 「うん、まってるよ~、またね~」
この時、竜星が見ていない間に風花は竜星と出会っていた。風花が覚えているといったのはこの場面なのだろうか。その話は、またいずれどこかで話すとしよう。
順調にファンと握手を進めていると、無線が鳴った。
マ1 「紋白蝶の握手レーンに不審な人物がいます。警戒してください」
マ2 「黄蝶の握手レーンにも不審な人物が出現しました。警戒態勢に入ります。」
マネ 「不審人物が出た近くにいらっしゃるスタッフ、ボディーガードの方は急行してください。」
蝶羽の近くにいたボディーガードも4人は残り、他の人たちは2つのレーンへと応援に向かっていた。その時、無線が入った。
マ1 「紋白蝶の握手レーンに現れた不審者はダミーでした」
マ2 「こちらも同じくダミーです。」
無線を聞いた俺は、より周囲の方に目を光らせた。すると、深く帽子を被った、長髪の男が蝶羽の握手レーンに並んでいるのが見えた。残り少しでその男の番が来るので、無線で応援を呼び警戒態勢に入った。男の順番が来ると、その男は俺の方を見てニヤリと笑って言葉を発した。
不審 「やっと、会えたな、君のお姉さんには死んでもらうよ。それに俺だけじゃない…」
竜星 「みなさんは、蝶羽さんとファンの方々を安全なところに早く!」
蝶羽 「竜星!無理しないでね」
竜星 「大丈夫だよ、姉ちゃん…。」
男はゆっくりと蝶羽に右手を差し出し握手を…いや違う、左ポケットから刃物を取り出し蝶羽の腹部に向かっていた。二人の護衛に蝶羽を楽屋に連れていくようお願いし、俺は瞬時に左手の動きに気づき止めに入った。護身術を巧みに生かしてナイフを持つ手を抑え、蹴りを一発男の脛に与えた。しかし、相手の仲間の男に後ろから腹部を刺された。
竜星 (ぐはっ!)
⁇ 「やっと、復讐できたよ、でも僕の手でもう一度痛みを加えてあげるね、二年前の空手大会以来だな、竜星!(ナイフを刺す)まさか君たち姉弟が俺の都合よく、家族になっていたとはな。お前の姉には裏でやってた仕事を一度見られたことがあって口封じをしたかった。元々は、今回の計画は全てお前に復讐するため。お姉さんには何の罪もないが…、どうせなら二人一緒に始末しようと思ってな。脅迫状を繰り返してると姉が心配なお前はのこのこ出てきて護衛係となった。
あの大会でお前のような初心者に負け、いつも笑って空手をやってるお前が憎かったよ。俺は高校を中退し、事あるごとに揉め事を起こしていろんな奴と喧嘩した。そして俺に手を差し伸べてくれたのが〝双竜会〟。そこで2年、裏の仕事にも何度も手を染めた。今では双竜会の右腕になってな…」
仲間 「黒虎さん、周りにはこいつしかいません。今なら誰にもバレずにバラせますよ。」
黒虎 「(辺りを見渡す)あぁ、それもいいな」
竜星 「黒虎…お前だったのか…(血を吐く)、姉さんには手を出させない、それに俺だってただじゃ…終われない。お前らを捕まえる。」
黒虎 「血まで吐いてるやつが笑わせるね。捕まえるお前が!アハハハ!」
竜星 「捕まえるのは俺じゃ…ない…。」
俺が言葉を言い終わるころ、武装をした集団が勢いよく近づいてきて俺たちを取り囲んだ。
黒虎 「なんだ!こいつら!」
⁇1 「やっと、見つけたぞ!双竜会右腕の黒虎!取り押さえろ!竜星!お前は無茶しやがって、すぐ、病院に行くぞ!担架に運ぶんだ!」
竜星 「父さん…。皐月姉ちゃんは…無事かな…。俺のせいで…怖…」
竜父 「それ以上喋るな!皐月ちゃんなら父さんに任せろ。それに黒虎たちは逮捕できた。」
竜星を乗せた救急車は近くの病院にいき、手術を開始していた。竜星の一報を聞いた母と南海、比奈が手術室の前に到着した。
竜星の父は握手会場で事件の後処理をし、黒虎とその一味を連行するためパトカーに向かっていた。
黒虎 「まさか、あんたが竜星の親父さんだったとはな、俺の作戦もすべて水の泡になってしまったじゃねぇーか」
