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けっちゃ面とキツネ面の赤マント  作者: ミニマムコスモス
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第三章 六星学園中学校の乱 4


     4


「早速もうひと悶着あったようです」

 昼休みに黒石教頭と校長室に呼ばれた加藤はいった。

「おやそうですか。まあどうぞ」

 黒檀こくたんの大きなデスクに座っていた片桐校長先生に促されて、応接セットの方へ移動した。飴色の革張りソファーに教頭と加藤が座り、校長先生は向かい側の肘掛椅子に腰を下ろした。

 校長先生は夏目漱石を彷彿させるような貴族的な風貌で、年齢は教頭と同じく五十代で教頭の方が上らしい。話し方もゆったりと柔らかい声を出す。教頭はいつもせっかちで育ちの違いがわかる。

「しかし、たまげましたねえ…。名前が光とヒカルで、生年月日まで同じとは。しかも男子と女子にですから。背が低いのとべらぼうに高いのと」

「二人とも学園長の遠縁にあたる子で、別々に育ったけれども、実は双子なのですよ」

「え~っ!」教頭は驚いて加藤を見た。

「それにしては全然似ておりませんねえ」と加藤も教頭を見る。

「同母・異父の一卵性双生児なのです」

「ちょっと待ってください、校長先生。それはちょっとおかしいのではないですか?」と加藤は疑問を呈した。「一卵性双生児というのは同母・同父ということでは?」 

「それが、ごくごく稀にそういうことがあるそうです。そういう実例がベトナムやアメリカであるそうですよ。それでね、二人とも母親とは死別しており、二人の父親は消息不明で、光君は博多で伯父夫婦の養子として育てられ、ヒカルさんは大分で祖母に育てられた」

「なんと…」教頭は黒縁メガネを押し上げた。

 なんだか話がこんがらがってきた。どうして二人は性別を偽って転校して来たのか、という疑問もある。

「これは他言無用の極秘中の極秘事項。本人たちさえ知らないことですからね。そして白状すると、あの子たちが性別を偽っているのはジェンダーからではなく、その方が活動しやすいからです」と校長はいった。

 二人とも開いた口が塞がらない。

「学園長の、学園を守り、立て直す最後の望みなのです。侠客の血統のあの子たちが―」

 だからそっと見守ってやって欲しいという、校長先生の言葉を反芻しながら、加藤は午後の授業に向かった。


 身長が181センチの、榊原ヒカルの身体能力は(女子でありながら)男子に勝るとも劣らなかった。幅跳び、三段跳び、跳び箱、100メートル走にしても、マラソンにしても(水泳は当然忌避した)、群を抜いて、球技以外は万能といえた。跳び箱は120センチの八段を軽々と飛んだ。

 加藤は柔道部顧問であるから、試しに柔道部員と試合させてみたら、向かうところ敵なしだった。首が治った乾太いぬいふとしとの一戦は、先生方始め、多くのギャラリーを集めて行われたが、乾は得意の寝技に持ち込んだものの、妙に顔を赤らめて、逆に足関節技を決められてマイッタとなった。足絡みは禁じ手であるから、再度やり直したけど、アッサリ、腰車で一本取られた。相手を男子だと思っていても寝技の時に違和を感じたのか、乾はたじたじだった。

 剣道もやらせてみようかと思ったけど、剣道は苦手なようで―というか、面・胴の防具をつけて竹刀で叩き合うようなメンドウなことをするよりも、手刀と拳で撃ち合った方が手っ取り早いという主義のようだった。空手部があればそっちの方の実力も試せるのだが。

 野球やソフトボールのような球技は実戦には何の役にも立たない、格闘技以外は興味なしという態度だった。

 榊原ヒカルが性別を偽り、男子に扮してやって来た理由がわかるような気がした。こんな身体能力の女子がいたら大変に目立ってしまう。

 それでなくてもスラッとした181センチの長身と、小股の切れ上がった長い脚に精悍なマスク、殊にその立ち姿のカッコ良さに、女生徒は黄色い声を上げて心酔し、憧れ、追随した。

 男子生徒は近寄り難い威圧感と(こいつは本当に女子なのだろうか)という不思議な感覚に困惑しながらも、そのスケールの大きさに圧倒されて、犬のように恭順するようになった。

 そしてたちまち榊原ヒカルは裏番に対抗する一大勢力を形成して、学園長の思惑通りに、とりあえず、学園内の騒乱を鎮めたのであった。


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