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けっちゃ面とキツネ面の赤マント  作者: ミニマムコスモス
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第二章 水森美玖の投身自殺 7


     7


 夕方までは閑散としている丘の上の五階建て公団住宅団地は、西日を受けて白く輝いていた。

 その中のⅮ棟屋上からマネキンのようなものが吊り下げられているのを、遊び帰りの小学生二人が見つけた。

 近づいて見上げると、それは白いシャツとこたつ布団と同じ柄のスカートをはいた中学生のお姉さんだった。体にロープを巻き付けられて屋上の柵から逆さまに吊るされていた。

 さらによく見ると、それはこの棟の五階に住む佐藤妙子おねえさんによく似ていた。弟のタツ君とは幼稚園で一緒だったから顔なじみになっている。

 丘の上小学校一年二組出席番号1番の足立明あだちあきら君は友達の椎野実しいのみのる君と、近くの交番に駆け込んで知らせ、そう証言している。

 交番で一人留守番をしていた若戸わかと巡査が一番乗りで現場に駆け付けて、事件を認知したのは七月十五日の十六時五十七分のことだった。若戸巡査は黄色い規制線を張って機動捜査隊が到着するのを待った。

 事件はすぐに佐藤妙子の両親と六星学園中学校に報知された。

 教頭室には加藤と学年主任の溝部が顔を突き合わせた。

「佐藤妙子さんは無事なんですか?」加藤が性急に尋ねる。

「気を失っていただけで、表面上は、壁で擦れた擦り傷以外ケガはしていないそうだ。病院で詳しく検診している」と教頭は答えた。

「けっちゃ面の仕業ですか?」骨張って貧相な教頭に比して恰幅の良い学年主任も訊く。

「まだ何ともいえません。加藤先生はすぐに病院に向かってください。溝部先生は警察署に」

「承知しました」といって二人は慌ただしく教頭室を出た。

 加藤は学級委員長の高橋と副委員長の高木を伴ってタクシーで向かった。

 車中、三人は押し黙っていた。口にするのも恐ろしいことだった。それぞれがそれぞれの思いに耽った。

 けっちゃ面の仕業であり、けっちゃ面が城島光であっても、水森美玖を自殺に追いやった張本人が佐藤妙子だと思っていることになる、と助手席の公司は思った。

 リアシートの加藤は、佐藤妙子が如何して? という思いでいっぱいだった。

 その横の高木さやかは腕を組んでじっと考えている。

 すくなくとも複数の人間が絡んでいることは確かだ。一人では中学生女子を宙吊りになんか出来るわけがない。けっちゃ面も小柄だというし。

 それにしては、報復を受けた者たちはみなけっちゃ面一人にやられたといっている。そして金村郁子もそうだけど、みな妙におとなしくなってしまった。まだ山中病院に入院している乾太いぬいふとしも魂が抜けたようになっているという。

 加藤はスマホを取り出して探偵の河村に電話した。

「あ、河村君、今日公団住宅で学園の生徒が屋上から中吊りになるという事件が起きたんだけど、城島光の今日の動きはどうだった?」

《学園から十五時三十五分に直帰して、まだ家の中にいるはずだけど?」

「念の為に家にいるかどうか確かめてみて」

「了解。あ、それから学園生徒と思われる男子三人組が、途中まで彼のあとをつけていた》

「そうなの? 誰だろ?」

 河村君は高校卒業して警察官になったけど、六年勤めて辞めて警備会社にに入り、そこも五年で退職、それからは探偵業をしている。中学・高校の同級生だ。

 ほどなくして河村から電話がきた。

《家人が帰って来たので確かめたら、面目ない、もぬけの殻だった。裏口から路地に出たのだろう》という。

 やはり城島光が関与しているのか?

 病院に着くと、二階の個室で一人点滴を受けている佐藤妙子に、早速確かめた。

「誰にやられたんだい?」

 佐藤妙子は高橋と高木がいるので居心地悪そうにしていたが、「けっちゃ面」といった。

「ほかに誰がいた?」

「誰もいない」

「そんなバカな。けっちゃ面は小柄なんだろう。一人で君を縛って逆さに吊るしたというのか?」

 佐藤妙子は前髪が顔を覆うように垂れている暗い顔の大柄な子。大人でも一人では手に負えないだろう。同じように表情の暗く比較的小柄な水森美玖とは気が合ったのか、いつも一緒のところを見かけた。

 その彼女がどうしてけっちゃ面の報復を受けたのか。

「それでは警察は納得しなかっただろう」

「はい。でもそうですから」

「まあ、今日はゆっくり休みなさい。家族は?」

「仕事」

「君がこんな状態なのに?」

 佐藤はうつむいた。

「よしわかった」と言って高橋と高木を振り返る。「委員長・副委員長、何かいうことはないか」

 「頑張って」と、高橋が月並みに励ました。高木さやかは何もいわなかった。

 佐藤妙子は高木さやかとは目を合わせずに下を向いた。

 

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