60 男、花村本社へ行く
株式会社フォーレス。本社は東京にあり、日本各地に営業所が存在する。
今日俺は本社からの呼び出しにより新幹線に乗って本社へと出向くことになった。
浜山駅はのぞみが止まらないので泣く泣く1時間に1本のひかりで行くことになる。
呼び出しといっても悪いことではない。そもそも所長と俺はそこそこの頻度で本社に行く。
所長は当然、役職付きだから。昨今はWEB会議の発達で必ずしも出向く必要はなくなってきている。
しかし俺は元設計・開発チームだったこともあり、装置トレーニングの教育担当も業務として兼任してたりする。
結構、本社にいるメンバーは部署の兼任が多い。
そんなわけで俺は時々本社に呼び出しがかかることがある。
実機を触る必要があるので本社に行くってことだ。
……転勤してるんだから俺じゃなくてもいいと思うんだが引き継ぎとか諸々考えると呼んだ方が楽なんだろうな。
5年目というある程度知識があって若くて動ける人間ってのは重宝される。
来年は新人教育にも少し携わっていくと言われたので若い社員達とふれ合う機会も増えるのだろう。
去年の九宝さんのような圧倒的にかわいい子がいたらテンション上がるんだろうなぁ。
ま、プライベートで話しかけることはまずないけど。
そうこうしている内に本社へ到着。
転勤して以来の本社でほんのちょっと懐かしさを感じながら本社ビルの中へ入っていく。
今日の目的であるトレーニングチームの面々と打ち合わせをして、今後の計画についてもどうしていくか十分に話合った。
しかし、本社は肩が凝るなぁ。
本社に所属していた時はそうでもなかったけど、浜山SOと比べると上役の目があるために気が引ける。
浜山へ転勤する直前は鬼の美作所長に恐れをなしてかなりびしっとしていたけど、最近かなり砕けてしまっている。
仕事に使うスーツは気を使っているが、通勤にはもはや私服だし、正直あの空気に慣れてきたので最近だらけてしまっている気がする。
っと次の目的地到着だ。
「お疲れ様で~す」
「おお~、花村じゃねぇか」
「おつかれさまです!」
「元気にやってるか?」
おお、素晴らしい男性密度。設計・開発チームの業務ルームは慣れ親しんだ場所だ。
やっぱり落ち着くなぁ……。
浜山は女性しかいない営業所だし、女性担当者の案件も増えていて、四六時中気を使いっぱなしなんだよなぁ。
やはり古巣の設計・開発チームの男ばっかの職場って感じがして心地よい。
「浜山ってどーなんだよ。田舎かぁ?」
「まー、田舎ですねぇ。車を使わないとどこにも行けませんよ」
「風俗とかいってんのかぁ? 浜山にあるか知らんけど」
「あるにはあるみたいですよ。転勤してから行ってないですけど」
「花村さんがいなくなって、マジで業務破綻っすよ。はよ、戻ってきてください」
「雑用は俺と君でやってたからなぁ。ま、頑張れよ」
わらわらと集まってくれて、わいわいと話をする。
俺は4年間ここの部署で働いていたんだよなぁ。
しんどい時も楽しい時もたくさんあって……転勤して去ってしまうと寂しいと思ってしまうものだ。
「で……噂の浜山の美女集団はどーなんだよ」
「最高っす」
一つ一つ彼女達の素晴らしさを説明するわけにもいかないのでまとめることにした。
浜山の美女3人は本当に注目度が高く、その女の園に交じってしまった俺がいろいろ聞かれるのは仕方ないこと。
「元気にやってるみたいだな」
「おつかれさまです!」
元所属のチームリーダーが現れて近づいてきた。
思えばこの人が浜山への転勤を命じてきた所から全てが始まったように感じる。
「浜山から大量の引き合いがあって、設計するの大変だぞ。おまえも手伝え」
「しっかり設計してくださいよ。指示書は俺も所長もしっかりチェックしたので大丈夫だと思いますが」
この設計への指示書というのがやっかいなものである。
顧客が求めるものを書き記し、装置の仕様を決めて設計へぶん投げる形とする。
当然フルスペックが理想だが、そんなもので出したら莫大な費用が発生する。
顧客の予算都合なども合わせて見積や指示書を作らねばならない。
そして出来上がった設計指示書が変なものになってないかどうかもちゃんと見ないとならない。
「しっかし、美作さんか。ほんとすげーな、彼女が来てからテスモの受注すげーもんな。上は関東や関西へ彼女を送る計画をしてるらしいぜ」
「そうなんですか!?」
「ま、しばらく浜山だろうけど。それだけ会社は美作さんに期待してるってことだ」
そりゃそうか……。所長は幹部候補と呼ばれる人だし、浜山の小さな営業所で収まる器ではない。
もっと大きな営業所で指揮を取って、ゆくゆくは課長、部長クラスで上がっていくのだろう。
でも……所長がいなくなった浜山SOはまったく想像できない。
少なくとも1年以内にどうこうは無いと思うので……今はできることをやっていこう。
そしてその日の夜。
「おつかれ~~~!」
同期達と飲みに行くのだ。