第二章 水森美玖の投身自殺 3
3
明くる日には乾太が城島光をシメたという噂が、学園中に、さざ波のように伝わった。
いいふらしたのは乾とその仲間たちである。
彼らは悠然と学園内を練り歩いた。先生方の方がよけて通った。加藤担任だけである、堂々としていたのは―。
城島光はダメージが大きかったのか欠席していた。その現場に学級委員長がいたというので、公司は終礼の時にみんなの質問責めにあった。
そこに担任がいたのであるが、黙って聞いていただけで、その後、これといった措置は取らなかったようである。
楠木に両手をクギで打ち付けられていた楠木良治の時もそうだった。学園外で起きたことなので、学園は関与しなかった。警察がけっちゃ面のカンフー衣装男の似顔絵を、校門横の塀に貼って行っただけ。
城島光は次の日も欠席した。腰を打ったことは確かだけど、それほどのダメージを受けていたようには見えなかったが。普通にチャリで帰ったし。
生徒たちは最強の乾太とその仲間のヤンキーたちが、けっちゃ面の報復を受けるのかどうか、興味深く見守った。
城島光がけっちゃ面なら、身長が160センチにも満たない華奢な体で、乾の巨体にどうやって立ち向かうのか。ほかの二人だってケンカ慣れしたヤンキーだし、武器も持っている。そんなことはあり得ないことが証明されるだろうと、みな思っていた。
三日目に城島光が登校してきた。
当然みんなの好奇の目を集めた。城島光は腰の辺りを膨らませ、腰を屈めて歩いていた。脚の見える部分に絆創膏が貼られ、擦り傷や青タンがあった。
「腰を痛めたっちゃね」といって、女子にだけブラウスとスカートの間から、茶色いコルセットを見せた。乾にシメられた時のことを訊く、男子の興味本位な質問には答えなかった。
ところが、城島光と入れ代わるようにして、今度は乾とその仲間二人のヤンキーが揃って学校を欠席したのである。
早速、けっちゃ面にやられたのではないかという憶測が飛び交った。
そのうち、乾太と山岸健吾が山中病院の整形外科に入院しているという噂が漏れ伝わってきた。乾は脛骨骨折と腰椎損傷で、山岸健吾は肋骨骨折だという。もう一人の水野信男はほどなくして登校してきた。