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54 サマー・ビーチ・レクリエーション⑨

「今から創作会談を行います」


 すっかり元に戻った所長が取り仕切る。

 すっぴんだと高校生ぐらいの女の子がガヤガヤ言っているようにしか見えない。

 まぁ、そんなこと口に出せないけど。


「お昼の時にやってたじゃないですか」

「あそこは他の人もいるレクリエーションルームだったからあまりうるさくできなかったからね」


 仁科さんが補足するように言う。

 十分うるさかったように見えたが……。


「なるほど……で酒を入れるんですね」

「とーぜん!」


 多人数用の部屋には4つのベッドと大きな机が置かれている。

 もともとこうやって飲み食いしながら宴会するのが目的なんだろう。

 女性陣3人でお酒やツマミなどは購入したようだ。さすがに5万の部屋に泊まった俺を気遣ってくれたのかもしれない。


 ホテルの売店で買ったやつなので缶ビールに缶チューハイがほとんどだった。

 ツマミのセンスも男が選ぶのとちょっと違うなって感じがする。


「かんぱーい」


 美女3人に男が俺一人。

 俺が一流の狼なら飲ませまくって頂きますをするんだろうけど、そんな勇気はまったくないので3人が酔い潰れたらさっさと逃げ出せるようにしておかないとな……。


 こういう宴会でエロに発展することはエロラブコメでよく知っている。

 ま、現実で起こるとは思えないけど。

 いや、むしろ3人に襲われる可能性があるのか……。それはドMの俺にはご褒美でしかないな……。


「今回は花村くんもいることだし、やっぱり男性目線での情報が欲しいわよね」

「そうですね。やっぱりピンとこないことも多いですし、花むっちゃんにはいっぱい聞かせてもらうから」


「お手柔らかにね」


 俺は飲み過ぎないようにしないとな……。うっかりお米炊子であることを話したり、彼女達に手を出さないように律しなきゃならない。

 水着でも耐えた俺の強靱の精神力なら余裕とも言える。


「じゃあさぁ」


 缶チューハイをすでに2本空けた仁科さんがうつむき加減で見つめる。


「やっぱりヒロインって巨乳がいいの?」

「ごふっ」


 吹きちらしてしまった。

 それはどういう……。

 俺は自然と仁科さんの目線の下にいってしまう。

 ゆるゆるのTシャツから豊満なお胸がちらり……。彼女が動くたびにそれは形を変えていくのだ。

 俺はぐいっとチューハイを飲みほした。

 よし、酒が入った、言える。


「貧乳派も多いけど、やっぱり見栄え的には大きい方がいいじゃないかな」

「だよねぇ。お米炊子先生のヒロインもみんな巨乳だもん」

「お米炊子先生はおっぱい星人だもん。仕方ないわよ」


 やめよ、それは俺に効く。

 所長もビール3缶目だ。結構なペースで飲んでいく。


「おら、花村くん、仁科のおっぱいばっか見ないの!」

「み、見てませんよ」

「え、さっきから視線感じるよ?」

「すみません!!」

「もういいよ。自覚してるし……男の子だから仕方ないって割切ってるし」


「さすがHカップね。片方で2キロぐらいあんの?」

「H!?」

「そんなに大きくありません! 1ランク小さいです! 花むっちゃんも凝視しない!」


 みんな酒が入って、性のセーブがあやふやになっているな……。

 実際の所……聞きたいことがあったりする。今の流れなら聞けるか?


「実際やっぱり胸が大きいと視界とか遮られるの?」

「花むっちゃん……?」

「いや、ごめん! ちょ、ちょっと本当にそうなのかなって思って」

「まったくもう、正直邪魔って思うよ。所長くらい……Eカップぐらいが良かったですね!」


 え、そんなブラのカップって普通にバラすもんなの!?