黒蝶 「黒虎!私の大切な人たちを傷つけるのはもうやめてって言ったはずよ!竜星君は蝶羽にとって大切な弟なのよ!それを自分が竜星君との試合で敗れたことを理由に復讐しようだなんて勝手すぎる!お母さんも解放してよ!あんな置手紙置いてお母さんが消えるわけないって私にだってわかるわよ!あんたは自分の欲の為だけに人を殺そうとした。竜星君は今も手術中、回復するかもわからない…、あんたなんか弟でもない、家族でもない、悪魔よ!二度と私たちの世界に帰ってこないで。私は…二人に合わせる顔がない…。」
竜父 「君のお母さんなら無事に助けたと知らせがあったよ、竜星の奴から電話があった時に双竜会の別件で刑事たちが張り込みをしていたからね。監禁されていた人達の中に君のお母さんも居たそうだ。黒虎!お前には厳しい処罰が下るだろう。殺人未遂だからな。多くの人を巻き込んだテロ行為まで犯した。お前たち双竜会も終わりだ。残党もすぐにお前と同じところに送る。
黒蝶羽…いや、優花里ちゃん。竜星の元にみんなで行ってやってくれ。皐月の精神状態も不安だ。側に居てやってくれないか、幼馴染なんだろ…。俺もこいつらを送ったらすぐに行く。居づらいかもしれんが皐月のそばにいてやってくれ…頼む。
さぁ、歩け!お前らには今まで犯してきた罪全てを吐いてもらわにゃいかんからな。」
黒虎 「すぐに吐くかよ、でもこれだけは言っておく。姉さんすまなかった。余計なことに巻き込んで。俺は二度と姉さんにも母さんの前にも現れない。それぐらい多くの人を悲しませてきたから。正直、竜星が強かった理由がわかったよ。あいつはあんたに育てられ、家族を守ろうとする強い意志みてぇのがあったんだな。俺にはそんなのなかったよ。ただ、力で権力で相手を黙らせることしか考えられなかった。」
竜父 「語ってるところ悪いが、懺悔なら聞かんぞ。話なら尋問で聞いてもらえ、俺は早く、息子が元気な姿を見たいんだ。」
黒虎らを連れたパトカーは警察所へと向かった。その頃、皐月と優花里、他のメンバーは竜星が搬送された病院に向かっていた。竜星の手術が始まって約3時間ほどたった頃、ようやく手術室の扉が開いた。
竜母 「先生!竜星は…、うちの息子は…、」
先生 「手術は成功しました。一命は取り留めましたが、いつ目を覚ますかは、竜星君次第かと…。病室はお父さんの要請で個室を用意しております。病室で竜星君に声をかけてあげてください」
竜星の手術は成功し、病室に移動された。手術中に合流していた皐月は、医者から手術が成功したと聞かされたが、意識がない状態だと知らされその場に倒れこんだ。優花里もうまく声をかけることができず、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
南海 「そんな…お兄ちゃん…(泣)」
比奈 「竜星…、無事でよかったよ…、でも早く目を覚ましてよ…、いつもみたいに笑ってよ…(泣)」
竜母 「あなたは、よく守ってくれたわ。目を覚まして無事な姿を見せてちょうだい。皐月も優花里ちゃんも来てるのよ。あなたの周りにはこんなにもたくさんの人が居るの。」
【タッタッタッタッ、ドンッ】
竜父 「遅くなって、すまない。竜星の手術は成功したって…。よく頑張ったな、息子よ。今は寝ててもいい、でも必ず目を覚ましてくれ。お前とは話したいことがいっぱいあるんだ。こんなにも多くの人がお前のそばに居る。みんなと笑ってるお前のことが好きな人たちがな。」
面会時間ぎりぎりまで、竜星の側を離れずにいた両親たちは、面会時間も終わりだから明日また会いに来ようと言い、南海たち、ファレノプシスのメンバーたちの二つに分けて送ることにした。
〝ファレノプシス〟サイド
優花里 「ごめんなさい、竜星君のこと…。謝っても償え切れませんよね…。刑事さん、黒虎は…どうなってますか?」
竜父 「優花里ちゃんのせいじゃないよ。私としても息子が殺されかけたから許すことはできない。あいつなら尋問中だからどうかは分からないが、今回の計画についてはかなり話していたよ。まぁでも、刑務所送りにはなると思うよ、一応覚悟はしておいてくれ。お母さんは警察病院にいるから、明日尋ねてみなさい。お母さんの無事を確認してあげて。」
