モテない陰キャ平社員の俺はミリオンセラー書籍化作家であることを隠したい！ ～転勤先の事務所の美女3人がＷＥＢ作家で俺の大ファンらしく、俺に抱かれてもいいらしい、マジムリヤバイ！〜

53 サマー・ビーチ・レクリエーション⑧

「ひー、凄かったなぁ」

　シーサイドホテルのスイートルーム。

　やはり１泊５万だけあって……最高仕様となっていた。

　普段は５０００円くらいのビジネスホテルしか泊まったことないからその差に愕然とする。

　テラス付きバルコニーに海を展望できるお風呂、ベットも大きいし……金かかってるわぁ……。

　大金払って泊まっているのでしっかり満喫することにした。

　風呂で体を綺麗にして、寝間着に着替える。

　いつも下着姿で爆睡するので寝間着なんて使わないが……こんなこともあろうかと持ってきておいてよかった。

「……」

　そしてスマホの方には所長から1時間後に合宿するので部屋に集合って連絡が来ていた。

　業務命令だとよ。給料出るんだろうな……。

　ま、いいか。向こうの美女３人の風呂上がり姿を見れるわけだから決して悪いことではない。

　ゆっくりと目の保養をさせてもらおう。

　部屋を出て、隣の多人数部屋をノックする。

「はい」

　九宝さんの声だ。

「花村だけど、入って大丈夫？」

「みんなお風呂上がったので大丈夫ですよ」

　扉が開くと黒髪ロングのめんこい女の子がピンクのルームウェアに身を包んでいた。

　危うくひょえっと声が出そうになったが耐えた。

　よし、俺は大人だ。照れて褒められないなんて弱っちいキャラのままでいるわけにはいかない。

「お～、九宝さんの寝間着かわいいね」

「へっ、あっ……。変じゃないでしょうか」

　非常に良く似合っている。頬をぽっと赤くする姿は可愛さで溢れていてたまらない。なんかお貴族様っぽい……って元社長令嬢か。

　水着姿にお風呂上がりの姿に……ドキドキされっぱなしだな。

「男性にこの姿を見せるのって恥ずかしいですね……」

「あはは……まぁそれは仕方ないさ」

「合宿は中止、絶対に花村くんを入れちゃだめよ！」

　突然の所長の声。

　あまりの事にびっくりしてしまう。

「えっとでも……」

　部屋の奥から声が聞こえる。応対してるのは仁科さんだろうか。

「多分、そろそろ来るから陽葵に伝えて！」

「もう、来ましたけど」

　来いと言ったり、来るなと言ったり、ちょっと腹が立ったので静止される前に乗り込んでみる。

　さすがに着替え中とかではないはずだ。着替え中なら九宝さんは部屋に入れない。

　だから……問題ない。

　そう思っていた。

　部屋の中にいる所長と対面するまでは。

「あ……」

「あ」

　そこにいるのは滅法可愛らしい顔立ちのした……美女、いや美少女とも言えるような女の子だった。

　その子をじっと見つめる。

　なんだこの子、所長に似ている。

　ぱっと見た感じ所長の妹のように見える。なるほど、所長の妹がここに紛れ込んでいたのか。

　ってそこで終わるのがよく書く鈍感ラブコメ主人公の１シーンである。

　でも常識で考えると妹なわけがない。

「……美作所長ですよね」

「い、いやああああああああ！　見られたぁ、すっぴんを見られたぁ」

　そこで俺は理解する。

　美作所長はビーチでも絶対に海に入ろうとしなかった。

　仕事中も今日一日、ずっとばっちりメイクをした状態でしか見たことがなかった。

　この姿が美作所長のすっぴんなのだろう。

　所長は恥ずかしそうに顔を隠して……枕に顔をあてて隠れてしまった。

「……遅かったね」

　仁科さんがはぁっと息を吐く。

「花村さんは所長の素顔を見たことなかったんですね」

　まー、すっぴんなんて親族彼氏彼女の関係でもなきゃ見ることもないからな。

　仁科さんも九宝さんもメイクは落としているようだが、普段のメイク姿とそこまで変わらない。

「絶対男にはすっぴんを見せないって心に誓ってたのに……。私ったら」

　そんな誓い立てなくても……。

　化粧は女の戦装束ってのはよく聞く話だし仕方ないとも言える。

「男と思わなかったらいいんですよ」

「え？」

「部下で年下……俺のことを弟と思えばいいんです。弟だったらすっぴん見せて問題ないでしょ」

　我ながら苦しい話だが……これで気まずい関係になっても嫌だ。

「そうですよ、所長！　花むっちゃんもおねーちゃんって呼んであげて」

「それはちょっと意味わかんないかな」

「花村さん、ほらっ！　所長は弟モノ大好きな人ですから案外いけると思いますよ」

　そんな新情報を今言われてもな……。九宝さん、かなり失礼なこと言ってるけど自覚あるのか？

　お姉ちゃんは恥ずかしいだろ。別に俺はショタでも美少年でもないんだぞ。２６才のアラサーに片足つっこんでるんだぞ。

　ほらって声をかける仁科さんに根負けし、所長に声をかけた。

「お、お姉ちゃん。い、一緒にお話しよ」

　我ながらキモい……。

「ぐすっ……いいけど」

　所長がひょこっと顔を出した。

　いけた？　まさかいけたのか……。

　所長が顔を背けながら近づいてきた。

「しょ……いや、お姉ちゃん」

「できれば１６０センチくらい、黒髪クールで斎○みつき風の低音少年声の男の子がいい」

「注文多いっすね！」

「はぁ……何かどうでもよくなってきたわ」

　所長も落ち着いてくれたようだ。

　しかしまぁ……メイクを落とした所長……マジで美少女だな。

　２８才とはとても思えん。

「メイクした所長はすごく綺麗ですけど、今のままでも……十分じゃ」

「……」

「正直、仁科さんや九宝さんより若く見えますよ！」

　その時両足に激痛が走る。

「ぐはっ！」

　足を踏んできた両隣の女性を見ると笑っているけど目が笑っていなかった。

　これは失言だった。

「私は所長だからね。こんな童顔で……仕事取れると思う？」

「そ、それは……」

　メイクをばっちり決めて流暢に喋る様は浜山SO所長、美作凛音の真骨頂に思える。

　客先にプレゼンしに行くのに童顔で行くわけにはいかない……。そうだな、その通りだよな。

「すみません……。失礼なことを言ってしまいました」

「まぁいいわ。今更メイクするのも面倒だし……、ただし私のすっぴん姿は今日限りで忘れなさい」

「え、そんなにかわいいのに!?」

「っ！　ばっ！」

　しまった。思わず素で言ってしまった。

　所長の顔が見る見る赤くなる……。

「所長は美人とか綺麗とか言われなれてるけど……かわいいは耐性低いから」

「仁科！　わざわざ説明しなくていい」

　顔を紅くして怒る所長の姿に思わず笑みが零れてしまう。

　これはかわいいな。

　みんなの隠された一面がこの休暇でたくさん見られて楽しいな。