07 就業時間後のおたのしみ②
それはとんでもない光景だった。
各々の端末の表示画面にはずらっと文章が書き込まれていたのだ。
その光景は俺も同じことをしているのでよく理解している。まさか3人ともWEB小説のモノカキを趣味でやっていたってことなのか。
「元々わたしが学生時代からWEBに小説を投稿していて、社会人になっても続けていたんです」
九宝さんが恐ろしく早いフリック入力で文章を打っていく。
俺も利用しているWEB小説サイトは毎日大量の作品が投稿されるのでたまたま九宝さんがそういった趣味を持っていても別段不思議ではない。
それに九宝さんは文学少女っぽい雰囲気もあるし、分かる……分かるんだけど。
「あたしはね。休憩中にWEB小説を読むことが多かったんだ! それで浜山に来てから陽葵ちゃんが書いてるって聞いたらあたしもって思ったの!」
まさか同期のアイドルの仁科さんがWEB小説書きだっただなんて……正直意外だなと思う。
どちらかというと外で遊びにいくようなイメージがあったぞ……。お酒もよく飲んでたし。
でも小説を読んで、自分も書きたくなる。
俺もそれがきっかけで小説を書くようになったし、趣味としてはよくある流れだと思う。
最も意外だったのは……美作所長だろう。
所長は俺の視線に気付いたようでこちらを向く。
「あら、私は学生時代文芸部だったのよ? 執筆ってのは馬鹿にならないもので、反響があればあるほど心にもゆとりが出てくるわ。ストレス解消で仕事の成果も出るようになったし最高ね」
鬼の美作所長までだなんて……びっくりした。
またカタカタと文章を打ち始めた3人が真剣に創作活動を始めた。
「ってことは残業はしてないんだね」
「うん、19時から遅くても20時くらいはここで執筆して帰るかな~。この駅ってオフィス街だから帰宅ラッシュがすごいんだよ」
「17時過ぎは地獄ですね。それと……その痴漢とかもたまに出るので……」
ああ、この3人だったら絶対狙われるよな……。
それで時間を遅らせて帰っているのか。
「バラバラに帰ってもよし、帰りが一緒ならごはん食べても良し。繁忙期を除いて残業だけはしないって方針だから」
「いいんですかね」
「会社の回線は使ってないし、電気代くらいならいいわよ。その分ちゃんと仕事してるんだから」
本社でも無駄に休日出て冷暖房付けてる人がいたからそこはいいだろう。一定の成果を出しているなら誰からも文句は出ない。
こうして3人は再び各々の端末に目を向けた。
マジで創作してるんだな……。
俺は帰っていいということだが……ちょっとだけみんなと話してみるか。
手始めに近くの九宝さんに近づいてみた。
彼女はスマートフォンでの執筆を主に行ってるらしい。俺の存在に気付くとびくっとされた。
「み、見ちゃだめです」
九宝さんはうぐぐと白いほっぺを赤くしてしまった。
かわいい。