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73 仁科さんちで2人きり③

「に、仁科さん」

「なに?」

「な、何でもない」


 あなたの格好すごくエッチですね。

 何て言えるわけがない。

 冷房効いてるけど、今は夏だもんな。

 俺だって部屋では半袖とボクサーパンツで過ごすことが多い。

 女の子だって薄着でもおかしくない……。


 俺の書いてるラブコメだったら……だめだ、女の子の服装は情報量が少なくて、挿絵やコミカライズ頼りだ!


「外、暑いよね~!」

「お、おお」


 体を伸ばすとその圧倒的なものが揺れとる、揺れとる!

 仕事中はぴったりのレディーススーツを来ているため巨乳感というのはそこまで分からないだが、やはり服を脱ぐとそれは目立ってくる。


 あの夏のビーチ、夜のベッドでは本気でやばかった。

 落ち着け、友達にそんな性的な視線を向けるなんて許されるわけがない。


「花むっちゃん、何飲む?」

「ほわっ!?」


 屈んだらあかん!

 谷間が見えてますよ! 注意すべきか……?

 だめだろ。家族とか彼氏ならともかく、俺が指摘するのは間違ってる。


「じゃあ……」

「お酒ならいっぱいあるからね」


 仁科さんは冷蔵庫を開けると缶の酒類が山のように入っていた。

 ちょっとありすぎじゃないか。


「買いすぎちゃったのでいっぱい飲んでね!」

「お、おう」


 飲み過ぎて帰れないってオチになりそう。


 その後はゲームをしたり、動画を見たり、仁科さんの新作小説を読ませてもらったりした。

 何というかお互いガードがちょっと緩くなってたんだろうか、俺もいつも以上にお酒を飲んでいた気がする。


 酒を飲まなきゃ仁科さんの体をなめ回すように見そうでヤバかったんだよな……。

 酒を飲んだら大丈夫ってわけじゃないんだけど……。


 お土産で持ってきたバームクーヘンやおつまみを食べながら話をしていく。


「花むっちゃん、もっと飲まないと! あたしの半分しか飲んでないよ!」

「結構飲んでるよ。これ以上のペースは吐きそうになるからダメ」

「そっかぁ。掃除めんどくさいから吐くのはやめてね~」

「うい」


 まだ理性は残っていたが、少々フラフラしているようにも感じる。

 これ……帰れるかな……。


 あぁ、でも気持ちいいなぁ。

 テーブルで向かい合わせに座って缶チューハイを片手に仁科さんと話をしていく。

 それは凄く心地よい時間だった。



「明後日だっけ、葵さんとのデート」

「デートってというか……お誘いっていうか」


「それをデートって言うんだよ」

「ですよねぇ」


「どこ行く予定なの?」

「掛河花鳥園に行こうかなって」


「いいなぁ。あたしもいきたい」

「え、3人でいく?」


「2人でに決まってるでしょ!? 葵さんに同じこと言ったらさすがに軽蔑する」

「ですよねぇ」


「もう花むっちゃんったら……もう!」

「実際の所さ。葵さんが俺を誘った理由、なんだと思う? あの人、別に俺のこと好きじゃないよね」

「でも好意がなきゃ誘わないんじゃない?」


「そうかもだけど……、あまりにピンとこないんだよな」

「茜さんと3人でデートしたくせに?」


「あれは偶然だったんだって……」

「葵さんと話するとき結構、花むっちゃんの話するんだよね。結構好かれてると思うよ」


「何でだろうな……」

「何か葵さんの喜ぶことしたんじゃないの?」


「そんなことした覚え……精々、慧可断臂(えがだんぴ)の感想をラインで送ったくらいかな。あとは」

「それだよ」


「それだけで!?」

「あの難解で拷問かなって思う文章を読むのって大変だと思うよ。よく読めたね。あたしも頑張ってみたけど、あれを読むなら般若心経覚える方がマシと思ったよ」


「仁科さん、言うねぇ」

「葵さんに内緒にしてね」


「まぁ……参考資料とか論文と思えばそれほどね」

「ん? 何か言った?」


「何でもないよ」

「花むっちゃんってさぁ……どんな女の子が好きなの」


「唐突だねぇ」

「そろそろ転勤して半年ぐらいになるんだよ。所長に陽葵ちゃん、葵さんや茜さんもそうだけど……明らかにこの人を好きっての出さないよね」


「そ、そうかなぁ」

「強いて言うなら所長に懐いてるよねぇ。でも恋って感じじゃなさそう」


「まぁ、純粋に上司として尊敬してるかな。所長が独立して、花村くんついてきてって言われたらついてくかもしれない」

「そこまで⁉︎」


「仁科さんだって……言われたらどうする?」

「やるかも」


