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89 (美作視点) 姉さんと呼ばれたくて⑥

 飛鷹に完全に抱き寄せられてしまう。

 男の人に抱かれてるってこんな感じなんだと、ちょっと貴重な体験に胸がときめく。


「ぐぅ……」


 酒が入ったら1ミリも動かないんじゃなかったの……。

 まさか寝相が悪いとは思ってもみなかった。


 でも……まぁ、抱かれるのは悪くない。温かいし、力強いし、……ちょっとドキドキするし。


「ひゃん!」


 なんだかムズムズ感がして声が漏れてしまう。

 視線を向けると飛鷹の手のひらが思いっきり私の胸を鷲づかみしていた。


「ね、ねぇ! 起きて」

「ぐぅ……」


 本当に寝てるんでしょうね! でも飛鷹は寝たふりして触るタイプには思えない。

 ガチで寝相が悪いということだろう。

 全力で飛鷹の拘束を解こうとする。


「……やばい、解けない」


 男と女の力の差に歴然とする。

 そもそも私は小柄な方だし、飛鷹は170中盤の男性にしてはがっしりしている方。

 全力で手をどかそうとするがびくともしない。


「うむ……むにゃ……もっと」

「どんだけ触りたいのよ! 店行け、店!」


 飛鷹のタッチが全身を駆けめぐり、変な気持ちになってくる。

 やばい、やばい、やばい……。


 その時、飛鷹がおかしな動きを始める。

 飛鷹が私の左腕を思いっきり上に持ち上げたのだ。

 何が何だかわからない。

 飛鷹は顔を左腕の方へ向けていく。


 そして私の左腋の方に口を近づけ。


「ま、まさか……」


 ペロリ


「んぐっ!」


 左腋をペロリと舐められて、くすぐったさと気持ち悪さが全身を駆けめぐる。

 あまりの不快感に私の体のリミッターが外れたようだった。


「いい加減にしろーーーーっ!」


 飛鷹の拘束を解き放ち、私はまくらで飛鷹の脳天に強力な一撃を与えた。


「ぎゃあああああああ!」


 飛鷹は悲鳴を上げる。


「な、な、なんだよ、いったい!」

「あなたね! やっていいことと悪いことがあるわよ!」

「な、な、なんの話ですか所長」


 記憶が混濁しているのか前の呼び方に戻っている。

 それはいい。

 顔が熱い……。顔を真っ赤にしていたと思う。


「人の腋を舐めておいてよく冷静にいられるわね!」

「いい!? そ、そんなことした覚えは!」

「あなたは寝ぼけて、私の腋を舐めたのよ! 腋舐め大好きお米炊子!」


「ぐっは! それだけは……それだけは言われたくなかった!」


 飛鷹は致命的なダメージを受けたかのように仰け反った。

 しまった、敬愛するお米炊子先生を腋舐め星人であるだけを理由に侮蔑の言葉にしてしまった。

 反省しないと……。


「も、申し訳ありません」

「まったく……」


 飛鷹は土下座をして私に謝る。

 ハグだけだったら許したのに全身お触りに腋舐めって……わいせつ罪で突き出したいくらいだわ。


「まぁ……いいわ。寝ぼけてたってのは分かってたし」

「……」

「あなたさっきから口をモゴモゴさせてどうしたの?」

「舌の感触を思い出せないかなと思って」


「ちょっと仁科と陽葵に注意喚起しておくわ」


「お願いします!……それは許してくださいーーーっ!」


 ◇◇◇


 休憩する気分でもなくなったので私と飛鷹はラブホを出ることにした。

 どっと疲れてしまう。

 一番、ここにいるのが疲れてしまうなんて……。

 いやまぁ、ラブホってそういうものだと思うけど。


「あ、あの……お姉さま」

「なんで令嬢風なのよ」

「いや、何となく」


 飛鷹も相当気落ちしていたのか訳が分からない言葉遣いになっていた。

 ふぅ……。ここは姉として導いてあげなきゃいけないわね。


「もういいわよ」

「あ、ありがとう姉さん」

「ただし、他の女性にはしないこと。私じゃなかったら通報されていてもおかしくないんだから」

「自重します」


 俯く、飛鷹に声をかける。


「そんなに腋を舐めるのが好きなの?」

「むひょっ!」


「まぁ……よくある性癖だと思うけどね。まさかお米炊子先生と同じ性癖とは……世界は狭いわね」

「アッアッアッ」


 飛鷹は今にも血反吐を吐きそうなくらい白目をむいていたが、これぐらいで許してあげるとしよう。


「じゃあ……帰りましょうか」

「はい……」


 私は飛鷹に手を差し出した。


「昔みたいにお姉さんが手を引っ張って帰ってあげる」

「い、いや……それはさすがに恥ずか」

「腋」

「はひっっ! 一生ついていきます」


 ガタイよく成長した彼が弱々しく手を差し出してくるのでその手を掴んで引っ張り、前を歩いて行く。

 お姉ちゃんとして幼馴染の弟をどこまでも連れていく。

 4歳の時……童心に帰るんだ。


 私と飛鷹の両親のいる料理店に戻るとタイミングよく母と飛鷹のお母さんが外に出ていた。


「凛音、飛鷹くん。ちょうど良かったわ」

「ええ、じゃあ帰ろっか」


「あらあらあらあらあら」


 飛鷹のお母さんが口に手を当て、私と飛鷹を見てほくそ笑む。


 あっ、手を繋いだままだった。


「あなた達……まさかいつのまにかそんな仲になったの?」

「い、いえ、そういうわけでは」


「ふふ、飛鷹……20年ぶりの願いが叶うわね!」

「は? 何言ってんだよ、母さん」


 飛鷹のお母さんは言った。


「飛鷹ったら、大きくなったらお姉ちゃんと結婚するって言ってたもんね」

「っ!?」

「おまっ!」


 慌てて振り返り、飛鷹を見る。飛鷹もわけがわからないようで違っ! と言いながら慌てていた。

 そんな時に私の母が口出してくる。


「あなた達、いつ結婚するの!」


「しないわよ!」

「しません!」


 まるで息ぴったりのように私と飛鷹は口を揃えるのであった。


 ……まったくもう。


 ……でも聞きたいな。お姉ちゃんと結婚するってまた言ってくれないかしら。


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