77 浅川さんと一緒に②
愛車に美女を乗せるのは2回目だ。
1回目は3人乗せたけど、2回目はたった1人である。
しかもそれが取引先の担当者になるなんてな……。
ちらりと葵さんに扮した茜さんを見る。
うん、やっぱり美しい。何というかザ・美女って感じだよな。
所長も美人だけど、実の所、童顔を無理やり化粧で取り繕ってるってことが分かってしまったからなぁ。九宝さんがもう少し年を重ねればこんな感じになるのだろうか。
っと無言はいかんな。
「浅川さん、お仕事は無事に納めた感じですか?」
「そうですね~。金曜日の遅くまで忙しくしてましたよ」
口調はちゃんと葵さんを模している。さすが双子。
「弊社はどうにも仕事に対する段取りが悪くて、後ろ倒しにしてしまう傾向にあるのですよねぇ。期の初めに……」
う、うーーん?
「テスモの取り扱いについては連休明けに是非とも美作さんとお話したいですねぇ~」
「あの……今のって茜さんの話ですよね」
「……」
茜さんの動きが止まる。
「そそそうですよぉ~。お姉ちゃんがそんなこと言ってましたぁ」
口調は妹を真似てるのに話の内容は完全にS社のことなんだが、茜さんの気分抜けてねーじゃねーか。
気付かないフリするのも大変なんだぞ。
「へぇ、姉妹で情報共有してるんですね。仲が良くて羨ましい」
「ふぅ、危なかった」
バレバレなんですが、そもそも姉妹で社内情報バラしあったらダメだろ。実際はやってないんだろうけど……。
「花村さんはいつもこのようなオシャレな曲を聴かれてるんですか?」
俺の愛車はスマホからbluetoothで音楽を流せるようにしている。
女性に人気っぽいのをネットで探してきてランダムで流れるように設定している。
このあたりは抜かりない。
「ええ、その通りですよ」
結構クールにやれてるんじゃないか。
仕事では戯けたキャラと思われているがプライベートではしっかりと女性をエスコートしている。つまり結構いい感じの大人の男になれてるんじゃないだろうか。
既女好きとか既婚者でマウント取ってくる編集山崎、絵師スペシウムにも負けてないと思う。
さてと東名高速乗ろうっと。
「女子創作グループの上では花村さんは普段アニソンをぶっぱしているって意見で全員一致だったのですが」
「なんすか、それ!?」
「ちょっとスマホ見せてもらってもいいですか?」
「嫌ですよ! 絶対調べる気でしょ」
立て掛けておいたスマホを奪われないようにポケットに入れる。
「ちょっと、前向いて運転しないと危ないですよ~」
くそっ、やはり所長とタイマンできるだけあって相手の方が口のうまさは上手だな。
「そもそも女子創作グループってなんですか……」
「私と姉と美作さん、仁科さん、九宝さんで組んでいるグループです。創作についてワイワイ話してるんですよ」
「ふふ、全員20歳超えてるのに女子というのはあまりにも」
「ていていていてい」
「いたたたっ! ほっぺつつくの止めて下さい、運転中!」
「今回の件は美作さんに重要案件として御報告させて頂きます」
わりとお茶目なことしてくるな……。葵さんを装っているというよりも茜さんの地じゃなかろうか。
「ふふっ」
でもちょっと堅苦しかった雰囲気が柔らかくなった気がする。
せっかくの休暇だし、俺も楽しませてもらおう。
穏やかに会話している内に掛河花鳥園に到着した。
掛河花鳥園とは花と鳥とふれ合うことができ、大きな室内で放し飼いをされているこのあたりでは有名なテーマパークだ。
俺も子供の頃、両親と一緒に1回、校外学習も含めて2回ほど行ったことがある。
そういう意味では懐かしいなぁって思う。
駐車場から降りて、茜さんと共に歩いて行く。
「浅川さんも何回が来たことあるんですよね」
「ええ、子供の時に家族で。あと2年前に葵と一緒に来たんですよ」
「へぇ……葵さんと」
「はい、そうなんですよ~」
「あなたは葵さんですよね?」
「……はい、葵です」
コントかな。
「あはは、よく双子だから間違えられるんですよ……」
俺は本人が間違える双子を聞いたことがない。自作のネタとして使ってみるか。アホかと思われそうだけど……。
茜さん、めちゃくちゃ汗かいてるけど、この人あれだな、仕事以外はポンコツ系なのかもしれない。