第一章 転校生 5
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水木金と何事もなく過ぎて、土曜日。
土曜日は午前の授業だけである。給食もないから、部活に入っていない者は掃除をして下校となる。
クラスのみんなはもう転校生に興味を失い、城島光には靴箱からトイレ・職員室・保健室・給食室・図書館・視聴覚教室・講堂など、校内をひと通り案内して、掃除当番も決まったのでやり方を教え、一応の手は尽くした。
あとは付かず離れずしながらわからないことや注意点をその都度教え、見守るだけである。
このまますんなりいくかと思ったけどそうはいかなかった。
二時限目の授業前の休憩の時に、クラスの女子三人組が城島光に近づいて絡み始めた。その中の一人は要注意人物の金村郁子であるから(そう注意はしてある)、無難な対応が望まれる。
「あんたその席、誰の席だったか知ってる?」腕を組んだナチュラルな赤毛という金村郁子がいう。「高橋に聞いてない?」
「さあ、聞いとらんちゃね」
「この学園の生徒が二か月前に飛び降り自殺したんは知ってるやろ」
「ああ、なんかそういえば騒ぎよったねえ」
「その子の席だったんよ、そこ」
「そうね。そうかあ…」
城島光はしみじみ机を見ている。悔しかったっちゃろうんねえ…とつぶやく。
「あんた、よくこんな学園に転校して来たわね。出て行く者はあっても、転校して来る物好きはいないよ」
「イジメた犯人はまだわからんと?」
「犯人? 犯人てなん?」
「よってたかってイジメて、死に追いやった者がいたっちゃろうもん」
自分の席で聞き耳を立てていた公司は青くなった。
「そういうの聞くたびに、むかつくんよねえ」城島光はペッタンコの胸を押さえ、「胸がせつなくなるっちゃ」という。
そして机を両方のゲンコツで叩いて、「そいつらを同じ場所から突き落として、同じ目に遭わせてやりたくなる」といった。
公司は頭を抱えた。
「自分じゃ死にもしきらん弱虫のくせして、人の痛みがわからん奴には同じ痛みを味合わせてやるしかなかろうもん。どうせ反省なんかしとらんちゃろう」
顔は見えないけど、金村郁子ら三人の表情が見えるようだった。