家族サイド
南海 「お兄ちゃん、大丈夫かな…何で刺されなきゃいけないの…」
比奈 「南海ちゃん、明日から毎日、竜星に会いに行こう。起きるまで何度でも声をかけ続けよ。私たちの声を聴いて起きてくれるかも。何で、竜星があんなことになっちゃったんだろうね…」
皐月 「みんな、ごめんね、私のせいで…。竜星を危険に巻きこんじゃった。私が護衛なんか頼まなければ…。家族まで不安な気持ちにさせちゃって。」
竜母 「皐月、あなたが謝ることじゃないわ。竜星はあなたを守りたくてあなたについて、ファレノプシスの護衛に付いたのよ。あなたは無事にだったのだからその姿を竜星に見せてあげなきゃ。ほら、二人も泣いてばっかり、暗い顔ばっかりせず、明日からは笑って笑顔を見せてあげなきゃ。」
皐月 「そうだね、お母さん…。明日から活動も一時休止になったから、毎日竜星に会いに行かなきゃ。お話したいこといっぱいあるから。」
翌日から毎日、日替わりで家族やファレノプシスメンバーが交代で見舞いに訪れた。比奈だけは、毎日学校が終わるとすぐに病院に駆けつけていた。
比奈 「ねぇ、竜星…。今日学校でね…」
比奈は毎日来ては、学校で起きたことや、近況報告、時には南海と二人でやってきて、お花を飾りに来たり、泊まり込みで看病していた。比奈はいつも語りかけるときは、竜星の手を握っていた。
竜星が目を覚まさなくなってから4カ月が経ったころ、ファレノプシスの活動は再開されていた。皐月は、いち早くそのことを伝えたくて竜星の元に訪れていた。
皐月 「今日からね、活動が再開されたんだよ。あの一件から脅迫は何もなくなって、私達の運営もすごい強化されたんだよ。なんかね、お金持ちのグループの人が経営してる会社と合併したらしくて、私達の活動も世界に目を向けてるんだってさ。それとね、私、その社長さんに世界で勝負しないかって誘われて本格的に女優にシフトチェンジしようかなって思ってるんだ。ファレノプシスにも新しいメンバーも入ってきて、私の名前の後任にもなってくれる子が育ってきたんだ。私、ファレノプシスを卒業しようと思う。結構悩んだよ、でもね、女優としても挑戦してみたいし、守られるだけじゃなくて、一人の女性として、お姉ちゃんとして成長したいって思ったんだ。こんな勝手なお姉ちゃんを応援してくれるかな竜星…。」
皐月は、悩みに悩んだ決心を竜星に話しかけていた。すると、皐月の問いに答えるように、皐月の握っていた左手を握り返してきた。
皐月 「えっ!竜星!今…。手を…。」
そして、もう一度、竜星の手が皐月の手を握り返してきた。
竜星 「……。姉ちゃ…。」
皐月 「竜星!聞こえてるよ!私先生呼んでくる!」
皐月は医者を呼んできて、状況を説明し、竜星の様子を見てもらった。
先生 「これは、びっくりだ。今まで、身動き無かった竜星君が…。」
竜星 「俺は…何日眠ってたんですか?」
先生 「4カ月だよ。ずっと意識がない状態だったんだ。手術は成功したんだがな。」
竜星 「そんなにも長くですか。じゃぁ、すごい皆に心配かけちゃったな。」
先生 「親御さんに電話してくるから、安静にしておきなよ。お姉さんとも積もる話があるだろう。疲れない程度にね。」
皐月 「よかった、よかったよ、りゅうせーい!やっと目を覚ましてくれたんだ!ごめんね、私のせいでこんな危ない目に合わせちゃって…。」
竜星 「わー!抱き着かないでよ。一応病人なんだから。皐月姉ちゃんが無事で何よりだよ。あいつは許せないけどな!そうだ、握手会の後はどうなったの?」
皐月 「お父さんが来てくれて、黒虎達と双竜会を逮捕したって言ってた。黒虎は刑務所に収容されたってニュースで言ってたよ。実は、黒虎は黒蝶羽である私の幼馴染、優花里の実の弟だったの。」
