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87 姉さんと呼ばれたくて④

「あの……姉さん」

「なに」

「本当に良かったの?」


「ももも、問題ないし! 私を誰だと思ってるの! ら、ラブホなんてよく行くもの!」


 まったくそうには見えない。

 何かもう弟兼部下に良いとこ見せたいのとパニックで上手く頭がまわってないのがよく分かる。


 冗談つもりだったんだけど、いいわよなんて言われたら行くしかあるまい。


「な、中は綺麗ね」

「外観だけではないんだね」


 絵師スペシウムや編集の山崎から話はよく聞いていたのでラブホについて大体は分かっていた。行ったことはないけど。

 ラブコメを書くにあたって、たまに調べることもあったので把握はしている。行ったことはないけど。


 今日は初めて行った経験を糧に自作のラブコメでうっかりラブホに入ったシーンで1万字使えるな……。


「へぇ、へぇ……書こうかなぁ」


 姉さんも同じこと考えてる件。

 覚えたことをすぐ使いたくなるのは作家の悪い癖だと感じる。


 さっそく受付して部屋を取ることにする。

 エレベーターで上がって取った部屋の前まで行くと、俺と姉さんは無言のまま部屋の中へ入った。


 ヤバイ、何か緊張してきた。

 大それたことをしている気がする。

 こんなつもりじゃなかった感……。まぁ、実際に行為するとは限らない、普通に休憩して終わる可能性の方が高い。

 相当高い買い物だったけど……。


 大きなベッドがボンとおかれており、天蓋まであるじゃないか……。結構本格的な感じだった。

 薄暗いライトに良い雰囲気となっている。

 これは……盛り上がりそうだな。


「あの……姉さん」

「ひっ!」


 エレベーターの時からすでに無言だったし、この部屋に入ってからすごく怯えてないか。

 ふぅ……。


「ごめん、俺が悪かった。ちょっと姉さんをからかってたんだ。……こんな状況でやることじゃないと思うし、普通に休憩して帰ろうよ」


 まぁ……本当は興味があるんだが、怖がってる人に何かするのは間違ってる。

 俺自身も経験ないし、心の準備も出来てないから……止めてもいいと思っている。


「べ、別に怖がってないし! 何よ! 私が男性経験のない処女だから情けをかけてるって言うの!」

「うん」

「~~~~~~~~~っ!」


 声にならないよく分からない声で姉さんが鳴いている。


 やべぇ、そのとおり過ぎて頷いてしまった。

 姉さんなら許されるよね。


 正直な所、俺も経験がないので内心ドキドキするはずなんだが、それ以上にパニックになってる姉さんを見ると落ち着いてくる。


「姉さん、こっち来て座ろうよ」

「そそそそのまま押し倒す気でしょ!」


 めちゃくちゃ警戒してる。

 良い椅子がないので仕方なくベッドに座る。


「お喋りしよう。普段の姉さんなら誰にも負けない。そうでしょ」

「……」


 目の前の女性は絶対無敵、浜山SOの所長の美作凛音だ。

 普段の姉さんに戻れば適切な判断も取れるはず……。

 よし、話題は違うものにしよう。日常的な会話っと。


「そういえば姉さん。いつもはこの時期は海外旅行に行くんだよね?」

「……うん」


 ふらふらと姉さんが隣に座ってくれた。

 無茶苦茶押し倒したいけどそれをやったら多分いろんな意味で俺は終わる。

 紳士にいこう。


「今年は何で行かなかったの?」


 美作所長は元々海外志望な所がある。

 実は英語もペラペラでGWやお盆休みは1人で海外旅行に行くぐらい活発な人だ。

 だけど、今年は行かなかったらしい。


「行くかどうか迷ったのよ。最近……ほら陽葵が結構活発的に作品を書いてるでしょ」


 お、雰囲気がいつものように戻ってきた。

 でもこうやって横にならぶとやっぱ姉さんって小さいよな。

 マジで無理やりを押し倒したら抵抗がむなしく襲える気がする。


「聞いてる?」

「聞いてます」


 そんなことできる勇気がないから今までのらりくらりなんだよな……。


 この前の仁科さんちでのことや。

 茜さんとのデート。そして……今。

 どれもこれも男を出せば何かしらの成果をあげられたのかもしれない。


 でも……女の子はやっぱり優しくしてあげたい。そう思うのは悪いことなんだろうか。


「負けてられないなと思って……今年は日本に残って作品を書こうと思ったのよ」

「そうだったんだ。……姉さんはいずれ会社を辞めて海外へ行ったりするの?」


「どうしてそう思うの?」

「何となく……姉さんはウチに留まるような人じゃない気がして。出世の話はたまに聞くんだけどね」


「そうね。もうちょっとステップアップしてもいいかなって思うことはあるわ」

「じゃあ……」


「でも今はあなたや仁科、陽葵と一緒にやりたい思いが強いから」

「……所長」


「女性幹部としてどこまで出世できるか……もしくは独立するか、どっちかを選びたいわね」

「……俺、どっちを選んでも応援するから」


「ありがと飛鷹」


 姉さんはにこりと笑ってくれた。

 ……和やかな雰囲気になったようだ。

 これならもう落ち着いて時間まで休憩できればいいかなって思う。


「じゃあ……飛鷹」


 姉さんは立ち上がった。


「……シャワー浴びてくる」


「うん、分かったよってえぇ!?」



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