55 サマー・ビーチ・レクリエーション⑩
「もう一回言ってもらっていいですか」
「花村くんってちんちんがイライラすることある?」
今の言葉、録音して、次の月曜日の朝礼で公開したいなと思った。
それはそうと俺は頭を抱える。少しだけ酒が抜けてきたのもあるのかもしれない。
「そのフレーズはあたしも気になってたなぁ」
「仁科さんも言ってみてよ」
「い、いやだよ……ち……、恥ずかしくて言えない」
「乙女ぶってるんじゃないわよ。私なんて来年に妹の子供のオシメ替える予定なんだからちんちんくらいどうってことないわ」
「それはわけが違うと思います」
「で、どうなの。花村くん、教えなさいよ」
「……」
「あ、あたしも気になるかな」
仁科さんも所長もぐいっと体を前に出す。
もう言ってやろうかな。
今の状況がイライラすんだよってさ!
仁科さんもそうだけど、所長もかなりラフめな格好だ。ショートパンツにボタンシャツときている。
酒を飲んで体が熱いのかボタンをかなり緩めており、さっきから胸の谷間が見えて仕方ない。
仁科さんは仁科さんが暴力級のものが揺れてるし、俺の視線はどうしても泳いでしまうんだよ。
顔見ても胸みてもイライラするこの状況……。目に毒だ。
「結局、性的に興奮するとかそんなんですよ」
「つまり今、仁科の胸を見て……イライラしていると、触りたくてイライラしてると」
「所長、飲み過ぎです!」
「は、花むっちゃん。その……心に決めた人にしか触らせないのでだめです!」
「触る気はもともとないから……」
ああ、もう何かみんな酒が入っておかしくなってきた。
こうなりゃお酒の入ってない九宝さんに……ってさっきからずっと黙ったままだった。
側にいる九宝さんに視線を向けると……うつらうつら……していた。
「九宝さん、眠い?」
「……」
「ああ、陽葵ちゃん。今日ずっと書いてたから眠気が限界なんだと思う」
「じゃあ、もういい時間ですし、お開きに」
「何言ってるの。まだ話は始まったばかりよ」
「ええーーっ、でも九宝さんは寝かせてあげた方が」
「寝かせればいいじゃない。あなたが取った部屋があるでしょ」
俺が5万を出した部屋を差し出せと言うのか……。
なんつーことを……。
だけど九宝さんはもう限界だ。仕方ないか。
「じゃあ、部屋に連れていきますよ」
と思ったけどどうやって運ぶんだ。
もう意識がないからおんぶも難しいし……。
「花むっちゃん、お姫様だっこだよ!」
「え、まじ?」
「良いわね。ちょっと創作で使いたかったし参考にするからやってみてよ」
「気楽に言ってくれますね」
横に寝転ばせた九宝さんの背中と膝下を持ち上げる。
やり方としてはかなり無理やりなんだけど、俺の筋力なら問題ない。
というより九宝さんが軽すぎる。
「花むっちゃん、ゴー! ゴー! でも変なとこ触っちゃだめだよ」
「花村くん、10分以内に戻ってこないと陽葵に性的いたずらしたって認識するから」
2人とも覚えてろよ。絶対今日言ったこと後悔させてやる。
お姫様だっこなんて初めてだなぁ……。
しかし眠り姫というか……九宝さんの寝顔、最高にかわいいな。
俺の手にかかるこの長い黒髪。ずっと見て触り続けたい気にさせられる。
だめだ……早く行かなきゃ。
スイートルームに戻った俺はすぐさま、ベッドに九宝さんを寝かせた。
一応起きた時のために元部屋のカードは九宝さんの寝間着のポケットに入れておく。
「うぅ……」
黒髪ロングの美女がベッドで眠っている。
ここには俺以外に誰でもいない……。
こんな状況、こんな状況……。
「しかし……いい寝顔だな」
何となくだけど、彼女は傷つけてはならない。
そんな気持ちが芽生えてくる。九宝さんがお嬢様っぽい容姿をしているからかもしれないな。
ベッドの上で長い黒髪ロングの広げている様を見るとどうしてもね……。
写真撮っておきたくなるなぁ。いかん、それもやめとこ。
「じゃ、お休み……九宝さん」
電気を消して、俺は部屋を出た。
再び大部屋の方に戻ってくる。
さてと酔っ払いどもから……次はどんなアホな質問が飛んでくるやら……。
でも無防備な姿が見れるのはわりと男として役得である。
いじられつつもそういう所で得しないと割に合わないよな。
「ただいま~。じゃあ続きを」
「ぐーーーーー」
「ごーーーー」
「寝てんのかい!」
そんなわけでこんな状況で寝かすわけにはいかないので、2人を無理やり起こして……寝支度させて、夜遅くまで続いた創作合宿は終わりを迎えたのであった。
さすがに九宝さんのいる部屋には戻れないので、この部屋のベッドを使わせてもらうことになる。
女性と一緒の部屋で寝るってのに抵抗はあるが、この2人の今の姿を見てたら女扱いする気にもなれないし、普通に寝れそうだ。
いびきとか寝言とか大丈夫だろう。
さ……お休み。
◇◇◇
「ふわぁ」
九宝陽葵は突如目覚めた。
「苦しい……」
乱れた着衣を普段の寝ているスタイルに変えて、ゆっくりと立ち上がる。
「といれ」
陽葵は今も夢心地で半分寝ていると言ってもいい。
昨日も寝落ちした状態で十分な睡眠を取れていない。
トイレに行きたかったために中途半端に覚醒した状態だった。
フラフラと陽葵は歩き、扉を開ける。
しかしそこはトイレではなく部屋の外であった。
間違えたと思った陽葵は戻ろうとするが、ホテルの部屋はオートロックで戻れるはずもない。
陽葵は欠伸をしながら、隣の部屋へいく。
寝間着のポケットにはルームキーが入っていたためそれを翳して部屋の中へ入った。
速やかにトイレをすました陽葵はよろよろとベッドの所へ行く。
チェックインした時に誰がどのベッドを使うかは決めていた。
陽葵はトイレから一番近いベッドであることを思い出し、そのままそこへダイブしたのであった。
そしてそのまま寝息を立て始めた。
「なんじゃああ!?」
そこに花村飛鷹が寝ていることも知らず。