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けっちゃ面とキツネ面の赤マント  作者: ミニマムコスモス
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第一章 転校生 7 


     7


 開けて火曜日。

 校内では転校生が早速シメられたという話題で持ちきりだった。

 目撃者の一年生から、相手は五人で、本校の生徒であったという情報が、玉突きのように広がり、その連中が誰なのか、被害者の城島光が知らないというので、色々と、憶測が飛び交っているのである。

 公司は生徒会長の稲垣幸太郎に口止めされていたので、誰にも漏らさなかった。

 先生方は横の連絡があるので五人組の欠席から、その内の一人が入院していることもあって、大方見当がついているはずである。 

 しかし、加害者被害者とも学園の生徒なので、イジメ自殺の時同様に、対応に苦慮しているのだろう。カンフーの衣装をまとった仮面の男が、何者なのか、学園の生徒かどうかもわからないのだ。

 被害者はいつも泣き寝入り、誰も助けてくれず、水森美玖のように追い詰められて死ぬことになる。

 でも今回の場合はちょっと事情が違う。彼らヤンキー連中が何者かの報復を受けたのだから痛快でさえある。今頃は、表番派・影番派とも、面をかぶった怪しげなカンフー男の詮索をしていることだろう。

 稲垣先輩の態度からして城島光を暴行した五人組は稲垣派でないことは確かである。ということは影番派の仕業ということになる。城島光が彼らの気に障ったとしたら、水野美玖に関する放言であろうと公司は思う。

 城島光は女子とは良く話す。女子も同性だと思っているからあけすけな会話をしている。その際にしばしば水森美玖の話題になるのは、影番派ならずとも気にかかるところである。

 城島光は昨日とほぼ同じ姿で登校している。顔の腫れは幾分引いているように見える。

 五時限目の体育の授業は、男子はサッカーで女子はバレーボール。城島光は土手に座って男子のサッカーを見学していた。

 公司は首から吊っている彼の右腕の白い包帯をチラチラ眺めながらボールを追い掛けていた。


「早速、毒饅頭に食らいついて腹を壊したようですな」二年一組担任の加藤史郎が呼ばれて教頭室にやってきていう。

 デスクの上で両手の指を組んでいた黒石教頭は、黒縁メガネを右手の指で押し上げて、「城島光はどのようにいっておりますか?」と訊く。

「それが転校してきたばかりなので相手のことはわからないそうですよ。無理もありませんが。ケガの具合もどうなのかはっきりしないので、家庭訪問して父兄に確かめてみようと思います」と加藤は答えた。

「それではご足労ですが、お詫びを兼ねて家庭訪問して、親御さんに尋ねてきてください。あとで問題になってもあれですから。先方の機嫌をそこねないように、くれぐれも気をつけてね。校長先生に報告を上げなきゃならないので、なるべく早くに」

「わかりました」

 城島光の実家は博多区竹丘町である。出て行こうとするところへ、追い掛けるように教頭はいった。「ほかの先生方にも加害者の家庭を訪問するようにいってあります」

 加藤は立ち止まって振り返った。

「五人の生徒はわかったのですか?」

「実をいうと、要注意の生徒のアリバイを調べていたら、昨日今日、二年生三年生のクラスに、合わせて五人の生徒が、申し合わせたように無断欠席をしている。目撃証言通りに女子二人を含めて。担任の先生方に様子見に行ってもらっているのですよ」

「そうなんですか。五人が昨日今日欠席しているとなると、単なる偶然とは思えませんね」


 公司は目撃した。

 城島光が、迎えにきたボンゴバンの助手席に乗り込む時に、痛めているはずの左足を軸にして乗り込むのを―。

 そうなると包帯で吊り下げている右腕も怪しいものである。


 加藤史郎は電話でアポを取ってから出掛けた。

 自家用車で向かい、電話番号を打ち込んだナビの指示に従って竹丘町にやってきたが、ナビの示す位置には商業ビルが立ち並んでいて、それらしき民家は見かけられなかった。

 なので探していると、線路を隔てた向こう側にあった。線路脇の〈城島〉という表札の家に約束の十九時前に着いて、ホッとした。

 その入母屋造りの立派な屋敷前に車を停め、どこに駐車しようか考えながら竹垣越しに見える日本庭園を眺めていると、お手伝いさんらしき前掛けをした若い女性が木戸から現れて、道路を挟んだ向かい側の駐車場を指して、会釈した。

 加藤は白いコロナマークⅡをその駐車場に乗り入れて駐車した。

 女性に案内されて門から石畳を若干歩き、玄関前にくると、その小柄な女性は頭を下げて、「どうぞお入りください。光がお世話になっております。光の母です」といった。

 加藤は驚いて頭を下げ、担任の加藤ですと言って恐縮した。

 座敷に通されて、日本茶をいただきながら見回すに、床の間に刀剣類や鎧兜などが飾られてあるじゃなし、百合の花など季節の草花が活けられていて、山水画の掛け軸が下げれれているだけ。先入観によるテキヤを思わせるようなものは何もない。ごく普通の日本間だった。

 対面する母親も、丸顔の可愛い顔立ちなので若く見えたけど、よく見るとそれなりに小皺があって、ごく普通の主婦に見えた。

「光が何かやらかしましたか?」母親は顔を傾けて訊く。

「いえ? そうではなく、光さんの方が本校の生徒に暴行を受けて大ケガを。ご存じなかったですか? そのお詫びにまいりました」

「それは存じております。わざわざどうも。子供のケンカですのに」

「ケガの状態がどうなのか本人に尋ねても、何もいわないものですから」

「それならご心配には及びません。傍にいる者の話では大したことはないといっておりますので」

 ということは子供がケガをしたというのに、同じ市内にいて様子見にもいってないのだろうか。

「外見からは相当なケガのように見受けられますが」加藤は親の無関心を咎めるよにいう。

「相手方はわかっているのでしょうか?」

「おおよその見当はついております。いずれ親御さんともどもお詫びにあがると思います。

 ほんというとその前に怒鳴り込んでもらいたいものだ。

 ―相手は何人ですか?

 という声がして、オリーブ色の作業服姿の男が入ってきた。

 端正な顔立ちの優しい目をした中年の男で、四十代ぐらいの年齢に見えた。

 意外にも、「光の父親の城島竜平です」といって、奥方の横に腰を下ろした。

 これまたテキヤの親分とは思えない風貌。二人並ぶと、穏やかなお似合いの夫婦に見えた。

「担任の加藤と申します」加藤は恐縮して居ずまいを正した。「ご質問の件ですが、相手は二、三年生の男子三人、女子二人の五人でした」

「それくらいなら子供のケンカ。親がしゃしゃり出ることはなかですよ。ケンカすればケガもする」

「で、ですが…」

「相手方のケガは?」

「それはまだ、五人とも欠席しておりますんで。それぞれの担任が今日様子見に伺っているところでして。これはでも加害者は本校の生徒かどうかも不明です」

 まだ目撃者の生徒から事情を聴いていないので、実際のところはわからないが、生徒たちの噂では、城島光は一方的に殴られ、蹴られて、イジメられていたという話だ。

「どっちにしても子供のケンカ、そう心配したものではありませんよ、先生。元気な証拠ですたい。はははは―」

「はあ…」


 

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