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88 (美作視点) 姉さんと呼ばれたくて⑤

 私何やってんだろ……。


 飛鷹の冗談を受け入れて、ホテルまで来てびびってしまう。

 いつから私はこんなに弱い人間になってしまったのか。

 いえ、私は変わってないわ。幼馴染の義昭にざまぁされてからずっと弱いまま。


 私は焦っているのかもしれない。

 今までただ仕事と創作に打ち込んでいればいいと思っていたのに……仁科や陽葵、そして同じ趣味でウマが合った茜さんや葵さんと仲良くやっていればそれでよかった。


 そこに入ってきた花村飛鷹。

 彼がやってきても何も変わらない、そう思っていた。

 私は変わらなかったわ、上司として彼を指導し、適切な指示をしてきた。

 夏に入ってもまったく変わらなかった。

 でも仁科と陽葵は違った。明確に変化が見えたのだ。


 そして盆休みの間に茜さんと葵さんまで変わってしまったように思える。


 まず仁科。

 どうやってか知らないけど飛鷹を自分の家に連れ込んだらしい。

 私からすればちょっと信じられない行動だと思った。

 しかも酒も入れた状態で……あのやらしい体で飛鷹に迫ったとか……。


 ただ予想と違って酒が入った飛鷹は1ミリも動かなかったらしい。酒を飲んだら理性が壊れる男性が多い中、その忍耐力はすごいのか、呆れるのか分からない。


 次は茜さん。例の葵さんとのデートの代替を行ったとか。

 ちなみに話は戻るけど、一番やばいのは葵さんだった。

 的確な話術で飛鷹を家に連れ込んだ仁科の全てを暴いていてSNSチャットの中で徹底的に解析されていた。

 私が仁科が何をやっていたか知っているのはここからの情報である。


 そして茜さんが明確に飛鷹に好意を抱くような発言をし始めたのだ。

 例の代替で何があったのか……。姉の力になるせいか葵さんもそこは解析しないらしい。


 その間、スタンプを貫いていた陽葵。多分……動くと思う。


 みんなが変わっていく。変わらないのは私だけ。

 仕事と創作だけなら変わらなくてもよかったのかもしれない。でも……私のよりどころであるグループのみんなが変わるなら私も変わらなければならない。


 彼と私は幼馴染なのだから。……多分それだけじゃないからこそこうやってあと一歩の所まで来たのだ。

 それに確かめたいこともある。


 例え……飛鷹に襲われたとしても、私は次のステップへ進まないといけない。


 シャワーを浴びて、下着を付けて、その上にバスローブを着る。

 そのまま出て行ったら飛鷹が変な声を出していた。

 ふふ、形勢逆転が出来たみたい。

 そのまま飛鷹にシャワーを浴びさせて……私はこの格好のままベッドに座っていた。


 落ち着け、私、落ち着け。

 時間が経ち、飛鷹も同じく……バスローブを付けて出てきた。


「飛鷹、隣に座りなさい」

「うん」


「飛鷹にお願いがあるの」

「な、なに……」

「このことは仁科や陽葵には伏せてほしい。……お願い」

「……分かった、約束する」


 意志の強い瞳。飛鷹の良い所はとても誠実な所だ。

 だから信頼できるし……抱かれても許してしまいそうになる。


「私の両腕を掴んでくれる?」

「ああ、そんなことくらいなら」


 私はバスローブを脱いで下着姿のまま飛鷹に見せつけた。


「ほわっ!?」


 うるさい、私だって恥ずかしいんだから……。


「素肌の私の腕を掴んでほしいの」

「な、な、なんで……」


「私……昔、幼馴染にざまぁされたときに思いっきり両腕を掴まれたのよね。それから男性に腕を強く掴まれるが怖くなったのよ」

「そんなことが……。え、でもさっきボウリングの時に」


 そう、あの時飛鷹の胸に飛び込んで彼に掴まれた時、何の恐怖も感じなかった。

 それに今までも何度か飛鷹に近づかれたことが何度かあった。でも……不思議と悪い気分ではなかった。


 もしかしたら私は飛鷹を通じて男性を怖くなくなった可能性がある。

 だから一番恐怖を感じた時と同じことを飛鷹にしてもらい……私が恐怖を感じなかったら先へ進める。変われる……そう思ったの。


 私は飛鷹にざっくり説明する。


「分かったよ……じゃあ」


 飛鷹が覆い被さるようにやってくる。

 私は強く目を瞑った。そうして腕に強い力がかかる。


「……」

「……」

「姉さん……どう?」


 胸はドキドキするし、正直怖い。

 でもこの怖さはあの時とは違う。

 目を開くと飛鷹と目が合い、思わず目を反らしてしまう……。これは多分、彼に惹かれていってしまっている怖さなのかもしれない。


「飛鷹」

「な、なに……」

「押し倒していいよ」

「ほ! ……」


 私はベッドの上で寝転んだ。

 今だったら……交わってもいい。飛鷹なら受け入れられる。


 私はゆっくりと目を開く。

 飛鷹が興奮した様子で私の……体をじっと眺めていた。

 上から下までまるで()()()()()()()()()()()()するかのようにじっと眺めていたのだ。


 ……もしかして。


「あなたもしかして……見るだけ満足してる?」

「うぐっ!?」


「はぁ……」

「その……姉さん、美人だし……下着も肌も綺麗だし……その胸とかも」

「……」

「は、発散をしたくてすぐにでも執筆……ちがっ、発散ってのはそ、その体を合わせるとかじゃなくて!」


 ちょっと意味が分からないけど、刺激が強すぎたってことかしら。

 下着だって見られてもいいものを付けてるし、スタイルは維持できるようにトレーニングも怠ってない。

 身長のわりに胸も大きさも形も自信を持っている。ま、仁科や茜さんには敵わないけど。


 どうやら私の覚悟は決まったけど、飛鷹の覚悟は決まっていなかったよう。

 多分……今日は無理でしょう。


「飛鷹」

「は、はい」

「次、失敗しないように覚悟を決めておきなさい」

「ハイ」


 まさかこんなオチになるなんて……、思わず笑ってしまう。

 飛鷹は恥ずかしそうに頬を赤らめていた。

 男の子にとっちゃ……ちょっと屈辱かもしれないわね。


 まだ休憩が終わるまでは時間がある。


「ちょっと休もうかしら。飛鷹、あなたも休みなさい」

「うん……」


 急に弟っぽくなってるじゃないわよ。

 まったくかわいい弟分ね。


 目覚ましをセットして私と飛鷹はごろんとベッドで寝転ぶ。

 こうなってしまったら今更だ。

 私は下着のまま目を瞑った。


「すぅ……」


 飛鷹のやつ……寝入り早いわね。

 あんなに興奮したくせにすぐ眠れるものなのかしら……。


 いいわ。私も寝よう……。


「ん!?」


 何だか……温かいものが背中全体に当たっている。

 そうしていつのまにか後ろからぎゅって抱きしめられてしまった。


「ちょ、ちょ、飛鷹!?」

「……ぐぅ」


 私は今、飛鷹に完全にハグされてしまっていた。

 つまり……寝ぼけて抱き枕にされてるのだ。


「ちょ、……えぇ!?」


 私、どうなるの!?


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