第一章 転校生 1
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校内暴力で荒れる星六学園中学校に珍しく転校生があった。
二年一組の担任・加藤史郎は、その生徒を受け入れるにあたって、教頭の黒石からその転校生についての取り扱い説明書のような注意事項を、くどくど聞かされた。
城島光というその転校生は、とかく問題児で、前の学校ではいろんな問題を起こしているいわく付きの生徒。親はテキヤの元締めだし、扱い方を誤ると大変面倒なことになるという。
もとより学園は創業以来イジメや不登校など、いろんな問題を抱えた生徒を幅広く受け入れ、サポートする方針で運営されており、その一環としてのことだけど、今回の場合は少し事情が異なるようだ。
逆に、扱い方さえ誤らなければ、ОBの族を背景にした不良グループに牛耳られて閉塞状況にある学園に、一石を投じるカンフル剤になるやも知れないというのである。
たった一人の生徒がカンフル剤に?
イジメによる自殺者を二年連続で出して、イジメられっ子は学校を変わってもイジメられる傾向にあった、このままでは新入生の数は減る一方。創立者の死後、大手の学校法人から吸収合併の話も出ている。
そんな問題児を、校長が学園理事長などの反対を押し切ってまで、あえて受け入れたのは、”毒は毒を以て制す”の意図からだろうと教頭はいう。
「テキヤの威力を借りて暴走族や不良生徒をけん制・排除するってわけですか」
頭の薄い教頭の黒石は、黒縁メガネの奥から気弱そうな瞳を見せていう。
「そういっちゃあ身も蓋もない。校長先生はあくまでも、問題を抱えた、行き場のない生徒を受け入れる主義なんだ」
「城島光については見守るだけ。余計な干渉は無用というわけですね」
「ざっくりいえばそうだ。それが校長先生の意向だからそうするように」
片桐校長は創立者の娘婿であり、創立者の教育理念の継承者でもある。
「その生徒が問題を起こしたらどうなります?」
そんな問題児を押し付けられようとしている加藤は当然の質問をした。
「ケースバイケースで対処する。その時は私にいってくれれば、私が校長先生の判断を仰ぐ」
「どんな問題児か知りませんが、逆に取り込まれて、ワルの相乗効果ってことになりはしませんか?」
「その辺は大いに危惧されるところだが、校長先生のお考えだからね。校長先生を諫められるのは学園長の亡き先代の奥様だけ。まあ、我々は校長先生のいわれるままに対応するしかない」
「そうですね。で、その生徒はいつから?」
「明日から登校してくる。寮には入らず、寄宿している知人宅からね」
「そうですか。それならひとまず安心です」
寮ならしょっぱなから問題が起きる可能性があるが、通いならそう心配したものではないのかも知れない。加藤はまだ見ぬ転校生にこうまで気を遣っている自分が可笑しくなった。
教頭も同じ気持ちなのだろう。
「どんな生徒やら、見もしないうちから、バカみたいだけど、校長先生のいいつけだからね。しかと伝えましたよ」といった。