80 浅川さんと一緒に⑤
何をやってるんだろ……。
いい年こいて、創作のことになると熱くなるくせを何とかした方がいいな……。
「ごほっ、ごほっ」
「大丈夫ですか浅川さん」
体力の少ない茜さんが息を切らしていた。
「お水をどうぞ」
「すいません、ありがとうございます。ごくごくっ」
「落ち着きましたか?」
「はい、……それにしてもこの水やけに減ってますね、ごくごく」
「あ、それ俺の飲みさしのやつ」
「ブッハァ! か、か、か、間接!?」
「あぁごめんなさい、ごめんなさい!」
どうやら俺と茜さんのパニックさはなかなか終われないようだった。
何やってんだ、ほんと。
「浅川さん、ごめんなさい」
「いえ、私こそ取り乱してしまいました」
茜さんにベンチに座ってもらい呼吸を整えてもらう。
せっかく今日のためにいろいろ準備したのにポンコツを露呈してしまってる気がする。
人のこと言えないじゃないか。
やばいなぁ、落ち込む。
「花村さん」
「は、はい!」
「……最後にあそこへ行きませんか?」
俺と茜さんはコールダックを抱かせてくれて写真を撮ることができる場所へ移動した。
「覚えててくれたんですね」
「私のハシビロコウは撮りましたからね。花村さんのやりたいことをやらないと」
茜さんっていい人だな。
あの状況だったら、今日はもう帰りますなんて言われてもおかしくなかったのに……。
飼育さんに聞いて、コールダックを抱えさせてもらった。
「花村さん、とってもかわいいですよ」
「あはは……でも確かにかわいいですね」
「写真撮って、女性陣のSNSに上げますので」
「……盆明けに絶対からかわれそう」
写真を何枚か撮ってもらう。
コールダックを浅川さんに渡した。
「浅川さんも抱いてみてください」
「は、はい」
余所余所しく茜さんがコールダックを抱く。
「ふわふわですね。……気持ちいい」
「写真撮りますね」
「あ、ダメです。私、写真NGなんで」
「芸能人かなんかですか!?」
「ふふ、冗談ですよ」
「もし宜しければ……カップルさん同士で撮りましょうか?」
飼育員さんが気をきかせてくれる。
さっきはパニックになってしまったが二度目なのでカップル呼びももう大丈夫だ。
そもそも男女2人来てるんだから……そう見られるのは普通だと思う。容姿の面で釣り合ってないけど。
「あの……いいんでしょうか」
「何がです?」
「フォーレスさんのみなさんに悪い気がして……」
「あの3人はただの同僚ですよ。彼女らを気にする必要なんてないですって」
「今の言葉一字一句違わずSNSに投稿してもいいですか?」
「何か嫌な予感がするので絶対やめてください」
冗談が言えるくらいには落ち着いてきたようだ。
「彼女さんがコールダックを抱いてください」
「浅川さん、お願いします」
「分かりました」
「彼氏さん、もっと寄ってください」
「はーい、え?」
カップルと勘違いされるのは構わないが本当にカップルみたいなことをする気はない。
寄ってください……って密着するってことだろ。さすがダメな気がする。
「花村さん」
躊躇してると浅川さんが声をかけてくれた。
「いいですよ……、花村さんなら」
茜さん! なんて良い人なんだ。
好きでもない男に近寄られるなんて普通じゃNGのはず。
なのにこの場を乗り切るためにOKを出してくれるなんて……感動だ。
その心行きを無駄にしてはいけない。
思い出せ! 自作のラブコメを……。こんなシーンを今まで何回か書いたはずだ。その時どうした!
俺は茜さんの肩に手をやり思いっきり抱き寄せた。
「ほわぁ!?」
「いいですね、はいチーズ」
「いえい」
パシャリという音がした。
ふぅ、終わった。
しかし……茜さんの肩って小さいな。彼女が出来たらこんな感じで抱き寄せるんだろうか。
「花村さぁん」
茜さんが頬を赤くして困惑した表情を浮かべる。
「さ、さ、さすがに近いですぅ」
うーん、照れた茜さん、めちゃくちゃかわいいな。
とりあえず。
「ごめんなさい!!」
謝ることにした。
この後、飼育員さんにダックが赤ちゃんみたいですねって言われた結果、お互い意識して慌ててしまったが何とか落ち着くことができた。
こうして掛河花鳥園でのデートらしきものは終わりを迎えることになる。
そして事前に葵さんに了承をもらっていたお店に招待して、ご飯を食べて茜さんを送ってそれで今日一日は終了予定だ。。
その後はバーにいく? ホテルにいく?
大人の付き合いだったらそれが普通かもしれないがすでに花鳥園での出来事でメッキがボロボロなので一刻も早く帰って今日の失敗を悔やんで寝たい。
せめて食事は無難に終わらせることにしよう……。
予約は18時にしているので、それまでは近場のカフェで時間を潰す。
お互い疲れていたので言葉少なめで落ち着いた時を過ごすことができた。
そうして予約したお店に到着した。
「オムライスのお店ですか?」
「俺も行ったことはないんですけど、結構評判の良い店らしいですよ」
前に浜山駅前の創作喫茶を教えてくれた先輩書籍化作家が教えてくれた店である。
個人経営のオムライス店で予約してないと休みの日はまず入ることができない人気店だ。
すでに予約してない人達で並んでいる。
「段差があるので気をつけてください」
入口がちょっと高めの段差だったので念のために声をかける。
今日は歩き回ったし、さっきのカフェで休憩したので俺は回復したのだが、体力が少ない茜さんはもしかしたらと思った。
「はい……あっ」
がくっと茜さんの足がふらつく。
俺の体は自然と動き、彼女の身体を支えていた。
「大丈夫ですか? ケガはありませんか?」
「あ……」
「俺が支えるんで一緒に行きましょう」
こうなってくると女性の体は……とか言ってられない。
腰の方に手をまわして、ゆっくりと体を持ち上げる。
段差さえ乗り越えれば歩けるはずだ。
「無理をしないでくださいね……エスコートさせてもらいますんで……」
「あの……花村さん」
「はい?」
「どうしてそんなに優しくしてくださるんですか? ……やはりあなたが営業で私が客だからでしょうか」
「そんなの」
俺は首を横に振った。
「他ならぬ茜さんだからに決まっているじゃないですか」