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78 浅川さんと一緒に③

 さっそく受付で入場券を購入して中に入ることにした。

 10年以上ぶりだから楽しみだなぁ。


「あか……浅川さんはお気にいりの鳥とかいます?」

「ハシビロコウですね。あの眼光に睨まれたいです」

「あそこに剥製がありますね~。確かに良い眼をしている」


「花村さんはどうですか?」

「そうですね。子供の頃、コールダックを抱かせてもらった記憶があるんですけど、可愛かったのでまた会いたいですね」

「ふふ、かわいいですよねぇ」


 お盆休みなので人が多いなぁ。

 15時のバードショーを見にいきたいからそれに準じてまわるかな。


「花村さん、花村さん!」

「はい、なんです?」

「ペンギンちゃんと記念写真撮りたいです! この前は撮れなかったので! かわいいと思います」


 俺はあなたの方がかわいいと思います。

 でも、そうだな。普段S社で所長とバチバチやってるクールな茜さんの素の姿が見られるんだ。それだけで大きな価値はある。

 葵さんを装っているというバレバレのポンコツっぷりも見れそうだな。


 そうして俺と茜さんは一緒に歩いて行く。


 オシドリの池にはたくさんのオシドリやカモがいて、思わず頬が緩んでしまう。

 その先のイベント会場にはフクロウがいて、飼育員の方の腕に乗っており、キョロキョロとしている。


「この鳥たちの動き、浅川さんの創作にも役に立ちそうですね」

「そうですね。しっかり覚えておこうかと思います」

「お姉さんの創作にも役立つかもしれませんよ」

「ふむ、ドローンみたいな役割で……鳥を使って幼馴染女の浮気シーンの写真を撮って破滅させる」

「ちょっとここで闇を出すのやめてください」


 隠す気あんのか、この人。

 そうしてその先にはたくさんのインコがいて、エサを手に取ると集まってくるのだ。


「今日はいつもより多いな!」

「ふふ、写真を撮りますね~!」


 しっかりスマホで撮ってもらった。

 エサを食べきったインコ達は次の客のところへ行くのだが、3羽だけなぜか残っていた。


「この子達は凛音、一葉、陽葵と名付けましょうか」

「やめて」

「花村さんのことが大好きなんですね」

「言うほどですよ。結構きついこと言いますし」

「美作さんにきついこと言われてるって報告しておきますね」

「やめてぇ! 所長とは言ってないっす!」


 まぁきついこと言うの所長だけなんだけどね。


「でも……浅川さん、今日は随分ニコニコされているじゃないですか」

「普段からにこにこしてる方だと思いますよ~」


 葵さんはそうだな。

 でもこういう状況の笑顔ってやっぱり自然体なんだと思う。

 だから今、茜さんはリラックスした自然体の笑顔なんじゃないかなぁ。


 でも茜さんは仕事の場ではいつもキリっとしていて、今のような柔らかな笑みを見せることはない

 キリっとした笑顔もまた美女って感じなんだけど。


「真面目な所も素敵だと思いますけど、やはり、自然な笑顔がいいですね」

「私、そんなに笑ってましたか?」

「ええ……良いと思います」

「そ、そうですか」


 茜さんは俺から視線を外すようにした。


「花鳥園だけあって……草花も綺麗ですね。オニバスでしたっけ。水花とかも綺麗に思えます」

「子供の時は動物に眼が行きがちですが、大人になると草花の美しさ、強さにも眼がいきますね」

「まったくです」


 次の所はエボシドリとヘラサギの広場か……。

 大きめな鳥とふれ合えるだけあって人が多いな。この混雑はなかなかだ……出来れば向こうに行きたいんだが。


「人が多いですね」

「どうすっかな」

「きゃっ」


 人混みに押されて茜さんがバランスを崩す。

 すぐさま抱える様に掴んだ。


「大丈夫ですか?」

「花村さん、すみません」

「ここはまたにしましょう。さあ、一気に駆け抜けましょうか」

「でも、こう混雑してるとはぐれてしまいそうですね」


 人混みが多すぎるとな……。あと茜さんのような綺麗な人をはぐれて一人にはさせたくない。

 さっきからめちゃくちゃ視線を浴びてる原因は恐らくこの人だろう。

 男の飼育員さんから何度も鳥類を触りませんかって声を茜さんにかけてくるんだ。お近づきになりたい気持ちはよく分かる。

 葵さんと茜さんの2人で来てたら鳥よりも視線を奪っちゃいそうだ。


 よし。


「あ、え、花村さん」

「俺の手を掴んでいてください、いきますよ」

「は、はい!」


 なるべく、茜さんの負荷にならないようにルートを選択してこの混雑をつっきっる。

 その奥のハシビロコウの森へ到着した。


「ここはまだ空いてますね」

「ふぅ……」


「大丈夫ですか?」

「昔から体力がなくて……すみません」


 ちょっと早く走りすぎのかもしれない。

 元長距離陸上部感覚だとゆっくり走ったつもりだったんだけどなぁ。

 茜さんの体力も考えずに走ってしまったのはマイナスポイントか、反省しないと。


「あ、あの……花村さん」

「はい? あ、もしかしてケガとかですか!」

「そ、そうじゃなくてぇ」

「顔が赤いですよ。確かに夏ですし、熱中症!」


「あのおにーさんとおねーさん、お手々繋いでるぅ、ラブラブだぁ」


 側を通る子供に指摘されて、理解する。うーん、そういうことか。

 はぁ、この後先考えずにやる性格、何とかしないとなぁ。

 良かれと思ってやったことが……このどうしようもない空気を生み出しちまうんだ。


 俺は慌てて、握った茜さんの手を解いた。


「ごごごごごごめんなさい!」


 精一杯の謝罪をする。


「い、いえ。私、汗っかきなので手汗が汚かったかもです」

「いえ、スベスベで小さくてとても柔らかい手のひらでした」

「っ!」


 茜さんの顔が真っ赤になる。


「そんなこと言わなくていいです!」

「ほんとごめんなさい!」

「……もう、美作さんが言ってたとおり大それたことするんですね」

「え?」

「何でも無いです。この件も美作さんにご報告するだけです」

「ややや……それだけは!」


「冗談ですよ……。ではハシビロコウを見ましょう!」


 茜さんがばっと駆けだしていく。


「ほら、花村さん、早く!」


 ふぅ……ひとまず大きな減点にはならなそうで良かった。

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