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けっちゃ面とキツネ面の赤マント  作者: ミニマムコスモス
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第三章 六星学園中学校の乱 3


     3


 夏休みは何事もなく過ぎて九月になり二学期が始まった。

 城島光は登校して来なかった。乾と山岸など、けっちゃ面の報復を受けた者はみな復帰した。佐藤妙子もそうだった。

 稲垣派と影番派の小競り合いも始まって、学園の騒乱は容易に収まりそうになかった。

 けっちゃ面の報復がなくなった上に、族の威力もあって、影番派のヤンキーたちは勢いを増して稲垣派を圧倒。イジメやカツアゲのやり放題。不登校や転校者が続出した。

 頼りの稲垣先輩も学園外で暴走族のリンチに遭って入院したので、学園は無法地帯と化した。


 そんなある日、二年一組にまた転校生があった。

 担任の加藤先生はグリーンボードに”榊原ヒカル”と書いた。

 その横に立つ転校生を見てみんな唖然とした。教壇の上に立っている先生より背が高い。稲垣先輩と同じくらいに見えた。

 ズボンを穿いた脚がスラッと長く、その足を(肩幅より少し広く)自然体に開いて、押しても引いてもびくともしないような立ち姿が、超カッコイイ! ショートカットの刈り上げヘアーが凛々しく、精悍な顔つき。男子の制服を着ているから男子だろうけど、色が白く、七三に分けた髪からして、どことなく女子にも見える韓流イケメンのようだ。

 またややこしいのが転校して来た。しかも名前が光ならぬヒカルとは―。

「榊原ヒカル君は大分県の高校から転校して来ました。他県からでもあるし、慣れるまで大変だと思う。みんな、仲良くして、色々教えてあげてください。学級委員長の高橋公司君!」

「はい!」呼ばれて公司は起立した。

「今回も君にお願いする。これから一ヶ月間、榊原ヒカル君に密着して色々教えてあげて欲しい」といって担任は転校生に「慣れるまで彼が面倒を見てくれるから、わからないことは何でも彼に訊くように」という。

「はい」歯切れの良い声。その声は張と艶のある、どちらかというと、アルトだった。

「じゃあ、君の席は中央列の一番後ろの席。ロッカーナンバーは17番。そこにカバンを納めて席に着いて」

「はい」

 といって榊原ヒカルは公司の席の脇を通って(公司は風圧を感じた)、後ろのロッカーにカバンを納めてから席に着いた。その席は新学期早々に転校した風紀委員の三井君の席だった。彼は陰湿なイヤガラセニ耐えられなかったのだ。

 ホームルームが終わると、みんなは城島光の時とは違って、転校生に興味を持ちながらも、人見知りして、遠巻きにチラチラ見るだけであった。榊原ヒカルは近寄り難い雰囲気を漂わせて、スケールの大きさを感じさせた。

 使命を帯びた公司だけが近づき、城島光にしたと同じことを始めた。

 もうこのクラスには要注意人物はいない。金村郁子ら三人組は毒気が抜けて妙におとなしくなったし、佐藤妙子は相変わらず暗い自己に閉じこもっている。なので校内施設を案内して回るだけでよかった。

 その間に体育会系の歯切れの良い返事が返って来るけど、公司は榊原ヒカルになんとなく違和感があった。半袖シャツから出た腕は日焼けして逞しい腕だけど、体毛がなく、どことなく丸みを帯びて滑らかだった。体のどこを触ってもぷにゅとしそうだった。

 そのくせ、白い歯を出して闊達に笑うと、自分が卑小に思え、子分になりたいと思うほどのオーラを感じた。

 他のクラスや学年に要注意人物はいっぱいいるけど、特に今はヤンキーの天下だから、いちいち説明して回るわけにはいかない。榊原ヒカルは彼らの注目を浴びずにおかないだろう。なるべくなら彼らに近づけたくない。

 でも表番の稲垣先輩には、生徒会長でもあるし、引き合わせたいと思うけど、あいにく今は入院中なのだった。

 と思って歩いていると、グランド脇のトイレの所で、一年生の男子生徒がヤンキーにカツアゲされている現場に出くわした。

 黙って見過ごすわけにはいかない。

「どうしたんですか?」と声をかける。

「何やお前」と言って背の低い赤毛の三年生は公司を振り返り、榊原ヒカルを見て仰天した。「こん電信柱のような奴、誰や? 見かけん顔やな」

「転校生ですよ」

「お前は二年の学級委員長やな。何だあちゅんだ」

「いや、どうしたのかなと思って」公司は一年生を見た。まだ小学生の面影を残した一年生は、鼻血を垂らして困ったような顔をしている。手には茶色い給食費納入袋。涙目が助けを求めている。

 もう一人の平家蟹の人面甲羅のような顔のヤンキーがいう。

「ちょっと挨拶の仕方ば教えとったとこじゃ」

 こいつは粗暴な男だ。

「手にしているのは給食袋ですよね。鼻血出てるし」

「だからどうだちゅんだ」

「いや、だからどうというわけでは…」

「―なら口出すなや!」

 榊原ヒカルが長いリーチを伸ばして、長い指で平家蟹の眉尻の横の窪みを鷲づかみにして、締め上げた。平家蟹が悲鳴を上げたところで、突き放した。平家蟹はツツジの植え込みの中に倒れ込んだ。

 背の低い赤毛がナイフを取り出したところへ、腹に一発蹴りを入れた。赤毛はナイフを持ったままヨタヨタあとじさってへたり込み、体を二つ折りにしてヨダレを垂らして呻いた。

 公司は茫然と立っている一年生に逃げるように促した。 

 そのあとヤンキー二人はコソコソ立ち去った。


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