第三章 六星学園中学校の乱 2
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夏休みに突入して生徒のいない学園は平静を取り戻した。
公司は副委員長の高木さやかと一緒に、城島光の実家に夏休みの友と通知表を届けに行った。
お母さんに会い、クラスを代表してお見舞いをしたいから病院を教えて欲しいという。
お母さんはそれには及びませんといった。みなさんの心遣いは光に伝えます。ケガはそう大したことはないからと。
だが公司は引き下がらなかった。面会は出来なくても、遠くから眺めるだけでもと食い下がったけど、ムダだった。
「どうしてだろう」城島家を出てから公司はつぶやくようにいった。
「居所を知られたくないのよ。暴走族の襲撃を恐れて」高木さやかはいう。
「よく知らないけど、テキヤなら暴走族なんか恐れないのと違う」
それなりの備えはしてあるだろうし。
そこで公司はハタと思いついた。
(男子であることがバレてしまうからかも知れない)
全身を検査するから医者は誤魔化せない。看護師からでも漏れてしまうのを恐れた。
きっとそうに違いない。
二人は、マックスバリューで菓子パンと牛乳を買って食べ、雑餉隈駅から電車で大橋駅まで帰った。
それから途中に、好奇心から、佐藤妙子の公団住宅に立ち寄ってみた。屋上に上がり、佐藤妙子が吊り下げられていた現場を見てみようとしたけど、黄色いテープが張られていて近づけなかった。
仕方がないので反対側の鉄柵から下をのぞいた。足がすくむ高さだった。
「こんな高さから逆さまに吊るされたら恐いだろうな」公司はいう。
高木さやかは一・五メートルはある柵から身を乗り出すようにして下を見た。度胸のある女だ。美形の顔はいつものようにクールだ。
今、両足を持ち上げれば真っ逆さまに落ちる。公司は背筋が寒くなった。ロープで両足と体を縛られていたというけど、けっちゃ面一人でそんなことが出来るものだろうか。よくロープが切れたり、体がスッポ抜けなかったものだと思う。
「佐藤さんの家は五階よねえ」と高木さやかは下をのぞいたままいう。
新聞によると、バルコニーとバルコニーの間の壁、自分家のバルコニーの横にぶら下がっていたという。
「正義の味方けっちゃ面も酷いことするなあ…」
でも投身自殺した水森美玖はもっと怖くて悔しかっただろうなあ…。みんなの責任だけど、なぜか、佐藤妙子が一身にその報いを受けている。
公司はしかし彼女がイジメに加担していたとはどうしても思えない。
今彼女は自宅にいるのだろうかと思いながら公団住宅団地をあとにした。