86 姉さんと呼ばれたくて③
「私が飛鷹に大人の遊びってやつを教えてあげるわ」
小さい体で胸を張る姉さん。
姉さんも姉弟関係が興に入っているようだ。
俺も正直この関係が楽しくなってきたので乗らせてもらうとしよう。
大人の遊びかぁ。
どんな遊びを提案してくれるのかなぁ。
「じゃあ、姉さんどこ行く?」
こうして俺達が行った所は……。
ガタンゴトンと音がして、10本の白のピンが倒れてしまう。
結構やるじゃないか、姉さんは運動神経もかなり良い。
さてと俺もやらせてもらおう。大学時代どれだけやったと思っている。
プロボウラーになろうかと思ったくらいだぞ。
って違うな。
「姉さん、なんで、ボウリングなの」
「え、楽しいじゃない」
「大人の遊びのわりに中高生問わず人気のボウリングを選ぶなんて」
「家族がよくする遊びこそ大人の遊び……そう思わない?」
「うわーとんち効いてんなぁ」
姉さんがボールを軽やかに投げる。
これで2連続ストライクだ。正直かなり上手い。
次の俺の投球も難なくストライクを取れた。
「やるじゃない飛鷹」
「当然。大学の時、毎日のようにやってたからね。ボウリングサークルに参加してたくらいさ」
「じゃあそこで彼女ができたの?」
「男しかいませんでした」
次は姉さんの番だ。
「言っておくけど、負ける気はないからね」
「姉さん、闘争心が出てる」
「私は負けず嫌いなの。弟に負けるとか……プライドが許さないわ」
現在、10ラウンド目。姉さんがここでストライクを取れば俺は逆転負けしてしまう。
プレッシャーがかかる場面、やれるか?
姉さんは気を引き締めてフォームを取り、ボールを滑らせた。
投げられたボールは少し回転し、ピンを9本なぎ倒していった。
「あ……」
「いやまだだ」
沈んだ声を出す姉さんだが、残る一本のピンがかすかに揺れている。
「いけっ!」
思わず叫んでしまった。
それと同時にコトリとピンが倒れる。
つまり……ストライクだ。
「やったー!」
姉さんは両手を挙げて、ピョンピョンと跳ねた。
そうして振り返る。
「やったね、姉さん!」
俺は完全にテンションが上がっており、彼女を姉さんとして完全に見てしまっていた。
ハイタッチしようと両手を挙げると姉さんは喜んだ顔で近づいてきた。
「いえー、えっ」
てっきり両手を叩いてくれると思ったらそのまま胸に飛び込んできた。
「やったわ、やった! 私の勝ちね!」
「あ、……うん」
盛大なハグにさすがの俺も我に帰る。
楽しそうに無邪気に笑う姉さんがとっても可愛く感じた。
こんな表情もするんだな……。
「私の力を見せつけてやったわ」
「あ、ああ……」
「何よ。歯切れ悪いわね……」
「その姉さん……さすがに近いかなって」
「……」
顔と顔が十数センチまで近づき、姉さんの体は完全に俺の胸に密着した状態だった。
たまらなく嬉しいんだけど、さすがに恥ずかしい気もする。
姉さんが止まって……顔が分かるくらい紅潮していく。
これ以上近づかれるとまずいので姉さんの両腕を掴んで抑えた。
「あわわわわわわ……」
「ね、姉さん?」
「ち、違うの! 妹と来た時はこんな感じで抱き合うの……! 家族なの!」
「そ、そうだな、家族みたいなものだもんな!」
そうは言ってもやっぱりドキドキしちゃうもの……。
めちゃくちゃ照れちゃうな。
「あの……飛鷹」
「なに?」
「さっきまで無邪気にはしゃいでたのは忘れて」
「え、なんで」
「……恥ずかしいから」
俺はふぅっと息を吐いた。
「忘れないよ」
「……え?」
「姉さんが楽しそうに笑っていた姿、とても自然体で素敵だった。……仕事ではかっこいい姿を見続けたいけど、プライベートは元気いっぱいの姉さんの方がらしいと思うよ」
「……。生意気言って」
「今日は弟分だからね。姉をわがままで振り回すのが弟だと思う」
「両腕掴まれても怖くなかったな……」
「へ?」
「何でもないわ。よし、じゃあ……今日はいっぱい遊ぶわよ、ついてきなさい!」
「おーっ!」
「姉さんはビリヤードも上手いんだな」
「学生の頃相当やったからね」
「よっ!」
「飛鷹、あなた球技できるのね」
「一応中学時代はバスケ部だったんだよ」
「うぅ……このUFOキャッチャー取れない!」
「姉さん、あとちょっと!」
「やったー! 取れた!」
「ら~~~~ら~~~~ら~~~♪」
「姉さん、歌うまっ、カラオケよく来るの?」
「部下がポカミスしてストレスたまった時に」
「それはちょっと笑えない」
「プリなんて久しぶりね。昔よく撮ったわ」
「10年前くらい? その時代もあったんだね」
「あるに決まってんでしょ! そしてあなたも2つしか変わらないでしょ!」
姉さんとたくさんの遊びをやった。
久しぶりの競技もあったからすっごく楽しかった。
高校や大学で遊びつくしたつもりだったけど……まだまだ遊び足りなかったんだな。
「ふぅ……すっとした」
姉さんも気持ちよさそうな顔をしている。
最近、こんながっつり体を動かしてなかったし……気持ち良く汗を流した気がする。
「姉さん、次どうする?」
「そうね。もう少しだけ遊べるかしら」
夕方、お互いの母親が喋り飽きるまであと2時間くらいってところか。
「飛鷹、次はあなたが決めていいわよ」
「何がいい?」
「できれば休憩できる所がいいわね」
俺はまわりを見渡してみる。
2時間くらいで休憩できる所かぁ……。
ちょっとだけテンションがおかしかったかもしれない。
俺はあそこを指さしていた。
「あそこで休憩できるみたいだよ」
「っ! バッ!」
そこは……休憩4000円と書かれた煌びやかな……いわゆるラブホテルである。
すでに軽口を言い合える中だったのでバカなこと言ってないの! なんて怒られるのを予想してたんだが……姉さんは動揺しながらも言葉を返した。
「い、いいわよ。休憩したかったし……行きましょうか」
え、マジ!?
俺と姉さんはラブホに入ることになりました。




