第三章 六星学園中学校の乱 1
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城島光の身体能力・運動能力は女子にしたら上だけど、男子なら並みの中といったところだった。
だけど、器械運動の中でもマット運動と平均台運動に非凡なものがあった。陸上競技は瞬発力は目を見張るものがあったけど、持続力がなかった。水泳は当然本人が拒否した。球技はどれもあきれるほど不器用だった。武道も、柔道・剣道とも素養はなかった。ただ、両手に拳だこがあった。
総じていえば、小柄だけど、爆発的な瞬発力と、ゴムまりのような弾力性のある素早い動きをする。それは反復横跳びに顕著に見られた。
よって、複数相手のケンカには強いかも知れないという結論に至った。
ただし、力はない。重いものを持ち上げたり、引っ張ったりする力は女子並みといっていい。
佐藤妙子を屋上から吊るすなんてことは一人では不可能、誰かの助けを必要とする。だけど佐藤妙子は、その存在を否定した。やはりけっちゃ面は城島光ではないのか。
探偵の河村も警察もまだけっちゃ面の正体と、その背後の勢力の存在をつかみきれてない中で、学園は騒乱状態となった。
イジメ現場を見つけると、稲垣派が駆け付けて穏便に制圧する。
これに対して影番派が暴力で反撃を加え、随所で小競り合い、暴力の応酬となってケガ人が多く出たが、学園はその実態を伏せて警察の介入を避けた。
暴力で制圧した影番派は、意気揚々と下校、外で待ち構えていたけっちゃ面の報復を受けた。
目撃した探偵によると、けっちゃ面は猿のような素早い動きと独特の拳法で、次々に打撃を与えたが、相手の数の多さに息切れとなり、そこに暴走族が蛇のようにバイクを連ねて来て、三者入り乱れての場外乱闘となった。
多勢に無勢、ついにけっちゃ面は二人乗りバイクから鉄パイプ・金属バット攻撃で滅多打ちにあって、グロッキー寸前。、探偵河村の通報で駆け付けたパトカーのサイレンに、蜘蛛の子を散らすように逃げる連中に紛れて、姿を消した。
それと時を同じくして城島光もどこかに姿をくらました。実家も寄宿している家にもいなかった。
学園理事会は、騒乱を招いた片桐校長解任の決議案を出し、理事長を含めた理事五人の内反対者一人で可決、学園長に片桐校長の解任を迫った。
北条将江学園長はこれを全員一致でないことを理由に退けた。けど、専用車が思わぬ事故に遭って大ケガをし、もっか赤十字病院に入院中である。
そのためかどうか片桐校長の首はまだ繋がっている。
学園長を見舞った黒石教頭と加藤史郎は、学園の状況について訊かれ、教頭は、これから夏休みになるので落ち着くと思われるけど、二学期からが心配。転校生の城島光は良い意味でも悪い意味でも問題児、騒乱の原因になっている、といった。
加藤は、でもイジメ問題についていえば、少しづつ生徒の意識が変わってきているのは確か、学園内だけであれば今までうまくいっていた。だけど、外部から暴走族が圧力をかけてきてまた揺り戻しがきている。もう誰も助けてはくれないから、息をひそめて、他人がイジメられるのを見て見ぬ振りをしている。暴走族にはさすがのけっちゃ面も太刀打ちできなかった、という
「光ちゃんは今どうしてるの?」と、白髪だけど(その頭にも痛々しく包帯が巻かれてあった)矍鑠とした学園長はいう。
…光ちゃん?
当惑しながら加藤は答えた。
「行方が知れません。彼女がけっちゃ面なら大ケガをしているようですから、どこかの病院で治療を受けているものと思われます」
「…そうなの。…そうねえ、たった一人じゃ荷が重過ぎたかしらねえ…」
「えっ?」
加藤は教頭と顔を見合わせた。
「桂太郎さんに相談してみるけど、二学期からもう一人お願いすることになるかも知れないわ」
桂太郎というのは片桐校長のことである。
「転校生がもう一人? でございますか」と教頭。
「そう。学園生徒の意識改革をしないことには学園の未来はないの。荒療治だけど―」
学園長と校長先生が結託して学園の立て直しを図っていたのか…。
教頭は薄い頭を撫で上げて驚嘆している。
加藤は、この時期に学園長がもらい事故に遭ったのは偶然だろうかと思っていた。