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協力関係

 レオは事の成り行きを一から十まですべて話した。

 依頼を受けたこと、凛花と出会ったこと、凛花に抱いた感情、そして、凛花と出会って自覚した、今まで俺がしてきたことへの俺自身の後悔。


「…話はだいたい分かったわ。つまり、殺し屋が狙ってくるであろうその少女を守ることがあなたの頼みなのね。」

「そうだ。」

「……いいわ、協力してあげる。ただし、条件は付けるわよ。」

「条件?」

「当然でしょう?私があなたに協力している間、私は自由に身動きが取れなくなるんだから。」

「あっ、それもそうか。悪かった。俺の考えが足りなかったな。」


 レオは机の引き出しから紙切れを取り出し、ペンを持って机の上に置く。


「とりあえずはその紙に条件を書いておいてくれ。俺は屋敷の様子を窓から見ておく。」

「……。」

「おい?どうかしたのか?」

「いや、本当にどうして私をそこまで信用できるの?私達ってついさっき会ったばかりよね?あなた、さっきから私に隙を見せすぎじゃない?」

「何を言ってる?人に信用してもらうんなら、まず自分が信用しなきゃ始まらないだろう?」

「……あなた、よくそんな考えで今まで生き残ってこられたわね。」


 女は呆れたようにため息をつき、ペンを持って紙切れに条件を書き始める。正座で書き物をする彼女の姿は妙に様になっているように見える。

 

 正直に言うと、信頼している、というのは嘘だ。こちらが信頼を寄せれば、相手も無意識に信頼をさせようとする。それを利用するだけだ。

 そして、口には出さないが、これは桐谷も同じだろう。暗殺者がこんなにも呆気なく依頼を取り消すなどありえない。おそらくは何か別の目的がある。俺の命か、それとも別の何かか。


「書き終わったわよ。目を通しておいて。」


 俺は女から紙を受け取り、箇条書きに書かれたものを丁寧に読む。条件を承認した後で俺に不利な条件があり、それを撤回しなければならない事態は避けたい。

 だが、書かれていた条件はそれほど悪くない条件だった。最低限の衣食住は提供する事や、自分の元居た場所の片付けの手伝い……うん?片付け?


「おい、この条件は一体……。」

「何よ、ここに泊まるんだから当たり前でしょう?」

「は?いや、ちょっと待ってくれ、ここってこの部屋にか?」

「そうよ。何か問題があるかしら?」


 いやいやいや、問題ありすぎだろう。俺は正確にはギリギリ反応できる程度に隙を見せていただけだ。これは俺が殺しの依頼を実行していた時に時々使っていた策だったんだが、こうも四六時中一緒にいられるとなると、いつも反応できる状態であるのは厳しい。

 信じる事なんて、口だけなら何とでもいえる。だが、人を真に信じるには俺にもそれ相応の覚悟がいる。俺にはまだ、人を信じるのはリスクが高すぎる。

 ここは一度、断るべきだ。しかし信じるといった以上、行動で示さなければ疑われる。そして、今のところこの女の提案はもっともだ。断る理由がない。


「……ああ、分かった。問題ない。その条件を飲もう。」

「決まりね。なら、これからよろしく。ところで、あなた、名前は?」

「レオだ。」

「私は桐谷翔。できれば名字で呼んでくれるとありがたいわ。」

「翔?日本じゃ女性につける名前じゃなくないか?」

「どうでもいいでしょう、名前なんて。」


 桐谷はそう言って、しおらしそうに俯く。理由はよく分からないが、何やら事情があるようだ。あまり突っ込んで聞かない方がいいな。


「さて、夕飯は食ったか?もしまだなら一緒に食おう。日本では食卓を囲んで複数人で食事を共にする風習があると聞いた。」

「いや、風習っていうか、それ一昔前の日本じゃよくあったと思うけど、最近じゃそんな家はだいぶ少なくなってるわよ?」

「なぜだ?家族らしくていいじゃないか。」

「……まあ、私にはそれの何がいいのかよく分からないけど、あなたがしたいのなら別に構わないわ。好きにしなさい。」


 なんだか歯切れが悪いな。家族と何かあったのか?別にどうでもいいが。家族のことを話題に出すのは止めた方がいいな。


「桐谷、おまえ好き嫌いはあるのか?」

「特にないわ。」

「ならよかった。今日は具が多めの冷やし中華を作ろうと考えていたんだ。」


 俺はキッチンに入ると、近所の店で買っておいた食材を手際よく捌いていく。その様子を見ていた桐谷は手首をさすりながら興味深そうにこちらの様子を窺ってくる。


「何か用か?」

「あなた、その髪色からして日本人ではないわよね?その割には随分手馴れているから、少し気になったのよ。」

「ああ、俺の師がどうやらこの国の出身だったようでな。他の国じゃそれほどでもなかったが、この国では馴染み深く感じるんだよ。」


 もっとも、この国に初めて来たのはごく最近で、思い出なんてものはせいぜい何人か人を殺したことと凛花と話したことぐらいなのだが。


「師匠の名前は?」

「リーパー。それが本名なのかどうかは知らないがな。」


 暗殺者は通常、呼び名はあってもそれが本名であることは少ない。身元がばれると面倒だからだ。現に、俺が使っている「レオ」という名も、実際には本当の名ではない。というか、俺に関しては自分の名前自体知らないから、心底どうでもいいのだが。


「さて、出来たぞ。適当に机に並べておいてくれ。」


 色々と考えているうちに、俺は料理を作り終えていた。桐谷は皿を二つ持って机に持っていく。


 調理中、俺の作った飯に毒を盛るような素振りはなかった。少なくともこの料理を食べるうえでは心配することはないだろう。


 こんなことならこの女の持ち物ぐらいは調べておくべきだったな。いや、そんなことをすれば、信じているという事に疑いを持たせてしまう危険もある。


『面倒なこと考えずに殺してしまえ。俺に変われば全員もれなく殺してやるぞ?』


 俺が冷やし中華を食べようとすると、背後からハッキリと何者かの声が聞こえた。

 振り向くとそこには何もない。


「どうしたの?急に振り向いて。」


 桐谷は心配そうに俺を見る。()()()から見れば俺のこの行動は理解できない。そんなことは昔から知っている。この声は、もう何度も聞いてきた。


「……悪い、少し外の空気を吸ってくる。」


 桐谷の様子から出来る限り目を離さないようにして、俺はベランダへと移動する。


 くっそ。もう出てこないと思って油断していた。俺の中で眠っていただけだったのか?それともただ単に気まぐれで話しかけてきただけ?

 感情の整理が追い付かない。怒り、憎しみ、悲しみ。負の感情が混じり合い、走馬灯のようにあの時の記憶を蘇らせる。


「いったい何の用だ。……()()

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