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67 男、花村と支え合う仲間達

「終わったぁぁ」


 九宝さんに『beet』システムによりデータのサルベージをお願いしてもらってる中、ミーティングを終えた仁科さんと所長が会議室から出てきた。


「花むっちゃん、陽葵ちゃん何やってるの」

「あ、それは」


「『beet』の機能を使って、該当のテスモが取ったデータをサルベージできるかやってます。仁科さん、お手伝いお願いできますか?」

「え、ちょ、九宝さん」


「そっかぁ。その手があったのかぁ。おっけー! メイン設計者の力を見せてあげるよ」

「仁科さんも!?」


 慌てて仁科さんに駆け寄る。


「仁科さんも疲れてるだろ? そんな悪いよ」

「でもサルベージできれば設定データを作れるんでしょ? そうすれば最速で復旧できるじゃない。そっちの方が良くない?」


 いや、その通りなんだが……俺のために2人が残業してしまうのは申し訳なさがたまらなく出てくる。


「ごめん、俺のために」

「花むっちゃんは忘れてると思うけど、花むっちゃんがこっち来てから……結構Y社にいれたテスモの遡りやってるよね」


 仁科さんの言う通り、俺は設計・開発チームにいた時の知識を使って、顧客が使うにあたって不利益になりそうなバグなどを事前に修正する遡り対応をやっている。

 特に放置すれば大事になりそうな所が多かった。


 特にここ1年以内に納入したテスモで多かったのだ。


「営業で不慣れな時に入れたあたし担当の装置なんだよね……。花むっちゃんがいなかったら多分大クレームに発展したと思うよ」


 仁科さんも今でこそ敏腕営業だが、浜山に来た当時は結構ミスが多かったらしい。

 所長が入れているS社のテスモはほぼ完璧設計ゆえに差は歴然だ。


「だからさ……いやがらせ(あのこと)も含めて花むっちゃんには凄く助けてもらってるんだ。少しくらい借りを返させてよ」


「……仁科さん、ありがとう」


「花村くん、落ち込んでる暇はないわよ」


 今度は美作所長が声をかけてきた。


「まだ花村くんには言ってなかったわね。……私が部下に求めている条件って何か分かる?」


「……わ、分かんないです」


「人は誰しもミスをするわ。私だってミスするし、仁科なんて去年の今頃、古いテスモの電源スイッチが分からないからコンセントからぶっこ抜いてたからね」


「そんなことしてたの!?」

「だって知らなかったんだもん!!」


 仁科さんがばっと振り向いて叫んだ。

 元技術屋の俺からすれば正直ありえない話であった。


「そんなおバカな仁科もそこそこ成長したわ。何でか分かる?」


「……ミスをしないように対策……、いや、ミスは誰でもする。ミスをしてもすぐリカバリーができるようにしていた……」

「その通りよ。失敗してグジグジ落ち込んでいても仕方ないでしょ。大事なのは次のこと、違う?」

「……はい」

「『beet』を使って復旧できるなら、フォーレスは大きなミスを犯てもすぐに復旧できる体制となっている。こう思わすことができれば新規受注にも繋がるでしょ」


 確かに……。故障して2,3ヶ月復旧にかかる装置なんて誰も欲しくない。

 今回のような事態が発生してもすぐに復旧できる企業体制が整っていると思われるのは大きい。


「分かりました。俺、今回のミスは反省します。だからミスした分を全力取り返します!」


「よろしい。仁科も陽葵も聞きなさい。ミスしたって大丈夫。私が所長をしてる限り、あなた達を守ってあげるわ。だから全力で応えなさい」


「はい!」


 俺達は同時に声を上げた。

 やばい、俺もう一生所長について行きたい気分になってきた。


「前にも言ったでしょ。 やるからにはトップを目指すわ。仕事も創作も全力で行くわよ」


 仁科さんと九宝さんの頑張りもあり、テスモの設定データはサルベージすることができた。

