75 仁科さんちで2人きり⑤
いててて、頭がめちゃくちゃ痛い。
まさか……仁科さんの家に泊まることになってしまうとは……。
2人で会話しながら酒飲んでるのは覚えてる。一度帰ろうしたことも覚える。
そこから衝撃的の話を受けて、何か知らんけど一気飲みしてから完全に記憶がない。
なんだっけ……衝撃な話って、それも覚えてない。
「頭痛いなぁ」
仁科さんも飲み過ぎたようで……頭を抱えている。
お互いあれだけ飲んで、間違いがなかったのは結構奇跡のような気がする。
本当に触ったりしてないよな……。
いや、触った方が良かったのか? いやでも仁科さんの意志も尊重しないと。
記憶失って触って嫌われたらもう何の喜びも無いもんな……。
「花むっちゃん、朝ごはん……食べる?」
「あ、うん……。大丈夫?」
「凝ったモノは無理だけど」
お言葉に甘えさせてもらうことにした。
凝ったものは無理といいつつ、ピザトーストにサラダに目玉焼きと十分すぎる朝食が出てきた。
お互い飲み過ぎで元気はないが、しっかりと朝食を取ることにする。
「今日は一日寝てそう……」
「明日帰れそう?」
「できれば夜中に移動したいから明後日の夜にするかも……」
確かに東京方面は渋滞するだろうし、夜中移動の方がいいだろう。
朝食は終わり、一通りの片付けは終了した。
「じゃあそろそろ帰るよ」
「うん、昨日は楽しかった。またしよーね」
「次は飲み過ぎないようにしないとね。もう寝る感じ?」
「シャワーだけ浴びようかな。汗かいちゃったし」
仁科さんのシャワーシーンとか想像するだけで興奮してくる。
帰ってしまうとその圧巻のボディをもう見れなくなるのは残念すぎる。
もうちょっとだけそのカラダを見続けたい気もする。
「花むっちゃん、一緒に入る?」
「いいの?」
「無理♪」
ですよねぇ。
お酒がある程度抜けた後の会話なんてこんなもんだ。
酒は抜けたが頭は痛いままだ……。俺も帰ったら速攻寝よう。
仁科さんが横を通り過ぎる。
「あっ」
仁科さんがよろめいてしまった。
危ないと俺は彼女の身体を受け止める。
柔らかい腕を掴みながら、顔を見合わせた。
「あ……」
可愛らしい仁科さんの朝の顔に少し胸がドキリとする。
このまま抱きしめたりしたら……きっと気持ちが良いのだろうなと直感的に思った。
仁科さんの口が動く。
「ハグくらいなら許してあげるゾ」
俺の想いを知ってか知らぬか、仁科さんはそう呟いた。
その時、飛んだ記憶が一瞬戻った気がした。
冗談で言ったんだと思う。けど……俺は自然と彼女をハグしていた。
「っ!」
「許してくれるんだろ」
「う、うん」
仁科さんの体は思ったよりも小さく、女の子って……やっぱり小さいんだなとよく分かる。
ハグと言っても力いっぱい抱きしめているわけじゃない。
両手は両肩に、仁科さんの頭を自分の胸に押しつけている。
どっちかというと介抱しているだけかもしれない。
この後どうしようか。ただ自然とその右手は彼女の飴色の髪をゆっくり撫でていた。
「んぅ」
「いつもありがとう。朝ご飯も美味しかったよ」
「もっと」
「え」
「撫でていいよ」
思うほど長い時間、仁科さんの頭を撫で続けた。
自分でも何してんだろうと思うくらい彼女の頭を撫で続けた。
撫で終わった後、俺が火照ったように熱く、仁科さんもまた顔を赤くして視線を合わせてくれなかった。
何だろうか20代中盤の男女のこの体たらく、まるで中学生じゃないかと思ってしまう。
お互い顔を見れないほど恥ずかしく感じてしまったようで、俺は一言二言で会話をすませ、逃げるように仁科さんの家から出て行った。
正直なところ限界だった。眠気が一気に飛んでしまったよ。
「かわいかったな……」
仁科さんの家からの帰り道、彼女の髪を撫で続けた感覚がまだ残っている。
正直、女の子の髪をあんな感じで撫でたのは初めてかもしれない。
「ん」
スマホが震える。仁科さんからラインが来たようだ。
「デートがんば……か。うん、頑張るよ」
何というか複雑な気持ちではあるけど……、せっかく仁科さんがいろいろ教えてくれたんだ。絶対に成功させよう。
……でもその前に家帰って発散したい。