竜星 「そうだったのか、俺としては、皐月姉ちゃんたちが無事だったことの方が嬉しいよ。犠牲者は俺だけだったんだね。他の誰かが傷つかなくて良かった。黒虎は、2年前の大会から俺を憎んでたって言ってた。俺はあの大会をきっかけに空手だけではなく護身術を学ぶのが楽しくなったんだよな。人ってのは道を踏み外したらあんな悪魔を誕生させてしまうんだな。痛いほど学んだよ。」
皐月 「うん。そうだね。それでさ、さっきの話なんだけどね。たぶん聞いてなかったと思うからもう一度言うね。」
竜星 「ファレノプシスを卒業して、海外で女優さんになって、俺たち家族を養ってくれるって話でしょ?」
皐月 「うそ!聞いてたの!意識なかったのに!ちょっと~最後は違うんですけど!でも助けてもらっちゃったしな~、いつか恩返しはするよ!それでさ、竜星の意見を聞かせてほしいかな」
竜星 「俺の意見も何も、もう意志は固まってるんでしょ。それにさ、俺は賛成だよ!姉ちゃんが決めたことだってのもあるけど、皐月姉ちゃんには自由に羽ばたいてほしいかな。ずっとアイドルとして活動して、辛いことや大変なこともあったと思う。家族のことだって結構気にしてくれてたじゃん。俺も南海もまだ子供だったからさ。俺も来年には大学生だし、比奈もいる。姉ちゃんが海外で寂しくなったら帰ってきてくれたらいいよ。俺たち家族なんだからさ、いつでも姉ちゃんが帰ってくるところは空いてるから。」
皐月 「もう、バカ!感動しちゃうじゃん!ありがとう!今本当に決心したよ。私海外で挑戦してみる。すぐには帰ってこられないけど、またすぐに会えるよね!だって家族だもん!」
竜星 「そうだね、皐月姉ちゃん!」
二人が姉弟仲良く抱き合って、感動し合っていると…
南海 「おにいちゃーん!目が覚めたんだね(泣)会いたかったよー!
はいはい、皐月姉ちゃんは充分くっついたでしょ!離れてよー、私の番だもん!」
竜星 「だから、勢いでくっつかないでってば…」
比奈 「竜星っ!起きたんだね…おかえり!」
竜星 「ただいま!比奈・南海、母さん・父さん。またしてごめん。」
父母 「なに、謝ってんのよ。目覚めてくれただけで嬉しいぞ。」
竜星の目覚めの一報を受けた家族が到着し、皐月も含めてみんなが竜星に抱き着いていた。
竜星 「もう、だから、俺病人なんだってば…、今はいいか、俺もみんなに会えて嬉しいよー!毎日来てくれてたんでしょ、ありがとう。比奈と南海は学校の後、来てくれてたんだってな。」
比奈 「そうよ、毎日…声掛けてたんだからね。早く会いたかったから。ずっと、寂しかった。竜星といつも一緒にいたから。待ってたよ。早く元気になってよ、大学一緒に行くんだからさ!」
竜星 「寂しい思いさせてごめんな。先生も安静にしてたら治るって言ってくれたからさ。それと、皐月姉ちゃんからみんなに話しておきたいことがあるんだって。聞いてあげてよ。俺はもう聞いたし、意見も言った。後は、みんなの気持ちを聞きたいかなって」
竜星の元気な姿を見た、両親たちは医者に今後の経過観察のことや学校への連絡などに動いてくれていた。病室に残った若者たち。皐月は自分の決心と竜星から夢への後押しされたことを比奈と南海に話した。二人も皐月が決めたことなら応援すると言った。確かに離れて暮らすことにはなる、いつもみたいにお話をしたり、遊んだりはできなくなる。でも、必ずまた会えるからと…。旅立ちまで一緒に暮らそうと約束をした。竜星は、2週間の入院の必要があると診断され、両親たちは皐月を連れて病院を後にした。
皐月 「お父さん、お母さん。私、ファレノプシスを卒業して、海外で女優として挑戦してみようと思います。応援してくれますか?」
両親 「皐月が決めたことなんでしょ。私たちは全力で応援するのみだよ。詳しい話は、さっき竜星から教えてはもらったからさ。家族みんな、皐月の味方だ。誇りに思うよ、未来の大女優さんかー」
皐月 「もう、お父さんってば、気が早いよ。期待に応えられるよう頑張ってきます。」
竜母 「でも、お金とかの方はどうなの?あなた一人で行くの?」
