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58 サマー・ビーチ・レクリエーション⑬

「来たわね」

「はい」


 早朝、いきなり所長に呼び出されて、多人数部屋に行くことになる。

 発散しすぎてくっそ眠いのに……。

 これはまさしく事情聴取ということだろう。来るんだろうなと思ってはいた。


 九宝さんと仁科さんが顔を紅くして俺を見ている。

 昨日のこと、どれだけ記憶をしているのか……。起きてたらもっと騒ぎになってたと思うから絶対に全部は覚えてないはずだ。


「花村くん、そこのベッドで寝ていたわよね」

「そうですよ」

「……でも朝にはいなかった。理由を教えてもらえるかしら」


 君ら3人が俺に抱きついてきたからだよって喉元まででかかったがそれを言うわけにはいかない。

 女性陣のメンツもあるし、俺自身の今後もある。

 正直やばかったが……いい想いをさせてもらったので何もなかったですませていいかなって思える。あと1ヶ月は昨日のネタで発散できる。


「寝ていたら九宝さんがベッドに潜り込んできてびっくりしたからですよ」


「っ!」


 九宝さんの真っ赤になって両手で顔を隠してしまう。

 ここはちゃんと反省してもらいたいため隠さずに言うことにした。


「まったく起きなかったので逃げるしかないと思って、逃げましたよ。それで? 別にみんなに危害が加わった事実はなかったと思いますけど」

「それだけならね……。私も仁科も陽葵も花村くんに抱きついている夢を見てね……。起きたら同じベッドで私達が3人いたからさ……」


 おう、正夢ですわ。


「私はトイレ行った後に陽葵に抱きついた記憶がちょっとあるのよ……花村くんがいたかどうかは覚えてないけど」


「そ、そんなことあるわけないじゃないですかー。それだったらベッドにいたままだったらよかったなぁ」


 棒読みで心にもないことを言う。


「そ、そうだよね。あたしね……。寝ている時にブラを外して投げるくせがあって、花むっちゃんは見てないよね」


 どんな癖だよって思うけど、頭にくらったわ。その豊満なバストを支えていると分かると昨日あれだけ発散したのにまた情が芽生えてくる……。


「そんなことしてたんだ……。気をつけなよ」

「うん」


 気付けば所長も顔を紅くしていた。

 所長も抱きついてきたけど、2人のような落ち度はなかったはず。


「私……言いにくいんだけど、普段は下着姿で寝るくせがあって」

「え」

「起きたら下着だけだったんだけど……花村くん、見てないわよね」


「見たかった!」

「え?」

「ごほん、だめですよ、いくら俺が奥手だからってそんな無防備なことしちゃ」


 くっそ! あの後、そんなイベントがあったのか。

 もうちょっと待ってたら所長の徐々に脱ぎ脱ぎして最後は下着姿になるという至高の光景が見られたというのに……惜しいことをしてしまった。

 いや、まぁ……あの時でも結構やばかったんだが。


「3人とも……気をつけてくださいね」

「はーい」


 3人は力なく頷いた。

 誰も覚えてないのであれば問題ない。常日頃真摯な対応をしているおかげで何とかごまかすことができた。

 こういう事情聴取を想定していたので考えておいて正解だったな。

 あとは……。


「あ、花村さん。スイートルームに忘れ物があったと思うんですけど」

「ああ、あれか」


 さすがに直でブラジャーを渡す気にはなれなかったので、紙袋に入れて持ってきて、九宝さんに手渡した。

 あとでゆっくりと確認してもらおう、って


 九宝さんは紙袋の中に手を突っ込み始めた。

 ここで回収するの!? いくらなんでも早い……。


「わたしの命の次に大事なものなのに部屋に置いてきたから大変だったんです。あれがないと何もチェック」


 うん、ブラジャーってそんな大事だったか? まぁ男だからその大事さは理解できないが。

 九宝さんは紙袋の中のものを見て、固まる。


 そして自分の胸に手をあて……気付いたような素振りを見せる。

 さらに顔が紅潮し、目尻に涙が浮かんできた。


 ああ……ようやく分かった。

 俺は多分、何かミスったんだろう。

 っていうかブラつけてないの気付かないもんなのか。


「ーーーーーっ!」


 九宝さんが言葉にならない声をあげた。


「あの……部屋に置いてきたのってなんだったの」

「すすすす、スマホです! わ、わ、わ……わたしの」


 あ、そういやベッドの下に転げ落ちてたな。

 そっちはまだ部屋に置いたままだった。


「花村くん……」

「俺、憤ってもいいですか」

「あなたの行動は完璧に近かったわ。最後に詰めが甘かったようね」

「……」


 もうやだ……。

 とんだレクリエーション兼創作合宿だったが終わりをむかえることになる。

 ハァ……。何だか微妙な雰囲気のままチェックアウトして帰ることになった。


 帰りも俺が運転して、各々の家へ送っていく。

 帰りの順路として先に仁科さんを降ろして、その次は九宝さんという形で決めた。


 九宝さんを降ろす際、もじもじしながら声をかけてきた。


「花村さん、すみませんでした」

「いいよ、これからは気をつけよう。明日からはいつも通りだ」

「はい!」


 九宝さんとも変な関係にならず……安心した。


 最後に所長を送るために、車を走らせる。

 ここで降ろしてお勤め完了だ。所長のマンションの駐車場に到着した。


「送ってくれてありがとね」

「いえいえ、じゃあ明日から、また宜しくお願いしますね」


 今の所長はメイクもばっちりで美女スタイルだ。すっぴんもかわいいけど、所長の良さは大人っぽさがあってる。

 明日からはいつも通りの出社だ。


「ふふ、そうね。それよりどうだった陽葵のブラは……何色だった?」

「うーん、白かったですね。俺の心みたい」

「あの子、Cカップだっけ」

「ブラにはD65って書いてましたよ」

「へぇ、しっかり見てたのね」

「くっ!?」

「男の子なんだからいいんじゃない。舐めたりとかしなきゃね」


 別のブラを頭に被さったけどね。


「昨日と今日ありがとね。あなたのおかげで私も仁科も陽葵も楽しめたと思うわ」

「あはは……そうだといいんですが」

「じゃあ、これ車代ね。じゃ、おつかれさーん」


 ばっと封筒を渡されて、所長は手を振り帰っていった。

 別に車代なんて……と思って封筒を開いたら1万円札と1000円札が数枚ずつ入っていた。

 ちょ、え、まじ!?


 差し引きすると俺が払った金額は仁科さんや九宝さんが払った額に車代が抜かれた額だった。

 つまり、所長があのスイートルームの代金を払ってくれたことになる。

 俺が遠慮すると思ってこのタイミングで返してきやがったな!

 そういえば誰も俺が5万払った後に何も言わなかったのは……口裏を合わせていたのかもしれない。 

 こういう結果になるなら始めから4人部屋に泊まるべきだったな。


「くっそ、最後にこんなことするなんて……。やっぱかっこいいなあの人。マジ尊敬するわ……、同性の後輩できたら同じことしよ」


 このお金は別の機会にお返しすることにしよう。

 まずは所長の大好きな【同天】を更新してそれを御礼の一つにしますか!


 一夏のレクリエーションは終わり、明日からまた日常が始まる。

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