那珂川の決戦 4 最終話
今回で完結します。
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そのあと二人が帰ろうとしていたらパトカーが来たそうで、赤マントの榊原ヒカルは無免許運転の現行犯と傷害容疑で、城島光はチャリに積んであったリュックの中のけっちゃ面から、佐藤妙子への殺人未遂と、数々の障害容疑で逮捕された。
―体誰が通報したんだろう?
城島光は僕が通報したと思っているかも知れないけど、僕ではない。暴走族が逃げたあとから警察が来るなんておかしいだろ。
加藤先生は二人とも家庭裁判所送りになって、検察に逆送致され、刑事裁判を受けることになるだろうといっていた。
けど、警察の取り調べによって城島光の殺人未遂容疑は晴れた。中吊り事件は佐藤妙子と城島光の二人でなしたことだという。
その真相はこうだった。
屋上の柵に縛りつけたロープを下に垂らして、下の階の佐藤妙子の部屋のベランダから、それを、先を曲げた番線で引き寄せ、そのロープで佐藤妙子の両足首と胴体と両手首を縛った。そして椅子を足場にして、逆さまにベランダの柵を越えてぶら下がったのを、城島光が徐々にを下ろして吊り下げたもの。
なんでそんなことをしたかというと、親友の水森美玖さんを救えなかったこと。水森美玖さんがどんなに悔しく怖い思いをしたか、みんなにわかって欲しかった。
と、佐藤妙子が証言し、証言通りの証拠が彼女の体と、屋上の柵と、ベランダの柵に残されていたからだ。
でも、数々の報復行為は違法。正当防衛にもならない。城島光も榊原ヒカルも障害罪で家庭裁判所送りになった。榊原ヒカルは無免許運手のほかに危険運転致傷罪もある。
家庭裁判所の調査官が色々調べて行ったけど、どうなることか。
高木さやかはどこかに転校して行ったし、暴走族〈紅孔雀〉はゴキブリのように、二輪車補足装置に絡まれて、壊滅状態。
学園はかつてない平穏を取り戻した。
公司は時々二人のことを思い出して、二人が戻って来る日を待ちわびていた。
「どうして理事長らの陰謀を追及しないのですかねえ、教頭先生」
「信用問題になるからだろうね。学園運営に関わる者の逮捕者を出したら、お終いだ」
「それにしたって、暴走族を使って―その背後には反社会的勢力の高木組もいた―学園を混乱させて学園乗っ取りを図っていた。従わない学園長に交通事故で警告を与えた。創立者の血縁の者たちがですよ」
「創立者の教育理念を継承する、学園長と、稲垣理事と、片桐校長の線さえ堅調なら―ってとこじゃないのかな」
「今回はテキヤに助けられましたけどねえ」
「あの二人はどうなるんだろう」
「少年院止まりじゃないですか」
「また戻って来て欲しいけど、二人とも問題児だからねえ」
教頭室での加藤と黒石教頭の会話は盗聴されているけど、二人は一向に気にしなかった。那珂川河川敷での乱闘騒ぎを仕組んだのも、警察に通報したのも理事長だということがわかった時点で、話が筒抜けになっていることを不審に思い、教頭室を調べたら盗聴器が見つかったのだ。教頭のデスクの裏に張り付けられていた。
だから二人は理事長に向けて話しているのである。
(了)
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