 しかしやはり視界が遮られるのか……。これは良い話が聞けた気がする。さっそく創作に生かそう。


「大きすぎるのは無駄よね。やっぱりちょい巨乳ぐらいがいいもんよ」

「所長は胸じゃなくて身長が伸びたら良かったですね」

「オラッ、仁科! ケンカ売ってんかぁ!」


 酒が入ってるからもう言いたい放題だ。

 所長も今はすっぴん童顔だから粋がっててもかわいいしかない。


「でも~~」


 酒が入って、顔を紅くした仁科さんが猫撫で声を出す。

 この声がたまらなく良い。


「もっと読まれたいなぁ……。陽葵ちゃんも所長も何だかんだ文章力あるじゃないですか。あたしなんか全然底辺ですよ」

「ネットで見たんだけどさブックマークが100件以下は底辺作者って言うらしいわ」

「ええー。そうなんですか。あたし、最大でも70なんです……。全然ブクマ増えない」

「ふっふーん、一応200はあるから勝ってるわね」

「くそーー」


 その略称もどうかと思うけど……人は基準を設けたがるもんなぁ。


「ブックマークはランキング入りしないと増えないだろうね。所長のラブコメジャンルはランキングの下限がそんなに高くないから入りやすいんだと思うよ」

「そうなんだ」


 仁科さんが新しいチューハイの缶を開ける。


「あと異世界ファンタジーはランキングの下限が高いからね。1日にそれなりに評価をもらわないとランキング入りできない。ランキングさえ入ればブックマーク100は超えられると思うよ」


「ふーん」


「あとはキャラクター……魅力的な主人公はそうだけど。やっぱヒロインだね。巨乳なのはもちろんとして、ギャップだよ。クールな女の子がふいに見せる可愛らしさ……そこがいいよね」


「花村くんはどういう時にぐっと来るの?」


「そうですねぇ。例えばクールで表情を変えない女の子の脇を舐めて、ひゃんとか言わせて顔を真っ赤にさせるのが好きです」


「あはは、花むっちゃん、お米炊子先生みたい」


「あばちゃ!?」


 酒の飲み過ぎでガードが甘くなってしまった!

 何で女性陣に自分の性癖をバラしてるんだ! お米炊子だって言ってるようなものじゃないか……。


「花村くんはお米炊子先生と同じ性癖ってわけね。巨乳、腋舐め、あとは……何があったかしら」

「お米炊子先生の書籍全部持ってきてるので解析しましょうか。お米炊子先生の全てを解き明かしましょう」

「おい、やめてください」


 なんて意味のないことをしやがる。

 話題を変えよう


「ら、ランキングの話に戻りましょうか。仁科さんがランキング入りするにはどうすればいいか」

「やっぱり短編作りまくって評価が伸びた奴だけ連載すべきかな!」


「それも手だけど……あまりやりすぎるのは……」

「でも底辺の私達にはそうでもしないとあの強者が集うランキングで勝ち抜けしない」


「あ……あのー。そんな打算的じゃなくて……もっと作品のクオリティを上げた方がいいんじゃ」


「花村くん、その考えは甘いわ」


 わお、そのサイトで6桁のブックマーク作品を持つ俺が甘いって言われちゃったぜ。


「仕事でも趣味でもそう。時間は有限である以上、取れる手段は取るべきだわ。世の中は目まぐるしく動いているの。先手を打たなければだめよ」


「まぁ……一理ありますわね」


「私達はいつまでも書けるわけじゃない。仕事が忙しくなれば趣味に講じる時間は取れなくなる。だから……やれるときにやるってのは大事なことなの」


 それはその通りだ。

 俺はいつまでも作家活動ができるか分からない。

 仕事を辞めて副業一本の手ではあるが、この仕事は安定していて土日休みでボーナス支給もある。慣れてくると人間関係も決して悪くない。何より今は最高の美女達と仕事が出来ている。

 そういう意味で副業と本業をどっちを捨てると言われると副業の方を捨てる選択肢の方が強かったりする。


 だけど……可能な限りは副業にも全力をつくしたい。

 全てを手に入れるのは時間と労力的にずっとはできない。やはり所長はそのあたりのことを潜在的に理解しているのだろう。


「そんなわけだから私も聞きたいことがあるのよ。まったく理解ができなくて、今日の機会に花村くんに教えてもらいたかった」

「所長……」

「だから花村くん、教えてくれる?」

「ええ、俺でよければ何でも」

「じゃあちんちんがイライラするってどういう意味なの?」


 やっぱ酒飲んでるとみんなアホになるな。


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