皐月 「実は、事務所の新しい社長さんが全て手続きもしてくれるらしいんだ。今、ファレノプシスの運営にも携わってる方で、今回の海外の件も社長さんが提案してくれたの。3か月後に社長さんたちが海外に飛び立つから一緒に行こうって。すごくいい人なんだよ。紳士で娘さんが一人いてね、豪邸に住んでるらしいよ。しかも娘さんもすごく可愛くてね!お父さんの仕事の手伝いだって言って、ファレノプシスのマネージャーしてるの。」
竜父 「ほう、社長さんには一度ご挨拶に伺わないといけないな。娘を預けるのだから。ファレノプシスにも新しい風が吹き始めたんだな。なんだか、今回の事件もあってか、より家族の絆が深まったように感じるな。少し前までは再婚同士だったから、気まずかったり、子供達には不安な気持ちにさせてるんじゃないかと思ってた。」
皐月 「全然、そんなことないよ。私はお母さんが幸せそうにしてて自分の事のように嬉しかったし、南海ちゃんも竜星もすぐ仲良くしてくれて、甘えてくれたときなんか弟・妹がいるっていいなって思ったんだ。だから私はお父さんに出会えてよかったよ。家族になれて幸せです。竜星にも言われたんだ。海外で寂しかったら帰っておいでって、姉ちゃんがいるべき家族はここにあるよって。」
竜父 「ハハハ、まったく竜星の奴もかっこいいことを言うじゃないか。私も幸せだよ。今、こうしてみんなと一緒に暮らせていることにね。早く竜星には帰ってきてもらわねばな。」
皐月の海外への挑戦を承諾してくれた両親、そして家族として心が一つになった時間だった。
2週間の月日が経ち、入院生活を終え、久しぶりにわが家へ帰宅した竜星。この日は、竜星の退院祝いとして、家族とファレノプシスが集まってパーティーが行われた。それからというもの、皐月は渡米前ということもあり、準備で家を空けることも多くなり、竜星も学校に復帰し、比奈との生活に戻った。時間というのは意外にも早く、ファレノプシスで活動する蝶羽としての最後の卒業コンサートも終え、皐月の旅立ちの日を迎えた。
〝ファレノプシス〟サイド
皐月 「それでは、みなさん行って参ります!絶対、活躍して帰ってくるので応援よろしくお願いします。優花里:これからのファレノプシスのこと幼馴染として元メンバーとして応援してるから、リーダーは大変かもしれないけど頑張ってね。何かあったら、いつでも竜星を頼っていいから(笑)、
風花ちゃん:蝶羽はあなたに託します。ファレノプシスをもっと盛り上げていってね。風花ちゃんは可愛いんだから、自信もって頑張るんだよ。みんなもね!行ってきます!」
優花里 「皐月!応援してるから!たまには連絡してよ!待ってるから」
風花 「皐月さんが築き上げてきた蝶羽という名前を汚すことなく、美しく羽ばたきます!私も応援しているので、頑張ってきてください!」
家族サイド
両親 「気を付けて行ってくるんだぞ、連絡ぐらいしなさいよ。海外だって物騒なんだから。もう竜星が守ってくれないわよ。周りに心配かけないようにね」
皐月 「もう、大丈夫だってば、成長するって言ったもん。連絡だってするから。」
南海 「皐月姉ちゃんのこと応援してるからね。元気でね、お姉ちゃんが居なくなったらお兄ちゃんは独り占めさせてもらうもんね!」
皐月 「えーダメだよ~、毎日私と電話するんだから、そんな暇ありませんよー。」
比奈 「それこそ、ダメです!皐月さんは女優のお仕事に励んでください!私と竜星はこれから忙しくなるんですから!夜も勉強会なんです!」
皐月 「そんな~。弟との時間も取らせてよ~、比奈ちゃんはいつも一緒に居れるんだからさ~。そうだ!卒業式と大学の入学式の写真は送ってね!楽しみに待ってるから!」
竜星 「もちろんだよ、皐月姉。無事大学合格したら連絡するから、それまで過度な連絡はお控えくださーい!実際には会えないけど、遠くから応援してるからさ、大女優になってよ!自慢できるしさ(笑)俺、皐月姉が笑ってる姿見るのが好きだから」
