第二章 水森美玖の投身自殺 2
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そんなある日の午後。
高橋公司と城島光が駐輪場からチャリに乗って帰ろうとした時、三年生のヤンキー三人に取り囲まれた。
「ちょっと顔貸せや」と三年三組の乾《いぬい」に声をかけられた。
そして近くの神社の境内に連れて行かれた。
鬱蒼とした境内には人っ子一人いない。カラスが杉の梢を揺らしてギャアギャア騒いでいた。
乾は屈み込んで城島光の顎を、曲げた人差し指で持ち上げ、「こんな可愛い顔したちっこいお前が、けっちゃ面なのか?」という。顔を近づけて舐めるように見た。
乾は短髪のゴリラ顔で、豊満な顔とは裏腹に細い目をした柔道部の猛者である。身長・体重とも、高等部を通じても学園で一、ニを争う巨体だった。単純で頭が悪くなければ影番の第一候補と思われるのだが。
大人と子供ほどの違いなのに城島光は少しも怯んだ様子を見せなかった。
「どういうことね?」といって光はほかの二人も見た。みな茶髪で陰険な目をした性悪な顔をしている。「いちいち連《つる」まんば一人じゃ何んも出来んちゃろうかね~」
いい終わらないうちに、ブラウスの襟を左手でつかまれ、右脇の下に右肘を入れられて、抱え上げるように一本背負いで投げ飛ばされた。幸いにも、乾が手を離さなかったので頭を打たなかったが、腰は強か地面に打ちつけたようである。しかし同時に城島光が左腕で地面を強く打ったことの意味はわからなかった。
「アイタ~、何するんね!」
スカートがめくれて太腿が露わになったのも気にせず、乾を睨み上げた。
公司はあわててめくれたスカートを下ろしに行こうとしたけど、ほかの二人に阻まれた。幸い脛毛などの体毛はなく、脚はつるんとしていた。
そのうちの一人がスカートをさらにめくりあげようとした。
「あ~もすかん!」といって光は足をバタバタさせた。「人のパンツ見たら許さんけんね」
その拍子にスカートをつかんだ三年生の顎を靴の先で蹴り上げた。モロに決まってそいつは両手で顎をつかんで腰を落とした。舌でも噛んだのか、唇の端から血を流した。
乾がすかさず太い腕で後ろから首を片手絞めにした。城島光はその腕を引きはがそうとしたがびくともしない。激しく足をバタバタさせて苦悶した。
まだ絞めワザの加減がわからないのか、乾は完全に落とすまでいかずに、手心を加えて腕の力を緩めた(このことはのちに彼に幸運をもたらした)。
城島光は寝転がったまま両手を首に当ててゲボゲボ咳き込んだ。ヒューヒュー喉を鳴らしてしゃくり上げた。膝を立てているので黒いパンツ丸見え。
「けっちゃ面か何か知らんが、来いや、いつでんかかって来いや」といって乾らは立ち去った。その際、一人が公司の腹に一発見舞いさえした。
城島光は悔し涙を流して、「許しちゃらんけんね、許しちゃらんけんね」といって、寝転んだまま、ダダをこねる子供のように、足をバタバタさせた。