 それを元に俺が設定データを作り上げて、旧式に詳しい設計の先輩に確認してもらい、すぐに装置を復旧することができた。


 今回復旧できたことで是正対策案も簡潔にまとめることができ、会社で出来る事全てが終わったあと、所長と仁科さんで顧客に訪問、最終報告となった。





「花むっちゃん! おっけー!」


「はぁ……良かった」

「良かったですね、花村さん」


 事務所に帰ってきた所長と仁科さんに伝えられ、最終報告が無事終わったことを伝えられる。

 今回はマジでやばかった。サルベージできなければ2,3ヶ月装置が止まっていたもんな……。

 この営業所に仁科さんと九宝さんがいて、本当に助かった。


「それに新規案件ももぎ取ってきたわ」

「やっぱ所長すごいですね……。やっぱり所長がY社もやるべきですよ~」

「体がもたないわよ。仁科ももっと頑張りなさい」

「はぁい」


「所長、仁科さん、本当にありがとうございました」


 俺は深々と二人に御礼を言う。

 難しい顧客対応を二人にさせてしまって……本当に感謝していた。


「九宝さんもありがとう」

「わたしはいつも通りの仕事をしただけですよ」


「うん、これで今回のことは終わり! みんなでニコニコお仕事しよ!」


 あぁ、やっぱり最高だな。

 所長も仁科さんも九宝さんも本当に頼りになる。

 もう同じミスは絶対にしない。もっと頑張ってみせる!


「花村くん、浅川葵さんに御礼の連絡だけしておきなさい」


 所長からそんな言葉を言われる。


「今回浅川さんが庇ってくれたんだよ。特殊な設定の装置を移設して汎用として使用するのはいかがなものとか。生産管理部の装置の管理方法に大きな問題があるとか。まともに金をかけていないのにトラブルの時だけ強い口調になるのも恥ずかしい。ちゃんとお金をかけて打ち合わせをしている葵さんの部署の対応がこんなことで後回しになってしまうのであれば生産管理部に対して抗議しますって毅然とした態度で言ってくれたんだ」


 仁科さんがその時の様子を教えてくれる。

 浅川さん……そんなことを言ってくれたのか。


「いつもはふわふわしている葵さんだけど、締める所は茜さんっぽくて双子だなぁって感じがしたよ」


「まぁ実際、あそこの部署はちょっとこっちが下手(したて)に出過ぎていた関係だったしね。私達の落ち度とY社の落ち度で半、半。こっちは顛末書の提出。あっちは使えなくなったデータに対しては何も求めないって方向に出来たのは浅川さんのおかげね」


 本当に良い人だな……。

 きっと仁科さん達が浅川さんと深く接して信頼関係を構築しているからだろう。

 その期待を失うわけにはいかない。もっと引き締めないとな。


「っと……浅川さんに連絡しよう」


「所長も仁科さんもお疲れ様です、これで気持ち良く盆休みを迎えられますね」

「もう、まだ1週間あるわよ。でもほんと良かったわ」

「はい。あたし……このチーム、本当に良いって思ってます。みんなで協力して足りない所を補いあえる……最高ですね」


「そうね……。このチームに亀裂が入らないことを祈るのみだわ」


 うーむ、うーむ。


「どうしたの花むっちゃん」


 うん、いや……その浅川さんに電話を御礼を言ったそれは良かったんだけど……。

 これを話していいのかな……。まぁいいか。


「何かさぁ、浅川さんとデート……違う、食事のお誘いをされたんだけど……どうしよう」


「は?」

「へぇ、へぇ。……良かったですねぇ。浅川さん、美人さんですもんね。おめでとうございます」


「仁科さん、九宝さん……何か怒ってない……?」


「ねぇ、さっそく亀裂入ること言わないで欲しいんだけど」


 所長にため息を吐かれてしまった。

 いや、冗談抜きでどうすりゃいいんだこれ……。

 成人してから女性とお出かけなんてしたことないぞ、マジで。


 今度こそやばいかもしれん。


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