皐月 「えっ、それは告白⁉オッケーしちゃおっか(笑)私もみんなと一緒に居る空間が好きだったよ。あーダメだしんみりしちゃうからもう行くね。必ず、みんなに会いに帰ってくるから!そのときまで元気でね!バイバイ!」
皐月はみんなに別れの挨拶をして社長さんたちが待つ、搭乗口の方へと向かっていった。
皐月 「あっ、そうだ!竜星に渡すものがあったんだ!」
皐月は後ろを振り返り、竜星の元に駆け寄ってきた。
皐月 「そういえば、あの時のお礼、返しそびれてたよね。」
と言って、竜星の右頬にキスをした。
皐月 「助けてくれた時のお礼だよ!いつもそばで応援してくれてありがと。大好きだよ、竜星!」
竜星 「さ…皐月姉…。うふふっ、俺も好きだよ、姉ちゃん!ほら、みんなが待ってるよ!いってらっしゃい!」
皐月 「うん!いってきます!」
皐月は竜星にずっと伝えたかった想いを伝えて、未来に向かっていった。もちろん、皐月と竜星のやり取りをみんなに見られていたので、からかわれたり、いじられたりと大変だった。南海と比奈に至っては、別の意味であしらうのに大変だった。
南海 「お姉ちゃんズルい!別れに乗じてキスまでするなんて、断れるわけないじゃん!ムキャー!」
比奈 「私でさえも、まだ気持ちも伝えれてないのにー!お姉さんに先越された…。」
竜星 「はいはい、姉弟の抱擁の時間だっただけじゃない。そんなに怒ることじゃないでしょ。」
比南 「お兄/あんたは黙ってて!そもそもお兄がキスされたからこうなっとんじゃ!覚悟しろー!」
風花 「なんか。微笑ましい家族ですね。皐月さんが弟君たちのことが大好きだって言ってた意味が分かりましたよ。それに竜星君か…。久しぶりに見たけど、かっこいいですね。あの握手会の日から助かって本当に良かったです。心配してたので。」
優花里 「でしょ、皐月の気持ちが分かるわ。あの子たち見てたら、自然と頬が緩んじゃうもん。可愛らしい子たちだわ。竜星君には危険な目に巻き込んじゃったから、私にできることがあったらしてあげたいかな~。」
二人がおこちゃま3人を親目線で眺めていると、遠くから、優花里と風花を呼ぶ声が聞こえてきた。
穂香 「二人とも~、皐月ちゃんとお父さんの飛行機はもう旅立っちゃったし、事務所に帰りますよー!明日からは新体制でスタートするんだから気合入れていくぞ~!オー!」
このときは、竜星たちから離れたところに3人が居たため、会うことが無く、風花は、また彼らに再会できることを願いながら、空港を後にした。
皐月の旅立ちの日を境に竜星と比奈は本格的に受験勉強をはじめた。皐月は世界に挑戦、竜星たちは大学へとそれぞれの道を歩みだした。
そして、現代に戻る。
竜星 「ってことがあってさ、結構話が長くなっちゃったけど、それぐらい濃い時間を過ごしたんだ。まぁ今は、その時のケガも完治してるしさ。皐月姉の話してたら会いたくなってきたな。いつ帰ってくるんだろう。もう会いたくなってる自分がいるよ。(笑)」
柚菜 「ありがとね。その…過去のこと話してくれて。話聞いてただけなのに、すごいその蝶羽さん…竜星君のお姉さんに会ってみたくなっちゃった。もし会えたら紹介してね」
柚菜は竜星たち家族に起きた過去の事件についての話を聞き、皐月の家族間での立ち位置や自身もニュースで見た事件の中身が壮絶なものだったことに驚きを隠せない様子だった。しかし、過去に起きたことを知れたからこそ、もっとみんなと仲良くしたいと言った。そして、皐月に会いたいとも言ってくれた。柚菜は過去の話をしている最中も相槌を打ったり、感情を表に出してくれたりと正直話してよかったと思える反応を示してくれた。しかし、話が長すぎたのか、感想を教えてくれたが、眠りについてしまった。比奈と南海もうとうとし始めたので竜星は3人を布団に運び、自身も布団に横たわり眠りについた。
第7話 【竜星と皐月】
次回は、少し短い番外編1を投稿するつもりです。
その次からは、ゴールデンウイーク後編を書いていきます!
現実はもう8月か…、早く追いつかねば・・・