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68 作家と絵師と編集の男会議その壱

「んじゃ、スペシウム先生、お米先生……スケジュールはこんな感じでよろしくっす」

「はいはい。しっかし、締め切りもうちょっと何とかなんないですか? 山崎さん、ちょっと詰め込みすぎ」


「いやぁ、スペ先生申し訳ない! やっぱ【美月さん】が今、すっご熱いんで、やっぱ熱い内にやらなきゃ駄目じゃないっすか」

「それは分かるんすけど、俺はともかく、お米先生の方がきついでしょ。俺で考えてもいいんだけど……お米の構成力には敵わないしなぁ」


「ほんと、申し訳ないっす。じゃあ、お米先生お願いしますね」


「え?」


 やっべ、全然聞いてなかった。

 今は隔週1回行われるカニカワ文庫の編集者の山崎さんと絵師兼漫画家のスペシウム、そして俺、お米炊子の打ち合わせである。

 東京にいた頃は編集部でやったり、飯食いながらやったりしてたんだけど俺が浜山に来てしまったおかげでもっぱらWEB会議がメインとなっていた。


 スペシウムとはリアルの知り合いでもあり、共同作を持っているので一緒に打ち合わせをしている。


「お米、どうかしたのか?」


 一応仕事の話なので高校の時の同級生、時房ことスペシウムは俺のことをお米と呼ぶ。

 適当につけたペンネームで書籍を出版してしまうとこんな感じでわけのわからん名前で呼ばれるため後々、困ってしまう。

 まぁ変えてもいいんだけど……今更すぎるんだよな。


 そうだ。せっかくだし……相談してみるか。


「ごめん、リアルの話なんですけど……相談してもいいですかね。スペ先生は既婚者だし、山崎さんも女性に結構慣れてるって言ってましたもんね」

「いいっすよ。セフレ最大5人までいたし、既婚者に手を出して訴えかけられたこともあるんで何でも聞いてください!