「でしょ!」

「私、本社嫌ってるしね。浜山から転勤するならこの会社辞めると思うし」


「え……」

「あたしが辞めたら……花むっちゃん悲しい?」


「……正直すっごく」

「……あ、ありがと。ってこの空気やめよ! 転勤の話なんてまったくないし! じゃあ、陽葵ちゃん、どう? あの子、相当えっちな体してるよ」


「知ってる」

「へ?」


「ごほん、噛んで変なこと言っちゃった。あの黒髪ロングは素敵だなって思うよ」

「あたし、あの黒髪に顔を埋めたことあるよ」


「うらやま!」

「花むっちゃんはロングの方が好きとかある?」


「そこまでこだわりはないよ。どの髪の長さも等しく好き。仁科さんの髪だってすっごく綺麗だと思うよ。飴色のふわふわ髪っていいよね」

「お……うぅ……」


「ど、どうしたの!」

「飲むぅ!!」


「飲み過ぎはだめだよ……明後日車で帰るんでしょ」

「また花むっちゃんに介抱してもらうし」


「またって……あの時のようにはいかないよ」

「あ、認めた! 新人の時にあたしを介抱してないって嘘ついてたの認めたな!」


「もう時効だからいいよ」

「くっそ! あの時、きゅんきゅんしたんだぞ! あのトキメキを返せ」


「きゅんきゅん? だいぶ酔ってるな……。そういえばあの時、何であんなに酔ってたの? 仁科さんって他の飲み会ではケロっとしてるのにあの時だけめちゃくちゃ飲んでたよね」

「……何でだと思う?」


「やっぱ彼氏と別れたとか? 失恋とかよく聞くよね」

「当たり。ただし彼氏じゃない。彼氏なんていたことないし」


「え、 嘘でしょ!?」

「なによ。24にもなって彼氏1人もできたことないですよーだ」


「仁科さんが彼氏いないって……実は性格すごく悪いの?」

「花むっちゃん、ビール瓶でぶん殴るからアタマ貸して」


「冗談だよ。……でも正直意外だ。同期や先輩からめちゃくちゃ告白されてたんじゃないか。笠松くんですら君のことが好きだったし」

「……あたしさ。子供の頃からず~~~~~と好きだった人がいたんだ」


「え、そんな人が」

「10歳上の親戚のお兄さんでね。5歳ぐらいの頃がずっと好きだった。だから小、中、高といろんな人から告白されたけどそのお兄さんが好きだったから全部断ったんだよ」


「一途だったんだね」

「でも向こうのお兄さんからすれば10歳下なんて子供だよね。顔も頭も良い人だったから……当然彼女もいてさ。嫉妬もしたし、駄々こねたりもした。けど当たり前だけど相手にされなかったの」


「……」

「あたしは一生お兄さんに恋をし続けるんだって思ってた20歳のある日、飲み会がある前日だね。あたしは目が覚めました」


「え?」

「お兄さんはその彼女さんと結婚して子供が出来てパパになってたの。それを見た瞬間目が覚めたよ。何であたしこの人を好きだったんだろって思ったくらい」


「憧れだったのかな」

「多分そうかも。お兄さんはそれも分かってからあたしのアプローチに心が動かなかったのかもしれない」


「それでやけになって飲みまくったんだね、あの日」

「憧れに青春全部使ったからね……。自分に対しての怒りだったよ」


「じゃあ、その後は誰とも付き合わなかったの?」

「何ていうか……いざ恋をしようと思っても難しいよね……。本社にはあの件があって、人間不信になってたし、同期のみんなだって結局ヤりたいですって顔によく書いてたし」


「まぁ……そっか」

「今は……信頼できる人がいるから。その人から付き合ってくれって言われたら考えなくもないかな」


「そそ、そんな人がいるの……?」

「気になる?」


「いや、まぁ……ごほん、仁科さんが信頼できる人なんだから大丈夫だろう。俺はいいと思う」

「ふーーーん。ま、その人もおっぱいばっか見てくるけどね」


「大丈夫なのかよ、その人!」

「30秒に1回くらい目線が下がるし、天然の女ったらしの気がありそう」


「女ったらしか。俺とは正反対の人物だな」

「鏡もってこようか?」


「あはは、さてとそろそろお暇させてもらおうかな」


 時刻は気付けば11時30分となっていた。

 そろそろ終電の時間となる。

 ま、タクシー使うんだけどね。


「えぇえ……花むっちゃん、もっといてよぉ」

「仁科さん、あの時くらい飲んでないか?」


「……残ってくれるなら」


 少し顔を紅くした仁科さんは肘をテーブルに立てて、俺の瞳をじっと見つめてくる。

 そして笑った。


「ハグくらいなら許してあげるゾ」

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