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93 陽葵と過ごす夏祭り④

「あ……」


 周囲を見れば俺と九宝さんのように密着したカップル達が空へ上がる花火を見ていた。

 つまり俺は他のカップル達と同じように見られてることだろう。


「……花村さん」


 暗闇なのに至近距離ゆえに九宝さんの様子がよく分かる。

 若々しく整った顔立ちは本当に美しく……若干照れているのか目が泳いでいる所がたまらなくかわいらしい。

 その顔立ちと鎖骨あたりを流れる汗から視線を外すことはできない。


 俺自身も戸惑っていた。どうしたらいいか分からなかった。

 真夏の夜は暑い。正直汗ばんでくる。


 九宝さんの背中に手で触れた。びくっと震えたが……構わずに触れた。

 抱き寄せ方としてはおそらく下手くそな部類だろう。だけど……それが今の俺の精一杯だった。


 俺達は花火の間、ほぼ無言だった。

 俺は花火に視線をやっていたが、正直な所ほとんど見ていなかった。

 いたたまれなくなり、首を戻すととっても可愛く困った顔している九宝さんの様子にドキリとし、自然と視線が下になってついつい胸元へ行ってしまう。

 ごめんな、男は胸元が大好きなんよ。

 そのローテーションのまま……花火は終盤となった。

 ここから10分ほど休憩があり、クライマックスはやってくる。


 今しかない。


「九宝さん……移動しようか」

「……はい」


 今度は応じてくれた。

 九宝さんの手を引っ張ってゆっくりと丘の方へ向かうランニングコースを上がっていく。

 俺の脳内はこの後、どうしようという言葉でいっぱいだった。

 何を言えばいいのか、どうすれば円満にこの夏祭りを終わらせられるか……それだけが頭に残っていた。

 歩くスピードが遅いので丘へ上がるまでにクライマックスの花火がやってくる。


 何発も何発も空へと花火が打ち上がり、空を見上げればたくさんの光で目映いのに俺は下を向いて手を繋いで歩く後ろの子のことをずっと考えてしまっていた。


 そうして丘のてっぺんについた時、花火はちょうど終わってしまったのだ。


「一応は間に合ったのかな」


 到着した瞬間に一番最後の大きな花火が見えたので目的は達成したと言える。


 なおも九宝さんは無言だった。

 彼女が何かを言わなければ先へ進むことはできない。

 時間だけが無駄に過ぎ、花火を見た客は続々と丘から下がっていく。


 わずかにしか残っていない人の中……尚も無言を貫いてる。

 さすがにもう限界だ。


「九」

「花村さん」


 それは同時だった。


「お願いがあります」


 九宝さんはまっすぐ俺の方を向く。


「……ここのランニングコースを一周して頂けませんか」


 わけもわからず理由を聞いたがお願いしますと言うだけ……。

 彼女は理由もなくこのような問いをする子じゃない。不可解に思いつつランニングコースを歩くことにした。


 昔と違い、ゆっくりとしたペースでランニングコースを歩いて行く。


 ……懐かしい。大学の時は毎日ここを走っていたっけ。

 毎日毎日走るおかげで……この自然公園を使うご老人や業者さんと知り合うが増えたんだよな。


 そしてさっきの丘の上にはベンチがあっていつもそこで本を読んでいた……文学少女がいたことを思い出す。


 あの子もかわいい女の子だったよな……。

 俺は過去を思いつつ、少し足を速めてランニングコースを1周するのであった。

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