「そこまでの相談じゃねーよ。じゃあ話しますね」


 カニカワ文庫の山崎さんは敏腕編集で仕事がめちゃくちゃできるが、女癖はクソ悪いわ、締め切りクソ早いわでクソ編集と思っている。

 なのでこんな暴言も許される。年もそんな変わらないし。


「スペ先生には話したんですが、俺、勤めている営業所で同僚に女性が3人いるんですね。その3人がほんとすっごく美人なんですよ」

「お米先生、ハーレムの書きすぎで現実と妄想の区別がつかなくなったんすか?」


「うるせぇ」

「むさ苦しいおっさんを超絶美女に変換してるとかないっすよね」


「まぁ……気持ちは分かりますけど、俺もサイン会で彼女達に会ってますからね」

「マジっすか! そんなに美人なんすか!?」


「そこらのアイドルを普通に超えてましたよ」

「スペ先生の奥さんより美人っすか!」

「んだと山崎コラァ!」


 奥からスペシウムの奥さんの怒号が聞こえてくる。通話オープンにしてたのか。

 デリカシーのない男なのでよく奥さんから怒られてると聞いている。


「写真ないんすか! 写真」

「見せるわけないでしょ」

「んじゃ……【美月さん】の登場キャラで例えてみてください。俺、想像できないとアドバイスできないタイプなんで」

「ええー」


 何を言ってるんだ、この人は……。


「一番騒がしかった小柄の女性。あれ、お米が言ってた所長だろ? 【美月さん】で例えるなら麗華お嬢様じゃねぇか」

「麗華さんっすか。何でもできるお姉様系万能お嬢様だ。大人ぶってるけど夜の生活は未経験ってキャラですね。あーいう子は押し倒すと健気になるんすよ!」


 もやもやとそんなシーンが芽生えてくる。


『ちょ、花村くん……だめよ。……私、初めてなんだから優しくして』


 やっぱ、所長の顔と声で脳内再生するとめちゃくちゃ興奮してくるな。

 小柄だけど出るところは出ていて、仕事は完璧だけど夜は不慣れで押し倒すとしおらしくなるのがたまらない。いい匂いがしそう。


「にこにこしてる女の子。あの子こそ正ヒロインの美月さんっぽいよな。巨乳だし」

「美月さん、いいっすね! 正統派美少女ながら性欲魔人。主人公を想い焦がれて夜も激しい」


 脳内で仁科さんが……あの夏のビーチで見た豊満なボディで迫ってきてくれる。


『花むっちゃん……あたし、もう我慢できないの……』


 何が我慢できないのか、カラダで教えてもらいたい。

 ああ、あの夏での肉感を思い出して興奮してきた。


「あの黒髪の子は……主人公の妹のアリアだな。嫌らしいことが嫌いと言いつつも実は性行為に興味津々の年下キャラ」


『花村さん、あの……わたしに夜の情事を教えてくれませんか』


 九宝さんからそんなおねだりされたら、即行抱きしめるな。

 あのスンスンしたい黒髪に顔を埋めたい。


「って……この3人のことを聞きたいんじゃないんだよ!」


 あの3人ですっかり妄想してしまった。いかんいかん。


「お米先生の作るキャラって真面目な顔して実は淫乱って多いっすね、性癖ですか?」

「お米先生ってキャラクターシートに各キャラの腋の感度ってよく書いてるけどマジ意味わからんからな、俺に何してほしいんだ? ラフの段階で舐められてる所を書けばいいのか」


「やめろ。こっちはテンションに任せて書いてるんだ。真面目に聞くのやめてください」


 こんなことを聞きたいんじゃないし、俺の性癖なんてどうでもいいんだよ。

 場を改め直す。


「実は本題があって……本業のお客さん、さっき言った3人とも仲が良い女性のお客さんがいるんだけど……」


「いいっすね、女性のお客さん」


「実は美人の双子姉妹でさ。これまた同僚3人に負けず劣らず美人」

「お米先生、話を盛ってるでしょ」


「盛ってません! 嘘みたいだけどマジなんすよ!」


「これは俺も初耳だな。いや美女3人に美人双子姉妹って創作でもなかなかないぞ」

「お米先生、それ実は新作のネタでしょ。オフィスラブってことで編集部に企画を通しておきますね」

「おい、勝手に仕事を増やすな」


「それでお米先生は何が聞きたいんだよ」

「……双子姉妹の妹さんに食事を誘われてどうしていいかわからないんだ」


「お米先生、ピュアピュアっすね! あんなにハーレム書いてるのに何をどうしたらそうなっちゃうんすか?」


「二次元と三次元は違うから」

「ラブコメ書いてる時のおまえは輝いてるのにな……。その意気込みを表に出せばいいんじゃないのか?」


「無理無理無理、面と向かって何を話せばいいかわかんないし。頼むよ、スペ先生! 日本総大将!」

「そーだなぁ」


 頼みの綱は既婚者のスペシウムのみ。

 さっきから山崎がいいクスリあるっすよ。お酒に溶かせば一発でヤれるクスリありますよとかうるさい。

 そんなことしたら大事件に発展するわ。


「気負う必要はないだろ。ありのままのお米を見せればいい」

「そ、そうかな」


「あとは誘われた立場だけど、誘ったくらいの緊張度で行った方がいい」

「どういうこと?」

「誘った側だったら身なりとかデートコースとか調べるだろ? でも誘われた側はそれを怠りがちだ。お米の場合はそれぐらいの緊張度で行った方がマイナス面を帳消しにできるってことだな」


 なるほど……、今回誘われた方だったから会話のことしか考えてなかったけど、着る服とか髪の毛とかちゃんと整えておかないといけないな。

 仕事の時は所長から耳酸っぱく身なりをちゃんとしろと言われているので、プライベートでは怠ってるって印象を持たれるのは絶対良くない。

 結果的に仕事に影響してしまう。


 まだ時間はあるし、準備しよう。


「あとはやっぱ年齢に応じた話題とかピックアップした方がいいと思うし、同僚の美女達に聞いた方がいいじゃねぇか」

「ええ、それは何かかっこ悪いなぁ」

「おまえの相談をかっこ悪いと思うような女かどうか……ついでに知るチャンスじゃねぇか。やってみろよ」


 彼女達はすごく優しく、性格の良い女性だ。

 きっと俺の相談も快く聞いてくれることだろう。

 この前大きなヘマした時も助けてくれたんだ。またかっこ悪い見せるのは気がかりだがやるしかない!


 ……次やるべきことは明確になった。


「よし、じゃあ頑張るぞ!」

「あ、お米先生、【宮廷スローライフ】の締め切りが1週間早まったのでそれも頑張ってくださいね、んじゃお疲れ様です」


 ぶちっと山崎が回線を切って去って行く。

 残された絵師スペシウムと作家お米炊子。


「最後に爆弾置いていったな」

「あのクソ編集、いつか後悔させてやる」


 副業のボリュームはまた増えてしまったが、今やるべきことは……ただ一つだった。

 誰に相談するかだな。

 所長、仁科さん、九宝さん……。誰に相談しよう。


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